第四章 拾った夢を言葉にして届ける
【登場人物】
・咲
売地下アイドル。迷いながらも、「夢のカケラ」を拾い、自分の言葉として発言し始めた女性。
・青年(自転車のゴミ拾いの男)
咲に「夢を見失っても、拾うことで少しずつ戻ってくる」と語った人物。直接の登場はないが、咲の行動を後押しした存在として影響を与える。
・視聴者たち (SNSコメント)
咲の動画を受け取り、それぞれの人生に小さな変化を感じた人々。彼らの声が、咲の決意をさらに確かなものにする。
第四章 拾った夢を言葉にして届ける
夜の歩道橋での出会いから数日。
咲の中で、何かが確かに動いていた。
あの青年の言葉。
「夢、見失ってて。でも拾ってると、
少しずつ戻ってくる気がするんです」
彼のあの言葉が、今でも耳の奥で響いている。
咲は、スマホをテーブルに置いた。
電源を入れて、動画編集アプリを立ち上げる。
街灯の光に照らされた青年の後ろ姿、
拾い集めた缶やペットボトル、
そして...階段をのぼっていく姿。
その映像は、奇跡のように静かで、やさしかった。
「届けたいな、この気持ち」
咲は小さくつぶやいた。
それは、誰かのためじゃなかった。
まず、自分自身のため。
拾った夢を、"言葉にして”届けることで、
自分の気持ちに形を与えるためだった。
スマホの前で、咲は深呼吸する。
録音ボタンを押し、ゆっくりと語りはじめた。
「私は、ある夜、ひとりの青年に出会いました。
自転車で街を走りながら、ゴミを拾っている人。
"夢を見失って、でも拾ってると、
自分が戻ってくる気がする"
そう言った彼の言葉に、
私は心を動かされましたー」
録音が終わると、
咲はその声と映像を合わせて
一本の動画に仕上げた。いつもより手が震えた。
これは、ただのコンテンツじゃない。
心から生まれた、自分の"夢のカケラ”だった。
翌日。動画をYouTubeに投稿し、
Xにもシェアした。
タイトルはこう付けた。
『夜の歩道橋で出会った、もう一人の夢』
最初は、数人の「いいね」だけだった。
でも、数時間後、コメントがつき始めた。
・「泣きました。自分も夢を諦めていたけど、
また拾いたくなりました」
・「最近落ちてばかりだったけど、
この動画を見て、歩こうと思いました」
・「自分のことを、
少しだけ好きになれた気がします」
咲はスマホの画面を見つめながら、涙がこぼれた。
あの時、自分が声をかけなければ。
あの時、動画にしようと決めなければ。
そして、言葉にしようと思わなければ一
こんな風に、誰かの心を揺らすことはなかった。
拾った夢は、自分ひとりのものじゃない。
言葉にして届ければ、
それはきっと、誰かの"未来”に変わる。
夜の部屋。咲はスマホをそっと置き、
窓の外を見上げた。
月が、少しやさしく微笑んでいた。
【この章の役割まとめ】
・咲の決意
ただ"拾う”だけではなく、「言葉にして届ける」という行為に踏み出す。
・表現の始まり
動画編集・配信という手段を通じて、咲自身が「夢を伝える人」へと変わり始める。
・共鳴の連鎖
SNSに届いたコメントが、「拾った夢は誰かの未来に変わる」という物語のテーマを現実化する。
・光の拡張
夜の月がやさしく微笑む描写は、夢が静かに広がっていく象徴となっている。
・物語の推進
咲が「配信者」として覚悟を固めたことにより、次章以降で「より大きな舞台(武道館)」へつながる伏線が敷かれる。