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む〜ん、どうしたもんかねと長財布をテーブルの上に置いて腕を組んでみた。
なんか断る暇もなくサインしてしまって財布を渡された。
まったく予期してない出来事だった。
ピエールと名乗った外国人のおじさんは一方的にしゃべって財布を押しつけてピュ〜っといなくなった。
あっ、まさかとは思うがあとから財布の代金請求とかって•••ないか。
サインだけだもんな。
住所とかその他のことはわかってないしな。
本当に名前だけだもんな。
それだけじゃどこの誰だかわからないか?
たしか10万円を入れてセットしてくれって言ってたよな。
セットってなんのことだ?
まぁ、今は10万円ないので明日になる。
銀行でおろして手持ち現金と合わせれば10万円にはなる。
翌日。
朝は部屋でごく簡単な自炊。
ネットで求人の検索をやってみる。
良さげなのがあるが給料がちょっと。
他にも良いなぁと思われる求人があるが年間の休みが少ない気がする。
なかなかバランスのよい求人ってないんだなとこの頃になって気づいた。
こう毎日見ていると会社同士の比較も見られるようになってきた。
昼になったので外に出る。
昼は外食することにしている。
じゃないと外に出なくなってしまうからだ。
外に出たついでに銀行口座から現金を引き出した。
これで手持ちの現金と合わせれば10万円を超える。
部屋に戻って長財布に10万円を入れてみた。
これでいいのか?
しばらく待ってみたが何も起きない。
いや、むしろ起きないほうが普通だ。
俺はなにをやってんだろうとテーブルに置いた財布に触れた。
これって材質はなんだろう?
皮とかビニールってわけじゃないよな。
ゴムとかプラスティックとも違うし、なんか肌触りというか質感が生き物みたいだ。
色にしたって純粋にまっ黒って感じでもないんだよな。
不思議だ。
ピエールが大慌てで帰らなければならなかったため恒明は説明をまともに受けてなかった。
契約書にはしっかりと10万円ということで自分のサインもしている。
この生きてる財布に1度でも10万円を入れて覚えさせればセット完了。
そんなことを知らなかった恒明だったが偶然にも自力でセットしてしまっている。