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エリオット事件

アリサ祭りが終わった。わたしを真似ていた黒装束の人たちの姿も、その日の夜のうちにすっかり消えていた。


その翌日、わたしは寝坊をしてしまった。いつもはベアトリスが起こしてくれるのだけれど、アリサ祭りで疲れたことを考慮したのか、今日はしばらく寝かせておいたらしい。


こちらには機械式の時計はないけれど、わたしが目覚めたときにはもう、朝の気配は残っていなかった。お昼近くかもしれない。いつもの目覚めでは感じない空腹をすぐに意識したから。


さっそくベッドを出て下に降りていくと、まるでわたしの目覚めを予想していたかのように、ベアトリスが出来立ての料理をテーブルに並べているところだった。


「おはようございます、アリサ様。昨日の疲れは取れましたか」

「うん、だいぶ寝たから」


昨日はクエストやフィオナ迷宮とはまた違った疲労を感じた。他のアリサに混ざることで、わたしはあくまでも一般人として街を散策した。

その解放感がわたしの行動範囲を必要以上に広くしたらしい。冒険でもするみたいな感じで街の隅々まで歩いた気がする。


「ララの言ったように、良い気分転換になったようですね」

「そうだね。また同じことをしても良いかな。あ、でも来年のお祭りまで待たないといけないんだよね」

「誰かの変装を待つのではなく、アリサ様自身が変装すれば、いつでもそれは可能かと思いますが」

「わたしが変装?」


例えば、髪の毛を染めたり、危険を承知でマジックローブ以外の服を着て外出するとか?なんかいろいろと面倒くさそう。


「そこまでする必要もないかな。ところでプリシラはどこにいるの?」


この部屋にいるのはわたしとベアトリスだけだった。一緒に住んでいるプリシラの姿はなかった。


「外に出掛けています。プリシラから朝食を要求されたのですが、この家の主人であるアリサ様を差し置いて用意するわけにはいかないとわたしが言うと、しばらく待っていたのちに、お腹がすいて耐えられないと言って飛び出して行きました」

「そうなんだ。わたしのことなんか気にせずに食べさせて上げればよかったのに」

「そういうわけにはいきません。この家にはこの家のしきたりがあります。それを守るのが下宿人のつとめというもの」


なんか悪いことをしちゃったかも。これからはプリシラのためにもなるべく早起きしてあげようかな。


「それで、今日の予定はどうされますか?」


わたしが食事を終えると、ベアトリスがそう聞いてくる。


「ちょっと、宿屋のほうに行ってみようかなと思ってるんだけど」

「宿屋?ララの泊まっているところですか?」

「ううん、別の宿屋」


わたしは昨日の出来事を説明した。


「アリサ様にそっくりの人物、ですか」

「うん。なんかもう一度フローラに会ってみたくなったんだよね。今日もいるらしいから、ベアトリスにも紹介してあげたいし。フローラを見ればきっと驚くと思うよ。泊まっている場所は聞いていたから、これからそこに向かうつもり」

「そこまで似ているというのなら、わたしも興味があります」

「だよね。じゃあ、さっそく行こうか」


わたしとベアトリスは家を出て、その宿屋へと向かった。


向かったのだけれど……。


「え、そんな人はいない?」


宿屋の人に聞いてみると、フローラという女性は滞在していないとのことだった。


「本当ですか?わたしに似た女の子なんですけれど」


改めて確認をしてもらっても、結果は同じだった。わたしたちはその宿屋を出た。


「おかしいな。たしかにここのはずなんだけど」

「アリサ様が聞き間違えたか、フローラ本人が宿屋の名前を間違えたのではないですか。この街には巡礼者のために宿屋はたくさんありますから、勘違いしても不思議ではありません」


そうなのかもしれない。フローラが嘘をつく必要なんてないしね。まだ数日滞在するつもりと言っていたから、どこかでばったり会ってもおかしくはなさそう。


「それで、これからどうされますか?」

「クエストでも受けようかな。今度はもっと難しいやつ。でもそれにはまず、プリシラを見つけないといけないんだけど、ベアトリスはどこにいるのかわかる?」

「さあ。空腹で家を飛び出したので、おそらくはどこかの食堂にでも飛び込んだのでしょうが」


それがどこかはわからないらしい。


「プリシラってそもそも、お金を持っていたかな?」

「お金を使う様子を見たことはありませんが」

「なら、もしかしたらエリオットさんのところにでも行ったんじゃない?メグの姿も見ないから、途中で合流でもして食事をおごってもらっているのかもしれない」


二人は仲良しだから、その可能性が高いように思った。


「なるほど、それはあり得るかもしれません」

「じゃあ、すぐに向かおうか」


わたしたちはそのまま領主の館へと向かった。

異変に気づいたのは、その敷地内に入ってすぐのことだった。

人の気配がない。わたしがいつ訪れても領主の館では掃除なり、前庭の手入れなりで表で誰かが働いていた。でも今日は誰の姿もない。


しかも、玄関のドアは開いたまま。セキュリティを人一倍気にする領主の館としては異常なもののように感じた。


とりあえず玄関の方へと近づいてみたら、中からなにやら騒がしい声が聞こえてくる。


「……なにかあったのかな?」

「上階のようですね。急いで行ってみましょう」


中に入っても迎えてくれる人はいなかった。一階には人気もなかった。どうやらベアトリスの言うように、みんな上の階に集まっているようだった。


「あ、アリサ様、それにベアトリスも」


階段を上がろうとすると、向こうからひとりのメイドさんが駆け足で降りてきた。なんか慌ててるみたいだけど、何かあったのかな。


「どうかされましたか?」


ベアトリスがそう問いかけると、そのメイドさんが言った。


「領主様が、領主様が亡くなられているんです!」

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