第二章:言葉にならない物語
[登場人物】
・咲
元地下アイドル。夢を見失いながらも、誰かに言葉を届けたいと願う女性。語り手。
・悠人 (ゆうと)
夢のカケラを拾う不思議な青年。祖父の言葉を胸に、「拾う」ことを通じて人の希望を見出している。
・悠人の祖父 (回想)
悠人に「夢は拾われれば希望になる」と伝えた存在。直接の登場はないが、人の価値観を形づくった人物。
第二章:言葉にならない物語
(場所は夜の帰り道。咲と人は並んで歩いている。互いに多くは語らないが、不思議と心地よい沈黙が流れている)
咲:
「ねぇ......なんでそんなふうに
"ゴミを拾おうって思ったの?」
悠人:
「うーん......なんでだろうね。でも、
小さい頃、おじいちゃんに言われたことがあって。」
(咲が横目で彼を見る。
悠人は少し照れたように微笑む)
悠人:祖父
「"夢ってのは立ち止まってもいいし
変わったっていい
以前、自分がやれなかったことを
誰かがやってたらそれを応援してあげる
それが誰かの希望になる”」
ナレーション
(咲の心に、さっき拾い上げた
濡れたタバコの吸い殻が浮かぶ。
今もポケットの中に、静かに入っている)
― 静かな夜のつぶやき ―
夜の公園を後にして、咲はスマホの画面を開いた。
「夢を拾うか、考えたこともなかった」
そうつぶやきながらも、指先は自然と
メモアプリを開いていた。
──今日、あの少年が言っていた言葉。
「それは捨てられたモノじゃなく
、“想い出の抜け殻”」
文字にして残すと、不思議と胸の奥が少し温かくなる。
何度も見返してしまうのは、忘れたくないからだろうか。
駅前の広場に出ると、夜風に混じって
酔客の笑い声が遠くから響いていた。
ふと、咲は小さく鼻歌をこぼす。
それは意識して歌ったわけではなく、
胸にたまった思いが自然と音になったものだった。
──声に出すと、心が軽くなる。
気づけば、少しだけ大きな声になっていた。
駅の階段を降りていた女子高生が足を止め、振り返る。
自転車を押していたサラリーマンも、ほんの一瞬だけ立ち止まる。
誰も拍手はしない。
けれど、その一瞬の視線に、咲は胸を締めつけられるような熱を覚えた。
(……届いた?)
照れくさくなって歌をやめると、周囲はまた何事もなかったように動き出す。
けれど咲の中では、確かに“何か”が残っていた。
帰宅すると、机の上のペットボトルやレシートが目に入った。
ただの生活の残骸にすぎないはずなのに、
どこかで「これも夢のカケラかもしれない」と思っている自分がいた。
咲は深く息を吐き、スマホのカメラをそっと向ける。シャッター音が静かな部屋に響いた。
【この章の役割まとめ】
・咲の心の変化
ただ受け取るだけだった「夢のカケラ」を、自分も「語り直す」ことができると気づき始める。
・悠人の背景
祖父の言葉を通して、「夢は誰かが拾えば希望になる」という哲学の由来が示される。
・配信という舞台装置
咲が再びスマホを手に取り、「夢のカケラ配信室」を始めることで、彼女自身が夢を語る側へ踏み出す。
・モチーフの継承
吸い殻を入れた小瓶が映り込み、「ゴミではなく、想い出の象徴」として物語に継続する。
・物語の推進力
「言葉にならない気持ちを言葉にする」というテーマが咲に宿り、次章以降の彼女の行動原理となる。