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史上最弱のモフモフ召喚士~レベル上げは罪ですか?~  作者: パプリカ
第一章 モフモフ召喚士の誕生と成長編
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ステータス

「すいません、アリサさん。モフモフ召喚士を見つけた場合はすぐに教会へ連絡するように言われていたんです」


ミアはカウンター越しにわたしに頭を下げた。

教会を出たあと、わたしたちはギルドへと戻った。

ブラッドさんたちにそう言われたから。


これから『女神』として生きていく上で、冒険者としての登録は必須だった。冒険者にならない限り、レベルアップはしないから。


これはモフモフを呼ぶため、だけじゃない。


わたしは確実にレベル1で、その状態だと悪意のある誰かに教われたら簡単に死んでしまう。

教会の敵というのも少なくはないらしいから、フィオナの生まれ変わり、モフモフ召喚士、女神という名前が知られたらわたしは結構危険な立場になってしまうようだった。


モフモフ召喚士は弱いから、その状態を放置するわけにはいかない。

不足の事態に備えて、少しでも自分で自分を守れる力というものをつけておかないと大変。

そんなことをリディアさんたちから言われた。


「ううん、それは別にいいんだけれど、わたしも冒険者になれるんだよね」

「はい、それはもちろん。登録も簡単にできますよ」

「それってどうやるの?」

「ハンコを押すだけですよ」


ミアが取っ手のついた四角い物体を持ち上げた。手の平サイズでちょっと大きめではあるけれど、わたしの知ってるハンコと何も変わらないもののようだった。


「このハンコを手に押すことで冒険者としての登録は完了します。さっそく試してみますか?」


そんな簡単に?儀式的なものでしかないってことかな?


「じゃ、じゃあ、お願いしようかな」


少なくとも、危険なものには見えなかったので、わたしは素直に右手を差し出した。


「アリサさんは右利きですか?」

「そうだけれど」

「なら、左手のほうがいいですね。ステータスのチェックをしているときに襲われることもありますから、利き手は自由に使えるようにしておくべきですから」

「ステータス?」

「冒険者に登録すると、自分のステータスをいつでもチェックすることができるようになるんですよ」

「へぇ、便利だね」

「ステータスの管理は冒険者としての一歩ですよ」

「うん、わかった」


わたしが逆の手を差し出すと、ポン、と手の甲にハンコが押された。なんの痛みもなく、朱肉のあとのようなものもなかった。


「これで終わりなの?」

「はい、それでステータスが見られるようになりますよ。軽く念じるだけで充分ですから」


わたしは手の甲を上に向けたまま、ゲームで見たステータス画面を想像した。

けれど、何も変化は起こらない。


「何も出ないんだけど」

「初心者の人は声に出すとでやすいですよ」


ミアのアドバイスに従ってわたしは「ステータス、出てきて」と言葉にした。


すると、手の上に四角い画面のようなものが現れた。

そこには、ゲームでお馴染みのレベルやジョブといった項目が並んでいて、わたしのアリサ・サギノミヤという名前もしっかり先頭に刻まれていた。


ジョブの欄には確かにモフモフ召喚士と記されている。

ここまで来ると、さすがにわたしも受け入れざるを得ない。わたしがモフモフ召喚士であるという事実を。嬉しいのか悲しいのかよくわからないけれど、とにかくこれが現実。受け止めるしかない。


「ふーん、アリサって15歳だったんだ」


わたしの横から覗き込むようにして、ララは言った。ステータスには名前の隣に年齢も記されていた。


「それにしても、全部低いよね。やっぱりモフモフ召喚士って弱いんだ」

「そんなに?」

「うん。どんな職業でも、それに沿った特徴がレベル1からあるんだよね。戦士だったら力がそれなりに高くなってるとか、盗賊は素早さだけが突出しているとか。でも、アリサさんの場合は全部低い。絶望的なくらいに。唯一マジックポイントだけは高いみたいだけど、魔法が使えるわけじゃないしね」


確認してみると、マジックポイントだけなぜか3桁あった。他は1桁ばかりで、体力を示すヒットポイントがどうにか2桁という感じだったのに。


「モフモフを召喚するために、最低限必要な数字なのかもしれないね。召喚士は召喚するたびにマジックポイントを消費するから」


自分のステータスを見ているとなんか、じわじわと実感が込み上げてくる感じがする。

わたしは本当に異世界にいて、ゲームやアニメのキャラクターみたいに特殊な力を持っている。


モフモフ召喚士はそのなかでも、特別な存在だという。わたしは異世界人だから、伝説という部分にはピンとこないけれど、それでもわかる。

わたしの新しい人生がモフモフとともに始まったということくらいは。


「そういえば、ララはモフモフに関しては詳しいの?」

「いや、全然。モフモフという存在は知ってたけれど、アリサが救世主とかほんとかなって感じで聞いてたから」

「一般の人はどうなの?」

「どうなんだろう?あたしはあんまり勉強とかやってこなかったし、教会の礼拝なんかにも参加とかしなかったから」


わたしがモフモフ召喚士だと知られたら、実際にはどんな反応が返ってくるのだろう?

