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エリオット事件 7

「殺された二人のほうは、どうしてそんなところにいたのかな?人気のないところだったんだよね」

「そこも謎なんですよね。別の家の男女でしたから、その二人も逢瀬にそこを利用したのではないかと思われたんですけど、両家からは二人は交際をしていないと強く主張したんです」


そのとき、わたしはマークさんの表情が険しくなったことに気づいた。


「マークさん、どうかしたんですか?」

「……あれはたしか、貴族のアドラー家とダルトン家の子供の事件だったな」

「はい、そうですけど」


ミアが答えると、マークさんは少し考えるような間を置いて続けた。


「実は当時、ぼくはまだ冒険者をやっていたのだが、そのときにある依頼があったことを、ふと思い出したんだ」

「依頼?どんなクエストですか?」

「いや、正式なクエストではなかった。あくまでも個人的なもので、身分も明かすことはなかった。ただ、相手の雰囲気からそれなりの立場のあるものだと感じた」

「内容は?」

「ある効能を持つ毒物を採取してもらいたい、というものだった」

「毒物?」


公には出来ない依頼で望む、明らかに犯罪の臭いがするけれども。


「それはどんな効能のものなんですか?」

「……堕胎薬だった」


堕胎薬……妊娠中の子供を途中でおろすための薬、だよね。


「あとで噂として聞いたところ、やはり二人は交際をしていて、アドラー家とダルトン家の両家は二人の結婚に反対をしていたらしい。時期的なものを考慮すると、既成事実としての出産を阻止するために子供を降ろさせたかった、という可能性もあるのではないかと思った」

「どうして交際に反対していたんですか?」

「さあ、そこまでは」

「結局、その薬は渡したんですか?」

「いや、嫌な予感がしたから断ったんだ」

「そう言えば、両家ともあまり事件に対して騒いだりはしなかったようですね。領主様にも抗議をしたりせず、事実を淡々と受け止めたみたいです」


ミアがそう言う。領主のエリオットさんだからということもあるのかもしれないけど、子供が亡くなってもどちらの家も何も言わないというのは、やっぱりおかしいようにも思う。


「もちろん、確実なことは言えないし、そもそもそれが今回の事件と関わっているとも思えない。ひとまず忘れたほうが良さそうだな」

「では、アリサ様の無実はどのようにして証明すれば良いのでしょうか?」

「難しいな。毒物の入手ルートがわかれば、そこから芋づる式に真相にたどり着けるかもしれないが、向こうも警戒しているだろうからな」

「……では、犯人はどうやって毒物を入手したんでしょうか?」


わたしはそんな疑問を口にした。

仮に闇商人から入手したとしても、その相手とどうやって接触したのか。その方法がわからない。相手も簡単には会おうとはしないだろうし。


「どこで接点をもったのか、か。そう考えると、貴族や冒険者を疑うべきなのかもしれないな」

「どうしてですか?」

「まず、毒薬は極めて高い、ということだ。一般人は簡単には手を出せない。また、闇商人のほうも信頼のおけない相手とは交渉はしない。家柄が良くなければ、門前払いをされるだろう」


こういった取り引きは、闇商人側にもかなりのリスクがある。慎重になるのも当然。


「それに交遊関係の広い貴族なら、どこかで接点を持っていても不思議ではない。なによりも社交界は情報で溢れている。悪い誘惑を含めてな」


社交界のような場所でなら、みんな家柄はしっかりしているし、口の軽い人もいないのかもしれない。


貴族のような上流階級ならドロドロとしたあれこれがありそうな気もするし、そこに悪い人が近づいてくるというのもある意味では当然なのかもしれない。


「冒険者はどう何ですか?」

「この辺りには毒キノコは存在しない。モンスターが跋扈する森の奥にでも行かなければ、見つけることは難しい。一般人では近づくことすら出来ないはすだ。冒険者が毒物の採取に手を貸しているか、もしくは闇商人自身が冒険者かもしれない」


あ、とミアが声を上げた。


「そう言えば、ひとり、そのような冒険者に心当たりがあります。キノコや植物採取のクエストだけを受ける特殊な男性なんですけど」

「その男性のジョブはなんなんだ?ぼくと同じアサシンか?」

「いえ、盗賊ですね。」

「なら、なんの不思議もないだろう。盗賊は戦いが苦手なジョブだ。隠とんスキルもあるし、クエストで植物採取をメインにするのはむしろ当然といえる」

「でも、やたらと毒のあるものに興味を示すんですよね。その人はマークさんのように真眼を持っていないらしく、毒キノコや毒草の特徴や分布をわたしやギルドの関係者から聞き出して、メモに書き留めていました」

「それは、危ないものを取らないようにしているから、じゃないの?」


わたしがそう聞く。


「わたしもそう受け止めていたんですけど、前に街でばったり会ったとき、依頼されたもの以外のもの、毒草なんかも持っていたんですよね。それを指摘すると、慌てたように間違ったと言ってましたけど、もしそれを闇商人に売り飛ばすか自分で使うつもりだったのなら」


