佐藤さんと天井君のデートで砂糖菓子を食べに行くまでのラブストーリー ~オタク彼女には気をつけろ!byオマケ編~
絶食系のアラフィフが現代恋愛小説を書くという暴挙に挑戦してみました。(@^^)/~~~
しいな ここみ 様 主催の『砂糖菓子みたいなラヴ・ストーリー企画』参加作品です。
橋から身を乗り出して、川を見ていた。
国道沿いの大きな橋。田舎なので道路を走る車はまばらだ。当然、歩道を歩く人もいなければ、独り言を咎める人は誰もいない。
「あーあ、全部オレの勘違いか」
彼女との出会いを思い返していた。
佐藤と初めて会ったのは高校の入学式直後。たまたま、くじ引きで隣の席になったのが彼女だった。第一印象は、なんかオドオドした女の子だなだった。
オレは中学校の陸上部でマイナー種目に目覚めた。そのため、競技の設備のある地元から離れた高校に進学した。
友達どころか顔見知りすらいない高校。少しでも知り合いを増やしたかったオレは、彼女との会話の糸口を探した。
そして机の上に開かれたノートに、手書きのイラストを見つけた。
「なあなあ、そのキャラは佐藤が描いたの?今、放映しているアニメのだよな?オレもそのアニメが好きなんだけど佐藤も?」
「えっ天井くんも?これOPがカッコいいよね!!それに主人公のライバルである○○くんを演じる声優さんが原作の世界観とピッタリでさ。ていうか、私のイラストでよくわかったね?」
目をキラキラさせながら好きな事を語る彼女に、少しドキッとした。
「あっいや、それだけ似てれば誰でもわかるよ。絵が上手いんだな」
そういうと、途端に真っ赤になって黙り込んでしまった。それを見てつい可愛いなと思ってしまった。
それから佐藤とは、たびたびアニメや漫画の話をするようになった。
気が付いたときには、常に彼女を目で追っているようになっていた。遅すぎる初恋に落ちたオレは、なんとか佐藤と接点を持とうとした。しかし、アニメやマンガの話には饒舌になる彼女は、自分のこととなるとピタリと口を閉じる。
部活は漫画研究会という事は知っているが、どんな漫画を描いているかも分からない。
オレは今まで部活ばかりで、恋愛なんかしたことはない。だから、どうやってアプローチしていいかも分からない。
中学時代に悪友に勧められたギャルゲーで、女心を学んでいたつもりだったけど実践では役に立たない。
MAINの連絡先は交換できたけど、スタンプ一つ送れない。
進展がないまま時だけは流れ、オレは焦っていた。
そんななか、オレは部活の練習を終え帰ろうとした時グラウンドの隅でノートを拾った。
たまたまページが開いており見てみると、見覚えのある佐藤のタッチで棒高跳びのイラストが沢山描いてあった。
この学校で、棒高跳びをしているのは俺しかいない。つまり佐藤は……
嬉しくなったオレはさっそく自分も好きだと告げ交際を申し込もうとした。
教室に入ろうとすると、佐藤と隣のクラスの登呂と喋っていた。たしか、同じ漫研だったはず。
「スケッチブック見つかった~?」
「とっトロちゃん……そっそれが……」
間延びした登呂の質問に焦った声をあげる佐藤。思わず手元に視線をむける。声をかけようとしたが、登呂の次の言葉に出来なくなった。
「だめだよ~。棒高跳びの資料が欲しいって最初に許可取らなきゃ。マンガを描くのに使うんですって。天井君に知られたらびっくりされちゃうよ~」
えっ?マンガの資料?
じゃあ、あのスケッチは、オレが目的じゃなくて棒高跳びの資料が欲しかったから?
思わず、手に持っていたスケッチブックを落としてしまった。
バサッとした物音に、佐藤と登呂が振り向く。慌てて、何でもないふりをしながらスケッチブックを拾う。
「あっ、ごめん。手を滑らしちゃって。これ、グラウンドの隅に落ちてた」
多分、不自然になってる笑顔を向けながら二人に近づき声をかけた。
何か言いたげな佐藤の手に押し付けるようにノートを渡す。反応をみるのが怖かった俺は、佐藤の呼び止める声を振り切り教室を飛び出した。
全部オレの勘違い。己惚れてた自分がとてつもなく恥ずかしかった。
脱力した気分のまま家に帰ろうと学校を出た。
橋の上に差し掛かったあたりで足が止まった。欄干にもたれながら、ひたすら川の流れを眺めていた。
「いたあああああ!!!」
どのくらい時間が経ったのだろう。回想に浸っていたオレは、突然の声で現実に引き戻された。
「勝手にモデルにしてごめんなさい。ストーカーでごめんなさい」
勢いよく走ってきて土下座せんばかりの勢いで、謝罪を繰り返すのは……
「……佐藤……!?」
彼女を息を切らしながら、喋り出した。
「あのね、中学の時に学校行事で陸上の大会の応援に行ったの。その時に天井君の棒高跳びを見たの。私って中学の時はもっと内気で、描いた絵を友達に見せる事すら出来なかったんだよ。だから、天井君がたった一人で競技に出場しているのをみてビックリしたんだよね。だって観客席全員が天井君に注目しているから。しかも、棒高跳びって凄い高く飛ぶよね。すごい勇気があるなとおもって。それで、私もせめて好きな漫画を頑張ろうと思って……」
延々と終わらない、オレに対する誉め言葉。
「それで、高校で天井君の隣の席になって焦っていたところに、話しかけて貰って舞い上がって……」
あの、入学式の頃の挙動不審は怯えていたわけじゃ無かったんだ!!
