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第三章 出会いと気づき

登場人物

さき

主人公。元地下アイドルで、今は「夢のカケラ」を拾い集め、語る存在へと歩み出そうとしている。

・青年(自転車の男)

街を自転車で回りながらゴミを拾っている。

夢を見失った過去を持ち、拾う行為を通して「自分を取り戻そう」としている。

・クロダ (初登場)

不用品・遺品回収業を営む中年の男。通称

「カケラ屋」。ゴミを「想い出の抜け殻」として受け止める哲学を持つ。

第三章 出会いと気づき


夜の風が少し涼しくなった気がした。

仕事の帰り道、咲は無意識に足を

引きずるように歩道橋を登っていた。

疲れがたまっていたわけではない。

ただ、心の奥に渦巻く"もや”のようなものが、

彼女を重くしていた。そんなときだった。

階段の途中で、

何かが引っかかっている音が聞こえた。

前方に視線を移すと、青い自転車が斜めに止まり、男の人が命にそれを押し上げている。

カゴには段ボール、ペットボトル、缶。

ゴミのように見えるそれらが、

なぜか光って見えた。


「...大丈夫ですか?」

咲は思わず声をかけた。


男は少し顔を上げ、困ったように笑った。

...あ、大丈夫です。


「これ、ゴミ拾いしてるだけなんで」

咲は一瞬、言葉を失った。


「え?ゴミ拾い?」

男はうなずいた。


「はい。...人生、ちょっと見失っちゃって。

自分を立て直したくて、

いま、自転車で街を回りながら、

落ちてるゴミを拾ってるんです」


「…これ、誰かが大切にしてたもの

だったかもしれませんよね」

彼がぽつりと言った。


その瞬間、咲は思った。

(この人も、"夢のカケラ”を拾ってるんだ)

自分だけじゃない。


失って、壊れて、それでも前に進もうとする人が、ちゃんとこの世界にはいる。


咲はスマホを取り出した。


カメラを構えるわけでも、

録音するわけでもなかった。

ただ、その瞬間を心に焼きつけた。


...あなた、すごいですね」


「そんなことないです。...でも、ありがとう」

彼はまた、少し照れたように笑った。


咲の胸に、なにかが「カチン」と鳴った。


彼の言葉が、心の奥のどこかに突き刺さった。

「見失ってるって...」


「昔は夢があったんですけどね。

今は何がしたいのかもわからなくて。

でも、こうしてゴミを拾ってると、

少しずつ“自分が戻ってくる”気がするんです」


咲は何も言えず、ただ見つめた。


自転車の荷台に積まれた段ボールの中。

そこには、つぶれた缶や、空のペットボトルが、

きれいに並べられていた。


「じゃあ、そろそろ行きますね。

まだこのあと、もうひとつ橋を越えたいんで」

「うん...気をつけて」


階段を登っていく後ろ姿。

荷台の段ボールが、

街灯に照らされて少し輝いて見えた。


咲はそのまま、しばらく立ち尽くしていた。

夜空の下。

誰も気づかないような、ささやかな出会い。

だけど、それは咲にとって確かに、


ひとつの「光」だった。


夢は、どこかに落ちているんじゃない。

だけど、夢を拾おうとしている人の姿は、

誰かの夢になることがある。


第2部:クロダとの出会い


ナレーション:

しばらく歩いた咲は、公園の端にある小さなべンチに腰掛けた。

ポケットから取り出したのは、さっき青年が荷台に並べていたものと同じー一潰れた空き缶。

指先で転がしながら、彼女は深く息を吐いた。


(.....私は、何を拾っているんだろう)

街灯に照らされた缶の銀色が、ちらりと光を返した。

その光をぼんやり眺めていたとき、視線の先にふと一台の軽トラックが目に入った。

古びたその車体には、手描きでこう記されていた。


『カケラ屋一不用品・遺品回収ー何でもやります』

その下に、小さく添えられた一行があった。

『夢の回収も承ります』


ナレーション:

トラックのそばで片付けを終えた様子の男が、

ゆっくりと咲のほうへ歩いてきた。

作業用ツナギに軍手、頭には白いタオル。

年齢は中年ほど。だが、その目はどこか穏やかで澄んでいた。


クロダ:

「......嬢ちゃん、その缶、じっと見てどうした?」


ナレーション:

咲は少し驚いて顔を上げた。


咲:

「あ.....いえ。ただの缶です。でも.....誰かの夢の、かけらのように思えて」


ナレーション:

クロダは小さく笑い、咲の隣に腰を下ろした。


クロダ:

「いい目をしてるな。それを“夢”って思えたなら、大したもんだ」


ナレーション:

彼は缶を拾い上げ、ゆっくりと手のひらに乗せて

語り始めた。


クロダ:

「俺はな、毎日"ゴミを拾って回ってる。けどその中には、恋人と別れた夜に捨てたアルバムや、二度と開かれない日記もある。

それは、ただのゴミじゃなく......!

想い出の抜け殻”さ」


ナレーション:

咲は小さく目を見開いた。


咲:

.....ただのゴミじゃ、ないんですね」

クロダ:(うなずきながら)

「そうだ。ゴミってのは、捨てられたあとも物語が続くんだ。拾った誰かが、その続きを作っていく」


ナレーション:

その言葉に、咲の胸が熱くなった。

彼女はもう一度、手のひらの缶を見つめた。

ただの潰れたアルミ片だったはずのそれが、

ほんの一瞬、光を反射して輝いて見えた。

胸の奥に、じんわりと温かいものが広がっていく。


章の役割まとめ


・咲の迷い

「自分は何を拾っているのか?」と問い直し、

胸の奥の"もや”が形を帯び始める。

・青年との出会い

夢を見失った人間が、拾う行為によって自分を取り戻そうとする姿を見て、咲は「夢を拾う」という行為の意味を実感する。

・クロダの哲学

「ゴミニ想い出の抜け殻」「捨てられたあとも物語が続く」という視点が導入され、作品全体の"拾うことの意味”が一段深まる。

・光のモチーフ

缶や段ボールが街灯の光に反射する描写を通じて、

「拾う行為が夢を照らす光になる」という象徴が生まれる。

・次章への伏線

咲は"拾った夢を言葉にする"覚悟へと歩み出す

前段階に立つ。

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