教会の人たちは思い入れが強いだろうから、一般的なものが知りたかったのだけれど、ララにはよくわからないらしい。


わたしがステータスを閉じようとすると、ララが鋭い声で「ちょっと待った」と言った。


「よく見てみて、スキルのところになんか書いてあるよ」

スキルの項目は一番下にあり、そこには確かに何かが書かれていた。


「……えっと、取得経験値-90%?」

「え?」


取得経験値-90%?なにそれ。


「いや、こんなのいままで一度も見たことも聞いたこともないよ。これはかなりのレアスキルだよ。もちろん、悪い意味でだけれど」

「ねぇ、ララ。これ、どういうことなの?」

「どうもこうも、そのままの意味だよ。獲得経験値が9割減るってことだね。例えば100の経験値を得たとしても、アリサの場合は10しか手に入らないってこと」

「そ、そんな……」


だって、伝説のジョブなんだよね。なんでそんな罰ゲームみたいなことになってるの?おかしいでしょ。普通は逆なんじゃないの?倍くらいもらえるんじゃないの?


「しかも、モフモフ召喚士は戦闘能力が皆無だからね。経験値を得るためには、誰かと一緒にクエストをクリアするしかない。でも、複数でやると経験値は分散するから、なおさらレベルは上がらないよね」


つまり、二人でクエストをクリアしたら、経験値が半分になった上に、わたしの場合はそこから9割減るってことだよね。

それって、ぼぼゼロだよね。

実質、レベル上げは無理ってこと?


「他にスキルはなさそうだし、ほんとうにモフモフを召喚するだけのジョブみたいだね。ある意味すごいジョブであることには間違いがないよ」

「スキルって消したり、増やしたりすることはできないの?」

「そんなの無理だよ。スキルもジョブに固定されてるから、変えることはできないよ。もしも嫌なジョブなら、冒険者を諦めるって選択肢もあるけれど、アリサの場合はそうもいかないからね。

まあ、そもそもスキルってメリットしかないはずなんだけどね。マイナスのスキルって初めて聞いた気がする。これはもはや、呪いみたいなものだよ」

「の、呪い」

「モフモフ召喚士が特別なジョブだからこそ、かもしれないね。厳しい道のりを乗り越えてこそ、すごい力が手に入るのかもしれないよ」


どうしてそんなことするの?ただでさえ弱いんだから、こんな試練は必要ないよね。これだったらレベルが上がる前に死んじゃうよ。


「レベルが上がれば、スキルは基本的に増えるから、このマイナスを打ち消すようなものも身に付くかもしれない。そこまでの我慢かな」


とはいっても、そのレベル上げがわたしにとっては絶望的。モフモフ召喚士は弱い上のマイナススキル。このままだとレベル1のままこの世界で過ごさないといけなくなる。


「そういえば教会では、モフモフはかわいさだけで敵を投降させたみたいなことを言ってたけれど、あれが事実ならどんな敵にも勝てるんじゃないのかな?」


そんな都合の良いことあるわけないと思う。

っていうか、モフモフって本当にかわいいのかな?もしかしたら化け物みたいな外見なんじゃないの?


何年前の話か知らないけど、伝説や歴史っていいように修正されたりするから、牙の生えた邪悪そうな獣かもしれないんだよね。そしたらさすがに冒険者も諦めちゃうかも。


「以前にモフモフ召喚士が出てきたってことはあるの?」

「あたしはよく知らないけど、ミアはどう?」

「100年ほど前にモフモフ召喚士が現れたという記録はありますね。でも、具体的な記述はなかったようなので、すぐに殺されてしまったのかもしれません」

「殺された?」

「はい。そういう噂を聞いたことがあります。教会と敵対するダーナ教団というものがあるんですが、彼らはモフモフ召喚士を嫌っていますので」


ダーナ教団というのは、フィオナが駆逐したはずの闇の勢力の生き残りと言われていて、公では活動してないものの、確実に存在はしているという。いわゆる秘密結社みたいなものらしい。


彼らの教義において、フィオナはもちろん、聖人としては描かれていない。むしろ、侵略者として非難しているという。


「ダーナ教団はモフモフ教の教えは間違いだと訴えています。フィオナは決してこの世界を救いに来たのではなく、他の世界を何かしらの理由で追われ、新たな土地をここに定めたに過ぎないと。そして圧倒的な力によって人々を従わせ、自分の望み通りの国を作り上げたと、そう教えています」

「教会とは正反対の教えなんだね」


っていうか、一般的にはモフモフ教って言われてるんだ。なんか口にするのはちょっと恥ずかしい。


「もう千年以上も前のことなので、正確なことはわかりませんが、ダーナ教団の教えを支持する勢力も一定数はいるんですよね」

「過激な勢力なの?」

「はい。この国、ガリアも手を焼いているくらいですね。モフモフ召喚士が現れたと知ったら、さらに過激化するかもしれません」


前回現れたモフモフ召喚士は殺されたらしいけど、まさかわたしも?


