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エルフ 3

わたしたちはエルフの女性ーーヴァネッサさんとともに自宅へと戻り、そこで具体的な話をすることにした。


わたしがモフモフ召喚士であることを改めて伝え、フィオナ迷宮という存在があって、それを攻略するためには、あなたの力が必要だということを説明した。


ヴァネッサさんはおとなしく聞いていた。酔いはもう、完全になくなったらしい。変な風に絡んでくることもなかった。


「そういうわけでヴァネッサさん、どうかわたしたちのパーティーに入って欲しいんです」

「呼び捨てで良い。堅苦しいのは嫌いなんだ。」


ヴァネッサはそう言って、隣に立て掛けてあった弓を手に取った。


「ドラゴンを倒すためにわたしの力が必要か。なるほど、ドラゴンの装甲の固さは噂には聞いたことがある。並大抵の武器では歯が立たないだろうな」


しかし、とヴァネッサは続けた。


「わたしが協力する意味が果たしてあるのか?そのメリットはどこにある?」

「それは、世界を救うという大義のために」

「それは人間側の論理だろう。エルフは基本的に、人間の争いには関与しない。関与するべきではないという決まりがあるんだ」

「これは決して人間だけの問題ではないんだよ。それで世界が混乱に陥ったら、エルフの里も被害を受けるんだよ」

「それが掟ってやつなんだよ」

「掟?」

「ああ。エルフの里では守らなければいけない決まりがいくつかある。そのひとつが人間の争いに関わるな、というものなんだ」


なんのためにそんなものがあるんだろう、とわたしは疑問に思った。やっぱり静かに暮らしたいから?


「じゃあヴァネッサ、あんたはどうしてこの街にやってきたんだよ。まさか、旅行というわけじゃないよね」


ララがそう聞くと、ヴァネッサはしばらく沈黙した。


「本来であれば、里を勝手に抜け出すことは許されない行為だ。それでもわたしはそうせざるを得なかった。ある目的があったからだ」

「その目的とは?」

「……兄さんの呪いを解くためだ」

「呪い?」

「わたしの兄さんーークライヴは、ダークエルフなんだ」


ダークエルフーーそれはエルフの里における禁忌を破ったものに与えられる、罰みたいなものだという。エルフにはいくつもの掟ーー決まりごとがあって、それを守りながら生きている。


けれど、エルフにもそれぞれ個性があって、そのルールに従えないものもいる。禁忌を破ったものは自然と呪いがかけられ、やがて里やその周辺を汚すような存在と化してしまうのだという。


「ダークエルフの存在は決して認められないものとされている。そうなった以上、エルフとして生きることは許されず、自ら命を絶つことが求められるが、兄さんはそうしなかった。里から逃げ出してダークエルフのまま生きることを選択した」


エルフの里では緊急会議が開かれ、クライヴさんを追跡して殺害することが決定した。それに納得できなかったヴァネッサは、人間界にまで行って呪いを解除する方法を探してくると里を出た。


「エルフの里にもモフモフ召喚士が誕生したという噂は聞こえてきた。モフモフには浄化作用があると聞いたことがある。その力を使えば、ダークエルフでも救えるかもしれない、そう思ったんだ」

「だから、エルトリアに?」


ヴァネッサはうなずいた。


「まさか、こんな簡単に会えるとは思いもしなかった。わたしは運が良い。てっきり、王都にでも保護されて優雅に暮らしているかもしれないとも思っていたからな。もしわたしの手助けが欲しいというのなら、まずはこちらの問題を解決してからだな」

「つまりヴァネッサ、あんたは自分に協力して欲しいのなら、まずはその兄さんを助けてからにしろってこと?」


ララがそう聞く。


「エルフが人間の争いに割って入るのなら、それなりの理由が必要だ。残念だけど、ただで協力というわけにはいかないのさ」

「でもそれって、あんた個人の願望なんじゃないの?エルフの里全体の意志ではないんだよね」

「それは否定しない。わたしも人間に助力を求めることが本当に正しいのか、かなり悩んだからな。だが、どうしても兄さんを助ける方法は他には思い浮かばなかったんだ」

「そもそも、その掟を破ったら、あんたも何かの罰を受けるんじゃないの?」

「そうならない可能性もある。なぜなら、人間との接触自体は、昔からあったからだ」


たしかにエルフの存在はみんなが知っているところ。こうしてヴァネッサはこちら側にも出てくることが出来ている。


「掟の中にも、濃淡みたいなものがあるってことかな?」

「かもしれない。で、どうだろう。協力をしてくれるのか?」


ヴァネッサの力はわたしたちには必要だ。でも。


「モフモフにはそんな力、ないと思うんだけど」


わたしはこれまでの経験を伝え、おそらくそんな力があったとしてもフィオナ迷宮をクリアした後に得られるものではないかと言った。


「そのフィオナ迷宮は、すぐにクリアできるものなのか?」

「それはわからないけれど」

「なら、無理だな。里のものもいつまでも兄さんを放っておくとは思わない。帰りが遅れれば、いずれ刺客を差し向けるはずだ。わたしとしてもここでのんびりするわけにもいかない」

「でも、クライヴさんは里から逃げたんだよね。その行方を探すだけでも大変だよね。何日かかるかわからない」

「ダークエルフは里の領域から逃げることは出来ないとされている。周辺の森のどこかに隠れているはずだ。エルフは五感に優れているから、遠からず見つけ出すことだろう」


「そもそも、その禁忌ってなんなの?もし何かまずいことをしたとしても、反省すれば呪いが解けるとかないの?」

「それは聞かないでもらいたい。里にとっても不名誉なことだ。呪いが解ける方法も、モフモフ以外には思い付かない」


ヴァネッサの協力は必要不可欠。時間的なものを考えると、フィオナ迷宮の攻略の後に、というわけにもいかなさそうだった。

わたしたちには、他に選択肢はなさそう。エルフの里なら、わたしたちにも危険はなさそうなイメージだし、そこへ向かうことには抵抗はなかった。


「それがヴァネッサの望みなら、協力しても良いよ。でも、モフモフで呪いが解けるとは限らないけれど、それでも構わないの?」

「構わない。他に方法はない以上、成功しなかったとしても責めるつもりはない。これは最後の賭けでもあるからな」

「わたしたちはエルフの里には入ることはできるの?迷子になるような仕掛けがあると聞いたんだけれど」

「許可があれば問題なく入ることは出来る。わたしと共に行けば拒否されることはない。モフモフ召喚士ひとりなら、里の者もすんなりと受け入れてくれるだろう」

「え、わたしひとりなの?」


それは困る。エルフの里にはダーナ教団の刺客とかもいないはずだから、比較的安全なのかもしれないけれど、さすがにひとりでは不安。


「数名の帯同なら問題はない。ただ男性は含めないで欲しい。異性がパーティーにいると、色々面倒が起こる場合があるからな」


ここにいる異性っていうとマークさんくらいだけれど、たぶんマークさんが来なければクローネさんもパーティーからは外れる。

わたしとララにベアトリス、そしてプリシラを混ぜた四人で行くことになるのかな。長距離の移動なら、それくらいがちょうど良いかも。


わたしは一応、四人に意思を確認をした。みんなうなずき返してくれた。クエストじゃないから直接的なメリットはないんだけれど、この仕事を引き受けてくれる。


それだけ、フィオナ迷宮のクリアが大事だってことを理解してくれているし、もしかしたらエルフの里そのものにも興味があるのかもしれない。


「明日にでも出発したいが、構わないか」

「うん」

「なら、出発は明日にしよう。」

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