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エリオット事件 4

「わ、わわわわわわわわわわわ、わたしが犯人ですか!?」

「どうやら、そのようだね」


いや、ちょっと待って。そんなはずはない。なにかの誤解に決まっている!


「たしかに君なら領主さんの警戒も緩んだだろう。動機については不明だが、モフモフ召喚士なら逮捕されないという思惑が、殺人のハードルを下げたのかもしれない。」


ティムくんは完全にわたしが犯人だと決めつけている。


「そ、そんなはずないですよ。わたしは今日、ずっと家に居たんですから!そうだよね、ベアトリス!」


ベアトリスは冷静にうなずいた。


「はい。アリサ様は一切外出をされておりません。昨日のアリサ祭りの疲れが残っていたようで、遅くまで寝ていましたから」


しかし、ティムくんは首を振った。


「残念ながら、身内の証言というものは採用されない決まりがあるんだ。公平な第三者的な人物がそれを言うなら説得力があるが、家族同然でもあるきみでは意味がない」

「じゃあ、エリオットさんの霊が嘘を言ってるんじゃないの!」

「幽霊が嘘をつくことはない。完全に下ろした状態なら、ぼくの意思が介在することもできない」


どうしよう。そうだ、簡単にわたしの無実を確認する方法がある。ベアトリス以外の人に証言してもらえば良いんだ。


「じゃ、じゃあ、メイドさんたちに聞いてくださいよ。わたしがここに来てないって、みんな言うはずですから!」

「どうなのだろう?」


ティムくんはメイドさんたちに確認をすると、その中でも一番の年長と見られる女性が一歩前に出た。


「わたしはみなを束ねるメイド長のシルヴィアともうします。今日の屋敷への出入りについてはわたしが全て把握しております」

「なら、朝からの流れを順を追って話してくれないか」

「はい。かしこまりました」


シルヴィアさんはティムくんの指示に従い、次のように語った。


まずは朝、執事であるマーカスさんが屋敷を出たこと。これはエリオットさんの命令によるものだった。


今日はエリオットさんの奥さんの命日らしい。奥さんのお墓は郊外にあり、エリオットさんは遠出の出来るような体調ではなかった。そこでマーカスさんが代わりにお墓参りをすることとなっていた。


マーカスさんが屋敷を出ると、メグがエリオットさんの執務室に呼ばれた。メグはわたしを呼んでくるようにとエリオットさんから頼まれたらしい。そこでメグは屋敷を出て、わたしの家に向かった。


ひとりになっとエリオットさんの様子を確かめるためにシルヴィアさんは一度だけ執務室に来たけれど、不機嫌そうだったのですぐに仕事に戻ったらしい。


領主の屋敷を出たメグは、その途中で『わたし』に会ったらしい。

プリシラではなく、わたしに。


メグはわたしに屋敷に行くように伝えた。一緒に帰ろうとすると、わたしから「ひとりで行く」と伝えられ、メグはしばらくその辺で時間を潰したあとに屋敷へと戻ったという。


屋敷に現れたわたしは、エリオットさんの執務室にひとりで向かい、その後のことはだれもわからないと言う。


エリオットさんのお世話はいつもマーカスさんが担当をしていたので、その様子をうかがいに行く人もいなかった。とりあえず信頼されているわたしがそばにいるので、みんなは安心をして他の業務をこなしていたという。


マーカスさんがお昼近くに帰宅をし、お墓参りの報告をするためにまっすぐにエリオットさんの執務室に向かった。

ノックをしても反応はなく、不安に駆られたマーカスさんが中に入ると、デスクに座ったまま亡くなっているエリオットさんを発見した、ということらしい。


「なるほど。つまり領主さんと最後に会ったのもアリサくんで間違いがないと」

「おそらくは。執務室には少なくとも今日は、みながあまり近づいていないので、はっきりと断言できるものではありませんが」

「アリサくんはどの程度、この屋敷に滞在していたのだろうか」

「アリサ様の退室は確認しておりません。気づいたらいなくなっていたと言いますか、ご主人さまの部屋に入ろうとしたときも、そこにいると思っていたくらいですので」

「これだけ広い屋敷だ。メイドに見つからずに帰る方法はいくらでもあるだろう。人を殺したあとの姿を見られるのは気まずいものだ。犯人として疑われないためにも、姿を見られるのを避けた可能性は高い」

「……」


シルヴィアさんの証言は予想外に、わたしを犯人として告発するようなものだった。


なんか、まずい流れ。わたしはここには来ていません、ともなかなか言えそうもない。周囲の雰囲気からもわたしが犯人であると疑う空気が強まっている感じがする。


ということは、シルヴィアさんの言っているようなことが起こったのは、間違いがないということ?シルヴィアさんひとりならともかく、さすがにメイドさんみんなが嘘をつくとは思えない。


いまのわたしにとって、味方はベアトリスだけかもしれない。わたしはベアトリスのほうを見た。


「みなさんは、本当にアリサ様を見たのですか?」


ベアトリスの問いかけに、メイドのみんなが一斉にうなずいた。

その後、ベアトリスはティムくんのほうに視線を移した。


「それにしても、この計画はあまりにも杜撰すぎます。もし、アリサ様に殺意があったのなら、わざわざ疑われるような状況で殺害などしないはずです」

「領主さんを殺害するには、このタイミングしかなかったのだろう。彼は病に苦しんでいた。いつ亡くなってもおかしくなかったのかもしれない。アリサくんは領主さんに対してなんらかの恨みを抱いていて、自分の手で命を奪うことに執着をしていたのではないだろうか」

「わたしとエリオットさんの関係は良好だったよ。この前馬だってくれたし、感謝の気持ちはあっても恨むことなんてあり得ない!」


そんな反論も、空虚にしか響かない。ベアトリス以外の誰もわたしを擁護しようとはしない。メグもそう。その顔を見ると、なんだか微笑んでいるような気さえする。


「……メグ?」

「アリサ様、もしこれが事実なら、犯人はフローラでありませんか?」

「え?」

「アリサ様とそっくりであるフローラなら、ここのメイドたちも騙せるかもしれません」

「あっ!」


そうか。その可能性があった。焦りすぎてそのことをすっかり忘れていた。フローラが殺人なんてことをするとは思えないけれど、わたしでないならそれしかない。

わたしは昨日の出来事を大声で伝えた。


「きみとそっくりの女性?」

「そうです。フードを被っていたし髪型も違っていたので気づかない人も多くいましたけど、間違いなくわたしと見分けがつかないくらいにそっくりでした。どこかの宿屋に泊まっているフローラという女性を探してください。見ればみんなが納得するはずです!」

「……フローラ」


マーカスさんが呟くようにそう言った。


「執事さん、なにか思い当たるところが?」

「いえ、なんでもありません」


ティムくんの問いかけに、マーカスさんは首を振った。


「正直なところ言い訳のようにも聞こえるのだが、ぼくとしても、なるべくならきみを疑いたくはない気持ちはある。警備隊に事情を話して、さっそく調べてみよう」

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