第一話:光のカケラ
「夢なんて、もう見ない」
そう心を閉ざした元地下アイドル・咲。
ある夜、公園で"ゴミを拾う少年
”悠人と出会った瞬間、
壊れた夢は再び"光のカケラ”へと姿を変えていく。
そして二人は、武道館を目指すことになる。
第一章 光のカケラ
ナレーション:
夜の公園。冷たい風が吹き抜ける中、
咲はぼんやりと足元を見つめていた。
落ち葉に紛れて、何かがキラリと光る。
しゃがみ込んで拾い上げると、
それは雨に濡れたタバコの吸い殻だった。
紙がふやけ、火の痕が黒く残っている。
だがその瞬間、街灯の光がわずかに反射し、
それはまるで宝石のように一瞬だけきらめいた。
ナレーション:
咲の胸に、ふっと温かな風が吹いた気がした。
何かが「これを拾ってよかった」と告げているような、不思議な感覚。
ゴミのはずなのに、なぜかーー今の自分に必要な何かに思えた。
咲(心の声):
「……こんなものに、なんでこんな気持ちになるんだろ。」
(そのとき、街灯が一度だけ強く瞬いた。影が伸び、風が落ち葉を揺らす。背後からカサリ、と落ち葉を踏む音が聞こえた)
咲ははっとして顔を上げる。
公園の隅、月明かりの下で何かを拾い集める少年がいた。
地面に落ちたゴミを一つひとつ、
まるで宝物を扱うように丁寧に拾い上げている。
咲(声):「……何してるの?」
悠人:「ただ、ゴミ拾いをしてるだけだよ。」
(悠人は少し考えてから、咲が手に持つ
タバコの吸い殻を見て、微笑む)
悠人:「それ……誰かがひと息ついた証かも。
夢を諦めた直後かもしれない。」
咲:「……なんでそんな風に思えるの?」
悠人:「“夢のカケラ”って言葉、聞いたことある?
昔、あるテーマパークで、キャストさんが捨てられたゴミをそう呼んでいたらしい。
誰かが落としていった“夢の残り香”かもしれないって。」
咲:「ゴミじゃなくて?」
悠人:「うん。“夢のカケラ”って、
時々ゴミに見えることがあるんだよ。」
咲(心の声):
「夢のカケラ……?聞いたことない。
でも、なんだろう……少しだけ、あったかい。」
(少年が振り返る。年齢は咲より少し下だろうか。柔らかな雰囲気で、穏やかな目をしていた)
(悠人が咲の持つ吸い殻をそっと手に取る。
彼の手の中で、吸い殻がわずかに光を帯びていく。
次の瞬間、それは小さなキーホルダーへと
姿を変えた。街灯の下で淡くきらめき、
表面に不思議な紋様が浮かび上がる。)
悠人:
「これは夢のカケラだから。拾って集めて、
次の誰かに渡すんだ。
夢を壊さないように、ちゃんと片付ける……。
でもそれってきっと、“夢ってものが目に見えなくても、確かにある”ってことなんだと思う。」
ナレーション:
咲は息を呑んだ。
目の前で起きたことが現実なのか、
ただの幻なのか分からない。
けれど確かに胸の奥で、何かが小さく震えていた。
◆【この章の役割まとめ】
・咲の視点
夢を見失った彼女が、ただの吸い殻を拾った瞬間に
”不思議な感覚”を覚える。
夢を捨てた自分と、誰かが捨てた夢が重なる瞬間。
・悠人の哲学
「ゴミ=夢のカケラ」と語り、夢は姿を失っても
残り香として生き続けることを示す。
彼の言葉が咲の心に初めて小さな光をともす。
・ 光のモチーフ
街灯や月明かりに反射する吸い殻やキーホルダーが、宝石のように見える。
現実と幻想をつなぐ象徴として"光”が提示される。