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エルフの里 2

「それは無理な話というものだのう」


エルフの長老さんはそう言った。ニ百歳を軽く越えている年齢ではあるけれど、言葉はハッキリと伝わってくる。


ニーナさんと別れたあと、わたしたちはエルフの長老さんの自宅へと招かれていた。

その部屋には家具らしきものはほとんどなく、ソファーや椅子さえも見当たらなかった。長老さんもわたしたちも、ゴザのようなものの上に座り、対面していた。


「ダークエルフになれば、呪いは日々蓄積する。それが周囲に与える影響を考えねばならん。もう時間は残されていないのだ、ヴァネッサ」


ヴァネッサが長老さんにお願いしたこと。それはクライヴさんへ追手を放つことを、しばらく中止にしてほしいというものだった。


「でも、せっかくモフモフ召喚士を呼んできたんだ。アリサを、彼女を兄さんに会わせれば、もしかしたら元通りになるかもしれない」

「確証はないのだろう」

「それはそうだけど、試してみる価値はあるかなって思うから」

「アリサ殿がそう断言したわけでもないのだろう」

「で、でも」

「それでモフモフ召喚士が危険にさらされたらどうするというのだ。その責任をヴァネッサ、お前は負えるのか?」

「……」

「ヴァネッサ、おまえがクライヴを思う気持ちはよくわかった。だが、この決定は覆せない。諦めて運命を受け入れるのだ」


ニーナさんは言っていた。ヴァネッサはすでに覚悟を決めているみたいなことを。あれは本当のことなのかな。いまのヴァネッサからは、強い焦りみたいなものを感じられるんだけれど。


「ヴァネッサよ、ニーナとは話しはしたのか?」

「したよ。姉さんは無理だと言ってたけど」

「それはそうだろう。ニーナはハンターのひとりだからのう」

「え?」


ヴァネッサが愕然とした顔をする。


「自ら志願したのだ。家族の不始末は自分がなんとかするべきだと。その様子だと本人からは聞かなかったようだの」

「ど、どうして」

「ニーナは責任の強い娘だ。誰かに任せるくらいなら自分で片をつけたかったのだろう」


ハンターは追手のことだよね。クライヴさんを殺す役目を、ニーナさんは自ら望んで引き受けた。妹としてヴァネッサがショックを受けるのも当然だよ。


「ニーナなら充分に役目を果たしてくれるだろう。弓の腕前はお前も知っての通りだ。全ては彼女に任せ、ヴァネッサ、お前はここで休んでおくと良い」

「わたしは諦めたくない。兄さんはきっと救える。モフモフ召喚士なら、きっと」

「モフモフ召喚士か。たしかにモフモフには数多くの逸話が残されているが、少なくともいまのままではダークエルフには効果がないのではないか」

「どうしてそう言い切れるんだ」


長老さんはわたしのほうを見て言った。


「モフモフはまだ完全体ではない、そうではないか?」

「……え?」

「アリサ殿がモフモフ召喚士として認められて、まだまもないと聞く。であれば、モフモフ召喚士としてはまだ未熟と言えるだろう。隠された力にもまだ到達していないのではないのか」


長老さんは知ってるの?フィオナ迷宮に隠された力のことを?どうして?


ヴァネッサには伝えたけれど、里に入ってからはずっと一緒だったから、彼女から聞くタイミングはなかったはずなのだけれど。


「モフモフ召喚士の本物の力があれば、クライヴさんを救うことは可能なんですか?」

「すまないが、そこまでわしは知らんのだ。わしはあくまでもモフモフ召喚士が未熟なまま誕生し、フィオナの試練を乗り越えることで完全体として生まれ変わる、という情報を持っているだけだ。それがどんなものなのかまでは聞いていない」


長老さんはモフモフ召喚士の隠された力がなんなのか、具体的なことはわからないらしい。

それでも、一般には知られていないフィオナ迷宮のことを知っているというのは、驚きではある。遠く離れたこの地で、いったいどうやってそのことを知ったのだろう。


ーー聞いていない、と長老さんは言った。


この長老さんは、前回のモフモフ召喚士が生きていた時代も経験している。それならどこかで本人と接触した可能性もあるんじゃないかな。

わたしがいま、ヴァネッサに助力を申し出ているように、当時の長老さんも、前回のモフモフ召喚士から手助けをお願いされたのかもしれない。


「もしかして長老さんは、先代のモフモフ召喚士と会ったことがあるんじゃないですか?」


長老さんはしばらく何もない空中に目をやっていた。わたしの質問に答えるかどうかを悩んでいるというよりは、過去に思いを馳せているようにも見えた。


「ああ、そうだ。わしは先代のモフモフ召喚士であるサチと会ったことがある」

「サチ?」

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