小さなお話
暇つぶしにどうぞ。
母が病に倒れ、退職して看病することになった。
彼は「一緒に面倒を見よう」と、行ってくれたけれど、申し訳なくて。
結局その年の冬に別れた。
それから、母が亡くなり、父も病で儚くなった。
兄弟姉妹のいない私はひとりぼっちになってしまった。
再就職先を探していたら、元会社の先輩や同僚に会い、「うちにおいで」と、再雇用してもらえる事になった。
先輩は「頑張ったね」と言ってくれ、同僚は「助かった!クリスマスに休日出勤回避だ!」とおどけて見せた。
時期は秋。
また冬が来ようとしていた。
12月に入り、別れた彼の噂を聞いた。
何でも結婚するらしい。
「そうなんだ」と、納得はした。
胸が少し痛んだけれど、もう過去の事だから。
明日はクリスマスイブ。
同僚と先輩と何とか「今日中に仕事を終えよう!」を合言葉に頑張った。
おかげで、明日・明後日は何とか休みを取れることになった。
まぁ、もうすぐ「今日」なんだけど。
ともあれ、休み明けは定時で帰れる!それは嬉しい。
会社を出ると、人影を見つけた。
見たことのある姿。
「久しぶり」
「元気そうでよかった」
振り返ると、先輩や同僚は「私たち、これから一軒行くから」とさっさと居なくなってしまった。
「結婚するって?」
と、噂話を口にする。
「…うん。返事はまだだけど、その予定」
「おめでとう」
「ありがとう」
はにかむ彼。
「どんな方?」
「頑張り屋さんでね。ああ、待ち受けにしてるんだ。見るかい?」
ドクン、と心臓が跳ねた。
「ええ。見たいわ」
彼がスマホを取り出した。
「これが彼女」
「え」
「少しぐらい頼ってくれてもいいのに、一人で頑張っちゃうんだよね」
「これ」
待ち受けには私の写真。
彼を見る。
「君の家族になりたい。これからは少しは頼って欲しいな」
照れながら彼は私を抱きしめた。