コックピットの決定と軍曹の意外な一面
「本題に戻る。コックピットの製作だ」
田中軍曹は、スクリーンに映る設計図を指しながら話を続ける。
「カブレラ技師と検討した結果、一体型が最適だと判断した」
画面には、特機のコックピット設計図が映し出されている。
そこには、前方にメイン(岩村)、後方にサブ(水沢)が搭乗するレイアウトが示されていた。
「ただし、これはあくまでも私たちの検討結果だ。変更もできるが、どうする?」
――なるほど。
確かに、これまでの座学の知識と照らし合わせると、一体型にはメリットもデメリットもありそうだ。
儂は、素直に疑問を口にした。
「メリットやデメリットはありますか?」
田中軍曹は腕を組みながら、少し頷いて説明を続ける。
「メリットは、即時に指示を伝えられ、素早い対応が可能なことだ。メインとサブの距離が近ければ、連携のタイムラグがなくなり、瞬時の判断ができる。戦場では、コンマ数秒の遅れが生死を分けることもある。そういう意味では、一体型は非常に合理的だ」
――確かに、それは大きな利点だ。
サブがすぐ後ろにいるなら、通信のラグもなく、直接声で指示を受けられる。それなら、戦闘中の連携が格段にスムーズになるだろう。
「デメリットは、サブパイロットの負担が大きくなることだ」
――あぁ、やっぱりな。
「前方は確実に計器などで埋まるため、メインパイロットが直接周囲の状況を確認するのが難しくなる。つまり、戦場の全体把握や細かい情報管理は、サブパイロットが担うことになる」
儂は、ちらりとアキラを見る。
アキラは腕を組みながら、少し考え込んでいたが、すぐに軽く頷いた。
「ふむ……でも、それなら私が前に出て確認すればよくない?」
田中軍曹が即座に返す。
「メインの邪魔になりかねん。コックピットでメインが全方位を確認する際、サブが前方にいると視界の邪魔になるし、サブの役割を果たせなくなる」
――なるほど。
確かに、戦闘中にメインが状況を確認しようとしたとき、サブが前にいると視界を塞ぐ可能性がある。
しかも、サブは計器の情報を整理してメインに伝える役割がある。前に出ると、それが疎かになりかねない。
「だから、基本的にはメインが操縦と攻撃に集中し、サブが後方で状況整理と情報提供を担当する。この役割分担が最も効率的だ」
「ふむ……そういうものか」
アキラは少し考え込んだあと、納得したように頷いた。
「つまり、私が後ろにいることで、メインの負担を減らせるわけね。じゃあ、それでいいよ」
「決まりだな」
田中軍曹が確認を取るように言う。
「岩村、水沢。この形式で最終決定していいな?」
儂とアキラは、視線を交わしたあと、同時に頷いた。
「はい! このままで問題ありません!」
「了解。では、この検討をもとにコックピットの製作を進める」
田中軍曹が端末にデータを入力し、設計を確定させる。
スクリーンには、正式なコックピット構造の図が映し出され、最終決定のマークが付与された。
「これから試作機の調整に入るが、最初のテストにはお前たち自身も関わることになる。体操服に着替えて、技研に行く準備をしておけ」
――ついに、コックピットの実作業か。
設計が決まったからには、あとは実際に作り、細かい調整を加えていく段階になる。
ここからは、実機の操作感や使い勝手を確かめながら、より最適な形に仕上げていくことになるはずだ。
「了解しました!」
儂とアキラは、同時に返事をし、立ち上がった。
次の段階に向け、気を引き締めていくしかない。
――いよいよ、パイロットとしての“実践”が始まる。
「着替えました!」
アキラが戻ってきた。急いで着替えたのか、髪がぐしゃぐしゃになっている。
――まあ、いつものことか。
儂がそんなことを思っていると、田中軍曹がすっと手を挙げた。
「水沢。少し待て」
アキラがピタッと足を止める。
「せめて、髪ぐらい整えろ」
そう言いながら、軍曹はポケットから小さな櫛を取り出した。そして、何の迷いもなく、アキラの髪をとかし始める。
――え?
予想外の行動に、儂は思わず目を見開いた。軍曹、そんな繊細な動きもできるのか!?
アキラも驚いた様子だったが、されるがままになっている。軍曹の手は慣れたもので、無駄のない動きでサッと乱れた髪を整えていく。
――脳筋だと思ってましたが、どうやら違ってました。ごめんなさい。
厳しいだけの軍曹かと思っていたが、こんな細やかな気遣いができるとは。どこか、子供に櫛を通す母親のような雰囲気すら感じる。
「よし、これでいい」
軍曹はサッと櫛をポケットにしまい、何事もなかったかのように前を向いた。
アキラは一瞬、きょとんとしたあと、ポンポンと自分の髪を触る。
「……ありがとうございます?」
「身だしなみは基本だ」
田中軍曹はそれだけ言って、さっさと技研に向かって歩き出した。
儂とアキラは、目を合わせて無言のまま頷き合い、その後ろを追いかけた。
――田中軍曹、やっぱり底知れない人だな。
そんなことを思いながら、技研へと向かう儂だった。




