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アーチャー探し

「アーチャーですね。ではお待ちください」


ミアはわたしたちから事情を聞くと、手元にある名簿らしきものをパラパラとめくった。


「えーと、何人かは登録されていますが、みんなレベルが低いですね」

「そっか」


アーチャーは離れたところから安全に狙撃できるものの、その攻撃力は必ずしも高くはない。相手のレベルが上がれば単独で撃破するのは困難になる。


パーティーにひとりいると、とても助かるアーチャー。

でも、アーチャーからするとパーティーを組まなければ高難易度のクエストは受けられないとも言える。なので、レベルの上がりは必然的に緩やかになってしまうようだった。


「ならやっぱり、王都にまで行ってスカウトするしかないのかな」


さすがに、王都ならレベルの高いアーチャーが一人くらいは見つかるような気もするんだけれど。


「それが良いかもしれませんね。モフモフ召喚士のお手伝いなら、高レベルの冒険者も喜んで協力をしてくれるはずです」

「でも、面倒だよね、王都まで行くのは。もっと近くの街に良い冒険者が住んでいたりはしないかな?」

「この辺りではエルトリアが一番歴史があって大きな街なので、そう簡単には見つからないと思います」


そういった直後、ミアはハッとしたような表情になった。


「あ、でも、エルフなら」

「エルフ?」

「はい。弓使いとして知られるエルフなら、仲間として最適かもしれません」

「エルフって近くに住んでいるの?」 


エルフの存在は以前に聞いていたけれど、人間のとは距離を取って暮らしているイメージなんだけれど。


「エルフの里はここから北西の森の中にあるとされています。王都よりは近いはずです。でも、簡単にはたどり着けないような仕組みになっていますね」


エルフは人間を俗物として忌避をしている。彼らは自然と調和しながら生きているので、欲望に忠実な人間とは反りが合わない。

そのためその敷地には簡単には人間が入れないような仕組みが設けられているという。人間がエルフの森に入っても、奥には進むことが出来ずに迷子になってしまうのだとか。


「でも、モフモフの女神であるアリサさんなから話は違うかもしれません」

「わたしなら歓迎されるってこと?」

「おそらくは。モフモフやモフモフ召喚士は生物の頂点に君臨する存在ですし、エルフでも無下には出来ないかと思われます。かつての悪魔との大戦でフィオナに従ってもいたわけですから、むしろ喜ばれるかと」

「へぇ、エルフもフィオナの仲間だったんだ」


わたしがそう言うと、後ろにいたマークさんがカウンターのところまで来た。


「いや、フィオナの部下にエルフはいなかったはずだ」

「え、そうなんですか?」

「少なくとも、表の歴史には記されていない。エルフは基本能力が高いから、仲間にいればその活躍はどこかしらに残るはずだが、不思議とそのような形跡はない」


そう言えば、わたしが王都で見た大きな絵にも、エルフらしき姿はなかったような気がする。あれが大戦の象徴として残されたものなら、特徴的な外見をしているであろうエルフも描かれたはずだけれど。


「それにしてもマークさんって、歴史に詳しいんですね」


あまりモフモフ召喚士には興味がなかったはずだけれど、それとこれとは違うのかな。


「ぼくが更正する過程で、社会に出ても困らないようにと色々と教育を受けたんだ。そのときの名残だな」


マークさんは以前、お金持ちの手駒として悪いことに手を染めていた。逮捕されたあと、そういうことを学んだようだった。


「そうですか。わたしの誤解だったかもしれません。言われてみると、たしかにエルフの記述はなかったかもしれません。自然を愛するエルフが、世界の危機を傍観するはずがないという思い込みから、そんなふうに思い込んだのかもしれません」


ミアがそう言う。


「じゃあエルフは大戦のときも森の奥にいて、戦況を見守るだけだったの?」


それはそれで違和感があるんだよね。だって悪魔が勝っちゃったら、エルフや自然そのものも守れなくなってしまう。フィオナに協力をしたほうがベターなような気もするんだけれど。


「気付いたら、フィオナが勝っていたということもあり得ますよね。エルフは森の奥にいるわけですから、戦争が起こっていることにもしばらく気付かなかったのかもしれません」


そんなことあるかな?知性を感じさせるようなエルフにしては、なんか間抜けな気がするんだけれど。

まあ、いま大事なのはそこじゃないんだけれど。


「もし一緒に戦っていないのなら、モフモフ召喚士に対しても、なんの思い入れもないってことだよね。それだと協力を頼んでも無駄かもしれないよね」

「しかし、エルフは弓使いとしてはかなりの腕前と言われている。ドラゴンを倒すには、必須の人材かもしれない」


でも、エルフが森の奥に住んでいるのなら、軽い気持ちでは向かえない。迷子になる仕掛けがあるのなら、場合によっては命がけになるかもしれない。


「それにしても、エルフってどうして森の奥に住んでるんだろうね」


ララがそんな疑問を口にする。


「だから、自然が好きだからなんでしょ」

「それはわかるんだけど、そんな奥の方に住む必要があるかなって。もっと近くに集落を作って、人間と交流したほうが便利じゃないかなと思うんだよね」


エルフがいるのは確実ではあるけれど、その姿は滅多に見かけないらしい。

これまで騎士団や探検隊みたいな人が調査に何度も向かったけれど、みんなエルフの森で迷子になって途中で引き返す羽目になっているという。


「人間が嫌いだから、なんじゃないの?」

「嫌いになった理由は?」

「それは、まあ、自然を破壊したりするし」

「ならむしろ近くにいて、その行為を監視してほうが良いんじゃないかな。そうしないと場合によってはどんどん森を切り開いて、自分達のテリトリーまで犯すかもしれないよね」


ララの言い分もわからなくはないけど、わたしのイメージをするエルフは人間をあえて遠ざけるものだったから、そんなに不思議な気もしないんだよね。


「エルフには何か、人間を嫌うきっかけみたいなものがあったんじゃないかな?それなら大戦のときに、フィオナに協力しなかったのも納得できるんじゃない?」

「何かって何?」

「さあ、そんな昔のことまではわからないけれど」


ギルドのドアが勢い良く開いたのは、そのときだった。中年の男性が息を切らせて入ってくる。


「ハンスさん、どうかされました?」


ミアが立ち上がって、そう言った。


「み、ミアちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな」

「依頼、ということですか?」

「あ、ああ」


そして、ハンスさんは唾を飲み込むようにして続けた。


「うちの店で暴れているエルフを、どうにかしてほしいんだ!」

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