「このギルドにもダーナ教団の関与が疑われる依頼はありますね。ダーナ教団が取り仕切っていると見られる闇商売の調査や、アジトの摘発などですね」

「ランクはどれくらいなの?」


冒険者にはFからSまでのランクがあるという。これはレベルとは違った評価で、依頼の達成率などで決まるみたい。わたしは言うまでもなくFだった。


「お二人にはちょっと難しいですかね。全部高レベルですから。教会騎士団や国の軍が扱うレベルで、冒険者のランクでいうと最低でもA、できればSが望ましいですね」


まあ、そうだろうね。頼まれてもやらないけど、向こうからわたしにちょっかいを出してくる可能性があるっていうのが心配かな。


それにしても、そんな高度な依頼がどうして民間のギルドなんかにあるんだろう、とふと疑問に思ったら、ミアが説明してくれた。


「ギルドは臨機応変に対応できるところが魅力なんです。軍なんかに頼ると、命令系統の問題で決定までに時間がかかるので、ギルドの活用は国にとってもメリットがあるんです」

「それに、国境の警備など軍も忙しいからね、余力がないってところもあるんだよ。騎士団もいるにはいるけど、あれは基本、領地を守ることを優先してるからね」


ララがそう補足をする。

みんな忙しいなら、やっぱり自分の身は自分で守らないといけないのかな。兵士にずっと監視されるというのも辛そうだし。


「しばらく、わたしの存在は秘密にするってことはできないかな。ダーナ教団という敵に狙われるかもしれないんだよね」

「それは難しいよ。だって教会がもう、モフモフ召喚士降臨って触れ回っているからね。」

「え」


そんなことをしたら、わたしのことを狙ってくださいって言ってるようなものじゃない。


「教会としてはもちろん、悪意はないんだよ。モフモフ召喚士はこの国の希望の光だからね、それを広く知らせることで、みんなを元気付けようって魂胆なんだ」

「すみません、わたしのせいで」


ミアが申し訳なさそうに言う。


「でも、いますぐに危険と言うわけじゃないよ。だって実際にモフモフが呼べなきゃ、本物かどうかなんてわからないわけだからね」


モフモフを呼ばなきゃいい、とわたしは一瞬思った。

そうすれば殺されることはないはずだって。


でも、それは無理かな。だってわたしにはなにもない。この世界で不通にはたらいて暮らす?バイトすらしたことのないわたしに、そんなのできないに決まっている。

わたしがこの世界で生きていくには、モフモフ召喚士として正式に認められる必要がある。危険があっても、それ以外には道はない。


「ねえ、ミア、モフモフを召喚する方法って知らない?教会の人もよくわからないらしいんだけど」

「そうですねぇ」


とミアは少し考える間を置いてから続けた。


「フィオナの丘に行ってみるのはどうですか」

「フィオナの丘?」

「はい」


このエルトリアから少し北に行った丘に、フィオナのお墓と呼ばれるものがあるという。


「それって本物?そこにフィオナが埋まっているの?」

「単なる名称かもしれません。かなり昔からあるものなので、真偽のほどは誰にもわからないんですね」


なら、フィオナがいなくなったあと、誰かが勝手に作ったものかもしれないんだよね。もしそうなら、わざわざ訪れる必要もなさそうだけれど。


「そこは実際にフィオナが降り立った場所とも言われてるんですよね。そして丘を降りて、このエルトリアという拠点を作ったと言われています。ですので、モフモフ教の信者にとっては、聖地のひとつとなっているんです」

「それはアリかもしれないよね。あそこは確かに、不思議な場所なんだよ。周辺にはモンスターが出るのに、お墓周辺だけは安全だって言われてる。何か特殊なパワーが溢れてるのかもしれないね」


そのパワーを浴びることで、モフモフを呼べるようになるかもしれないってこと?


「ララは行ったことがあるの?」

「あるよ。ここから結構近いし、明日にでも行ってみる?」


他にやることもなさそうだから、とりあえず行ってみるだけ行ってみようかなとは思う。少なくとも、レベル挙げよりは簡単だろうから。


「いまは巡礼の時期じゃないし、勝手に入っても問題ないからね。」

「うん。じゃあ、お願いするよ」

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