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最後の贈り物 3

わたしたちはかつて隔離施設として使われていた建物へと移動した。感染を防ぐための目的として使われた建物なので、他の住居とはかなり離れた場所に建っていた。


もともとは宿屋として使われていた建物らしい。それが廃墟としてしばらく放置されていたのは、宿泊していた冒険者がいざこざを起こし、それが殺人にまで発展してしまったかららしい。


他の住宅と離れていたことが災いして、助けがくるのも遅くなった。宿屋の主人も被害にあってしまい、その跡継ぎもいなかったようで、隔離施設として利用されるまでは無人が続いていたという。


いまも放置されているのは、そういった過去があるからなのかもしれない。


複数の人が利用する宿屋ということで、庭もそれなりに広かった。そのどこにも花壇は見当たらなかったけれど、十年も経てばそれも仕方のないことかもしれない。

おそらくレンガなんかでしっかりと囲みを作られた花壇ではなかったと思う。土を掘り起こして花を植えた程度だったのかもしれない。


「おそらく、この辺りかと記憶しています」


リディアさんが庭の一部分を指差して言った。なんでもない土の地面ではあったけれど、ティムくんは納得したかのようにうなずいた。


「うん、たしかに若干地面の色合いが違う。花はすっかりなくなっているけど、ここで間違いなさそうだ。ではベアトリスくん、さっそくお願いできるかな?」

「はい、わかりました」


ベアトリスがスコップを持ち直し、地面にその先端を突き刺した。

このスコップはここに来る途中で立ち寄った協会で借りてきたもの。ティムくんがもしかしたら花壇のあったところを掘り返すかもしれないと考え、事前にスコップを用意するようリディアさんに言っていた。


ベアトリスの持ったスコップによって地面が削られ、徐々に陥没が出来ていく。

その様子を眺めているリディアさんは、どこか様子がおかしかった。自ら望んでいたはずなのに、やけに緊張しているように見えた。楽しみ、という雰囲気はなくて、その顔は明らかに強張っていた。


「リディアさん、もしかして何が埋まっているのか、想像がついているんじゃないですか?」

「……ええ。アレかもしれないと考えてはいます」

「アレ?」

「ミランダがあのことに気づいていたのかもしれない、わたくしはそう感じることがありました。あえて本人に確かめることはしませんでしたが……」

「それはなんなんですか?」

「……」

「ん?」


ベアトリスが動きをふいに止めた。


「スコップの先端に何か当たりました。石ではないようです。唐突な感じがするので、これは人工物かもしれません」

「では、そこからは少し慎重に掘り返してほしい」

「わかりました」


ベアトリスはその何かを傷つけないように、まずは横の方に穴を広げていった。ある程度の空間が生まれるとその中に降りて、今度はその何かの周囲を縦に掘り進めていった。


「どうやら、正解のようですね」


やがて、ベアトリスは穴の中から掘り出したものを、平らな地面の方へと運んだ。穴に一度それを立て掛けたあと、そこから抜け出すと引き抜くようにして「それ」を地上に移した。


それは木製の箱だった。大きさは地球で言うと、1メートルちょっとくらいかな。細長い形をしている。木製であるけれども厚みがあるからなのか、いまも原型を保っているようだった。


「この中に、ミランダさんのプレゼントが?」

「かなり大きいね。何が入っているのだろう?普通のものには思えないけれど」


アクセサリーや洋服、という感じじゃない。きっとそれなりに大きいものだ。


「しかし、予想通りとはいえ、ここまでして隠す意味がどこにあるのか、とても不可解に思う。不気味と言ってはリディアさんには失礼かもしれないが、何か強い執念のようなものすら感じてしまう」

「……」

「リディアさん、これはあなたへのプレゼントだ。だから最後に確認しておきたいが、ここにぼくたちが同席することも構わないんだね」

「はい。ここまで来たからには、一緒に確認したいと思います」


リディアさんの言葉に、ティムくんはうなずいてみせた。


「では、ベアトリスくん、開けてくれるかな」


そう言われてベアトリスが箱の蓋に手をかけたとき、


「待ってください!」


リディアさんがそう声を張り上げた。


「リディアさん?」

「あ、いえ、なんでもありません」


リディアさんはハッとしたような顔になり、首を何度か横に振った。


「ちょっと昔を思い出してしまって、つい」

「昔?つまり、あなたの過去に関係をするものが埋まっていると?」

「テイマーが襲われたとき、ミランダはあることを言っていました。その言葉を聞いたとき、わたくしはもしかしたらと思ったのです」

「あること?」

「……」


しかし、リディアさんは何も言わない。目の前に答えはある。あえて自分が口にする必要はないと考えているのかもしれない。


「リディアさん、あなたはここまで来た。ということは、いまさら引き返すつもりもないはずだ。何が出てこようと受け入れる覚悟はある、そうなんだね」

「……はい」


ティムくんの言葉に、今度はリディアさんがしっかりとうなずいた。


「よし、ならベアトリスくん、お願いするよ」

「かしこまりました」


ベアトリスは木製の箱の端に手を掛け、蓋をゆっくりと開いていった。

わたしたちは箱に近づき、中を覗いた。

その中にあったもの。それは。


「……え?」

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