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ジンデレラ

作者: 田柄 満

 むかしむかし、大層ジンが好きなジンデレラという娘が住んでいました。ジンをベースにカクテルを作らせたら、村一番の腕前と評判の娘でした。


 ある日ジンデレラにお父様が言いました。

「今日、新しいお母さんが来るよ」と。

 いや、聞いてねえし。ジンデレラは思いました。

「お母さんがいなくて寂しそうなお前を見かねてな」

 そう言うとお父さんはジンデレラの頭を撫でました。

「お前を『かわいがって』くれるというので、一緒になろうと決心したんだ。」

 ジンデレラは『かわいがって』が二重鉤括弧で括られているのが気になりましたが、お父様が言うならと喜びました。

「二十代でDカップの元CAじゃよ。フォフォフォッ」

 お父様は新しいお母さんのスペックをスマホで見てはニヤニヤしておりました。

 ジンデレラはお父様が最近マッチングアプリにハマっていたのも知っていましたし、二十代で元CAと言うところに不自然さを感じましたが、賢いので黙っていました。

「そうそう、おまけに新しいお姉さんもふたり連れてくるよ」

「げ、連れ子か(小声)!?」

「何か言ったかい?」

「いえ、なんでもありません」

 ジンデレラはお父さんに抱きつくと「お父様ありがとう!」と何度も言って誤魔化しました。


 やがて、ジンデレラの家にお母さんがやってきました。

 二十代とはとても思えない肌の小皺が目立ちました。『お父さん騙されてる!』みんなが思いましたが、お父さんが可哀想なので誰も追及はしませんでした。    

 二人の姉もモビルスーツで例えるなら……ドム?って感じでした。


 ジンデレラはお母さんを歓迎するために腕によりをかけ、ジンバックというカクテルを作りました。ジンジャーエールの爽やかな口当たりと甘味がとてもマッチしたカクテルです。


「お母様のためにつくりました……」


 そっとカクテルをカウンターに置きます。

お母さんはジンバックを一口飲むと、眉間に皺を寄せました。グラスの中を床にぶちまけると「こげんとは飲まれん!」と怒鳴りました。

お母さんは鹿◯島の人だったのです。


「焼酎ば つうて こしぇんせ!」


 そう言って、焼酎の一升瓶をカウンターにドンと置きました。

 初めて見るお酒にジンデレラは悩みました。

「失礼します」そう言うと、ほんのちょっとだけ試飲しました。口の中に豊穣な甘みが広がります。


ジンデレラは、ピンときました。


 ジンデレラは、磨き上げられたシェーカーを細く長い指でしっかりと握り、まず、焼酎を静かに注ぎました。透明な液体がシェーカーの底に広がります。

「焼酎の次は…クレーム・ド・フランボワーズです。」

 返す手で赤紫色の木苺のリキュールをボトルから注ぎます。焼酎の半分ほどの量が艶やかに重なり、甘酸っぱい香りがふわりと立ちのぼってきました。


「次はコアントローです……」


 ダブルジガーにコアントローを満たすと、それをお母様の前で高く掲げました。


「オレンジの ええ かぜん しちょっなぁ!」


お母様は目を細め、コアントローの芳醇な香りに魅了されました。ジンデレラは優雅にシェーカーへとコアントローを注ぎ入れます。

「そして、グレナデンシロップ……」

 華麗な指捌きで、鮮やかな赤色の液体をひと筋、シェーカーの中へ滑らせます。ザクロの深みのある甘みが、中の素材を優しく包み込みます。

 ジンデレラは最後にレモンジュースを加え、氷をたっぷりと投入しました。

 シェーカーの口をしっかりと押さえ、冷たい金属が指先に馴染んだ瞬間、ジンデレラは美しい手つきでシェーカーを振り始めます。


シャッ、シャッ、シャッ——。


 氷と液体が混ざり合う心地よい音が部屋に響きました。

 リズムよく手首を回し、縦に、横に、柔らかくシェーカーを振るたびに、シェーカーの中のお酒は踊るように混ざっていきます。

 ジンデレラは時折、シェーカーを頭の後ろで投げて反対の手でキャッチしたり、背を向けたまま肩越しにシェーカーを落として受け止めるなど、華麗なフレアバーテンディングの技を披露しました。

 ジンデレラのパフォーマンスを見るたびに、お母様は目を輝かせ、興味深そうに見入っていました。


 氷の冷たさが金属に伝わり、シェーカーの表面が白く曇り始めます。


「ふふっ、ちょうどいい頃合いね。」


 ジンデレラは一瞬の静寂の後、シェーカーの上部を軽く叩いて、滑らかに蓋を外しました。

 細かく砕けた氷とともに、ルビーのように艶めくカクテルが、グラスへと静かに流れ込みました。


「さあ、お母様。お口に合いますでしょうか。」


 ジンデレラは自信満々に微笑みながら、完成したカクテルをそっとお母さんに差し出しました。


 お母さんは、ジンデレラが作ったカクテルをそっと口に含み、目を丸くしました。


「こいは うんまか酒じゃっど!焼酎と ほかん酒の甘みが ちょうどよかごつおうて、のんだら しあわせになっど〜!」


 何を言っているのかはよくわかりませんが、お母さんは気に入ってくれたようです。


 うんまか酒を こしぇらる ジンデレラは、お母さんや ド……お姉さんたちに まこて かわいがられて、しあわせに 暮らしもしたっど。


めでたしめでたし。

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