良し悪しは別にして、お金を稼ぐにはそれは効率的な方法かもしれない。クエストをクリアした次いでに、他の収入源も確保できる。


「その可能性はあるかもしれない。冒険者とは言え、清廉潔白なものばかりとは言えないからな」

「でも、悪いことをしているのかと聞いても、正直には教えてはくれないですよね」

「その冒険者の名前は?」

「ゴードンさんですね」

「……ゴードン?」


マークさんか何かを思い出すような顔になった。


「もしかしてマークさん、知り合いですか?」

「一度だけ仕事でかかわったことがあるかもしれない。だいぶ前の話ではあるが」

「直接話を聞くことは難しそうですか?」

「そこまでの知り合いではないんだ。わたしが追求しても、何も答えることはないだろう」

「なら、マークさんが追跡してみるのはどうですか?おそらくマークさんのほうがレベルは高いので、隠とんスキルを使えば、見つけられずにその現場を押さえられるかもしれませんし」


ミアがそう提案をする。


「それはいいアイデアだが、相手の出方を待っている余裕もあまりないな。これだけ騒がれている状況では、相手も動きは見せないだろう。アリサが捕まることはないだろうが、疑惑が長引くのは良くない」

「もう逃げている可能性もあるのでは?領主様が殺されたとなると、捜査はかなり広範囲に行われるでしようし」


ベアトリスがそんな指摘をする。


「その可能性は低いのではないか。犯人はアリサだと噂がすでに広まっている。身の危険を感じることはなく、むしろ油断しているようにも思う。ぼくの知っているゴードンなら、だいぶ前からこの街にいるし、長いあいだ闇商人として活動していたのなら、捕まらない自信もあるのかもしれない」

「でも、そう簡単には尻尾は出さないですよね」


その冒険者が盗賊なら道化師じゃないから、直接の犯人とは言えない。闇商人本人の可能性が高いように思う。

隠とんスキルは身元を隠すのに最適だから、それを使って貴族なんかに接触していたんじゃないかとも思う。


「毒薬の流通は違法だ。それを所持しているところを押さえられれば、一気に捜査も前進するはずだが」

「自宅を捜索することは無理なんですか?」

「理由が必要だろう。いくら疑わしいとはいえ、なんの根拠もなく、犯人扱いすることは難しい」

「なら、軽く脅せばいいんじゃないの?」


ララがハッとしたような顔で言った。


「脅す?」

「そうだよ。まずは普通の捜査を装ってその人の自宅を訪れる。冒険者が領主を殺した毒薬を裏で流通させているらしいから何か知らないかって。当然相手は知らないと答えるけど、疑われているかもしれないと警戒する。そうしたらたぶん、家にでも隠してある毒薬を持って別の街にでも逃げるんじゃないかな?隠とんスキルがあるなら、見つからない自信もあるだろうし。」


それを聞いてミアがうなずく。


「なるほど、それは良いアイデアかもしれません。その冒険者が隠とんスキルを使ったとしても、マークさんなら追跡することが可能ですからね。門を通るときは軽い荷物のチェックを受けることが義務となっていますが、おそらくそこもスキルでなんとかするはずです。マークさんにはその瞬間を狙ってもらえば、正当な理由で逮捕できるかもしれません」


隠とんスキルは姿を消す能力ではあるけれど、それはあくまでもレベルが自分よりも下の相手に限られる。マークさんはその冒険者よりもレベルが上らしいので、その姿を見失うことはないようだった。


「ただ、重要なのはやはり、その冒険者が犯人を知っているのかどうか、ということですが」

「知ってるんじゃないかな。その人が仮に闇商人だったなら、取り引きをしたときに、相手の素性を調べると思う。隠とんスキルがあるんだから、その衝動を抑えることって難しいように感じる」


毒薬の取り引きはどちらにとってもリスクのあるもの。何かがあったとき、一方的に悪者にされることもある。できるだけ相手の弱みを握り、もしものときに備えておきたいと考えるのが普通じゃないかな。


「そんなに頻繁に闇取引が行われるとも思いませんし、闇商人が何人もいるとも思えません。毒薬の取り引きをしたのなら、それが今回の領主様の事件に使われたものであると理解しているはずです。だからこそ、言い逃れされた場合の対応も考えておくべきかもしれませんね」


毒薬を持っていたところを捕まえたとしても、個人的な研究のために使っている、なんていいわけをすることもできるかもしれない。一発で今回の事件との関り合いを認めさせる、そんな方法があればいいのだけれど。


「正攻法では難しそうだな。この際、少し下品な手を使うことも見当するべきかもしれない」

「マークさん、なにか案があるんですか?」

「ああ」


マークさんはうなずき、その計画を打ち明けてくれた。

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