第六章「カケラの再生」
登場人物
この章で描かれるのは、それぞれの現実を抱えながらも「夢のカケラ」をもう一度拾い上げようとする仲間たち。
彼らの声や選択が、やがて一つにつながり、
大きなステージへの道を照らしていく。
・咲
物語の語り手。夢を拾い、言葉にして届ける配者。仲間の物語をまとめ、外の世界に広げる役割を担う。
・ナナミ
シングルマザー。子どもを育てる現実の中で夢を諦めてきたが、咲や息子の言葉をきっかけに、再び「服を作る夢」に向き合う。
・アキト
元ひきこもりの青年。白紙のノートを前に「やりたいことリスト」を書けずにいたが、小さな一歩を踏み出す。
・ミナト
教師。教壇を降りた後、寂しさを抱えながらラジオ配を始める。咲の言葉で「声の力」をじ、やがて仲間の夢をつなぐMC的存在へ。
・クロダ
「カケラ屋」を営む男。不用品や遺品を回収する中で、物に宿る思い出や夢を拾うことに気づく。仕事を超えて「夢を回収する人」となっていく。
第六章「カケラの再生」
プロローグー咲
ナレーション
夜の街を歩きながら、私はスマホを握りしめていた。
"夢はひとりで拾うより、仲間と拾うと強くなる”。
コメントやDMの言葉が、その証拠になっていた。
今夜は、ナナミ、アキト、ミナト、クロ
ダーー。
仲間の声をつなぎ、一つの物語にする。
それは武道館へ向かうための、最初のステージだった。
6-A:ナナミ編
一母として、ひとりの人として
ナレーション
配のコメントに、見覚えのある名前があった。
テキスト(コメント)
<母親でも、もう一度夢を見てもいいのかな>
ナレーション
やり取りを重ね、私はナナミに会うことになった。
ワンルームの隅には小さなミシンが置かれていた。
ナナミ
「昔は服を作りたかった。でも...母になったら、夢は贅沢だと思って」
咲
「母だから諦めるんじゃなくて、母だからこそ始められることもあると思う」
ナレーション
ナナミは静かにミシンに指を置いた。
数日後一ー。
息子
「ママ、これ、夢みたい!」
ナレーション
小さなワンピースを着た息子の笑顔に、
ナナミは泣かずに笑った。
その笑顔は、ひとりの母であり、ひとりの女性としての光だった。
6-B:アキト編一やりたいことリスト
ナレーション
白紙のノートとボールペン。
アキトはDMで言った。
アキト(DM)
<まだ書けない。小さなことでも、
ボクには大きすぎる>
咲(DM返)
<一つでいい。思いついたら、教えて>
ナレーション
その夜、アキトからメッセージが届いた。
アキト(DM)
<面接、行けた。店長に"よく来たね”って言われた。
これが嬉しくて.....初めて、ボクも居ていいのかもって思った>
ナレーション
まだ白紙でもいい。
一行目は、彼の心の中に確かに書かれたのだから。
6-C:ミナト編 一声でつなぐ場所
ナレーション
教壇を降りてから、ミナトはずっと寂しかった。
代わりに始めたのは深夜ラジオ配。
最初はリスナーひとり。だが少しずつ常連が増えていった。
ある夜、私はDMを送った。
咲(DM)
「ミナトさん。声には救われる人が必ずいます。
それが一人でも届けば、もう"夢を拾うステージですよ」
ナレーション
その言葉を読み返した夜、ミナトはマイクの前に座った。
ミナト
「こんばんは、今夜は夢の話をしようと思います」
ナレーション
赤いランプが灯り、声はまた誰かの
夜を照らしていった。
彼はまだ知らないーーこの声が、やがて武道館で仲間をつなぐMCとなることを。
6-D:クロダ編ーカケラ屋の悟り
ナレーション
依頼先の女性は、古いオルゴールを抱えて言った。
女性
「これだけは.....娘に弾いてあげたから」
ナレーション
その瞬間、クロダの胸に夜の歩道橋での青年の声がよみがえった。
悠人(回想)
「それは捨てられたモノじゃなく、
"想い出の抜け殻”」
ナレーション
クロダは看板を外し、新しい板を掲げた。
看板
『カケラ屋一不用品・遺品・夢の回収一』
ナレーション
夢メモ第一号。
<娘に弾いてあげた。今度は誰かの始まりに鳴ってほしい>
瓶に入れられた紙片は、小さな光を放っていた。
6-E:咲のまとめー配信と波紋
ナレーション
ナナミのミシン、アキトの白紙のノート、ミナトのマイク、クロダの夢メモ。
仲間たちの映像を編み込み、一本の動画に仕上げた。
画面タイトル
「カケラの再生」
ナレーション
公開ボタンを押すと、すぐに反応が返ってきた。
コメント欄
<おさがり服、ほしい>
<やりたいことリスト、私も書きます>
<先生の配信、聴いてみたい>
<夢メモ、祖父のカメラでやってみました>
ナレーション
ライブ配で仲間たちが並び、それぞれが夢を語った。
咲「ここは語るステージの一枚目です。
次はーー場所を広げます」
ナレーション
コメント欄には「武道館!」の文字が溢れた。
夢はまだ途中。
けれど拾い上げた欠片たちは、確かに光を放ち始めている。
役割のまとめ
この章では、仲間それぞれが自分の中に眠っていた
「カケラ」を拾い直した。
その再生は、彼ら自身の人生を照らすだけでなく、咲の配信を通じて外の世界にも広がっていく。
・ナナミ:"母”であることと"ひとりの人"であることを両立させる再生。
・アキト:白紙から一歩踏み出す勇気。“居ていい”という自己肯定の再生。
・ミナト:教壇を離れても、声でつながる新しい伝え方を見つける再生。
・クロダ:物だけでなく夢を扱う「カケラ屋」
としての再生。
・咲:仲間の物語を束ね、発信することで"夢を語るステージを準備する存在。
そして、四人の再生は"カケラの再生”としてひとつにつながり、次の挑戦一一社会に夢を広げる
「クラウドファンディング」へと続いていく。