「それで、押しに出会えたのは運命だと勝手に決めつけて天井君を主人公に漫画を書き始めて……友達のトロちゃんたちには止められてたんだけど……。二次元と混同するなとか……せめて本人の許可を取りなさいとか……」
だんだんと声が小さくなる佐藤。心なしか表情が強張り青ざめている。
対して、オレはニヤニヤが止まらない。顔を見せるわけにもいかず、手で押さえ下を向く。
「……あっ天井君……」
オレの様子に勘違いし怯えているのか、言葉を詰まらせる佐藤。
表情を引き締め顔を上げた。
「えっと、佐藤はオレの事が気になってたってことで良い?」
「……はい……そうです」
消え入りそうな佐藤の声に、また顔がにやけそうになる。しかし、これから一番大切な質問をする必要がある。
「……その、気になるって漫画のモデルとしてだけ?……それとも個人的に好意があるとか?」
今度は佐藤が下を向いた。
「……ごめんなさい。私は……天井君に好意を持っていて漫画のモデルにしてました。……勝手にごめんなさい……」
耳まで真っ赤にして泣きそうな声の佐藤の声を聞き、オレは心の中でガッツポーズを決めた。
「じゃあ、オレと付き合ってください!!」
「えっ!?ええええ~!!!!」
オレからの交際申し出を聞いた佐藤の声は、群れていたカラスが一斉に飛び立つほど大きかった。
オマケ
「勝手にストーカーまがいな事してたお詫びは、ちゃんとしたいんだけど……」
すまなそうにする彼女。
「いいよ、そんな事気にしなくても」
好きな女の子からの付きまといなんて、寧ろご褒美である。自分の現金さにあきれる。
「あっじゃあ駅前のカフェでパフェをおごらせて貰えないかな。メープルと蜂蜜のアイス、それに琥珀糖のトッピングが名物になってるパフェ。今ね、フェアで生クリームも特盛になるみたいだよ!」
ヤッター!デートだ!!でも、確かパフェって高かったような……。
「えっと、全部おごりは流石に悪いから……」
「大丈夫!!推しキャラのフィギュアを買おうと貯めていたお年玉の残りがあるから!」
そうか、推しのフィギュアよりオレとのデートか。またもや顔がにやける。
「それにときどきメモリアルに、パフェを一緒に食べるみおちゃんのイベントあったもんね」
えっ?あれ?聞き違い!?
「……なんで、オレがギャルゲーのときどきメモリアルが好きなの知ってるんだ?」
キョトンとする佐藤。
「だって天井君のノートとか全部グリーンで、キーホルダーは眼鏡のミニチュアだし。みおちゃんのイメージカラーと概念グッズでしょ?」
そうだった!佐藤はオタクだった!!
「それに以前に交換したMAINのアイコンも、みおちゃんのイラストだったし」
……アイコン、変えてなかった~!!!今まで、男友達としかMAINしてなかったから~!!!!
「……佐藤……迷惑かけるけどごめんな……」
ぎこちないであろう笑顔で彼女に謝罪をつげ、振り向きそのまま橋の欄干へ手をかけた。
「天井君!橋から身を乗り出したら危ないよ!!!そこから飛び降りないで!(*>_<*)ノ」
「たのむ!オレをこのまま逝かせてくれ~!!!」
腰に回った佐藤の手の温かさに、ますます居たたまれなくなりオレは引っ込みがつかなくなった。
そうしてオレと彼女との押し問答は、巡回中のお巡りさんに見つかりこっぴどく叱られるまで続いた。
ちゃんと真面目に書いていたのですが、お笑い芸人の本性!?がでてしまい、ついオマケ話も付けてしまいました。
現代恋愛ジャンルをちゃんと書いたのは初めてでしたが楽しかったです。
企画主のしいな ここみ様、機会を設けて頂きありがとうございます。(*^▽^*)