アリサ祭り
そういうわけで、アリサ祭りの当日がやって来た。
わたしたちが街のほうに出ると、そこにはわたしの格好をした人であふれていた。まさか、という感じでわたしは驚いた。黒服で杖を持ったわたしを真似た人があちこちにいる。
しかも、男女に関わらず多くの黒服が歩いていた。さすがに髪の色まで同じではなかったけれど、フィオナやアーサーに比べるとその数は圧倒的だった。
「なかなか壮観だね。これを見ると、やっぱりみんなモフモフ召喚士の誕生を待っていたんだなということがよくわかるよ」
ララがひとりうなずいて言う。
今日がフィオナ祭り、及びアリサ祭りの当日であることは知っていた。数日前から街では準備が行われていたし、わたし自身、そのなかのイベントへと出演をしてもらいたいという依頼があったから。
わたしはそれを断った。人前でモフモフを召喚するのはもう充分にやったし、わたしの名前なんか冠したお祭りなんてたいして盛り上がるはずもないだろうとも思っていた。
けれども、アリサ祭りは予想外に盛況だった。普段よりも人が多くて、メグが言ったように他の街から訪れている人もたくさんいるようだった。
「これならたしかに、アリサが歩いていても目立たないよね。わたしたちもみんな一緒に見えるのかもしれない」
わたし以外の三人、ララ、ベアトリス、プリシラも黒いコートを見にまとっていた。これはメグがわたしたちにもお祭りを楽しんでもらいたいと用意したものだった。
「わたしが本物だとばれたら、逆に大変なことになりそうだけど」
街の住人ならともかく、今回初めて訪れた人だと、興奮してもみくちゃにされるかもしれない。
「かもしれないね。そのときはモフモフを呼んだらいいよ。そうしたらみんなモフモフに集中するから、その隙に逃げたらいいと思う。」
そんな卑怯なことはしたくない。これなら今日くらいはずっと家にとじ込もっていたほうがいいかな。
無理に出歩くとモフモフを呼ぶことを強制されて、それで1日が過ぎてしまうかもしれないし。
「わたし、帰ろうかな。こうしてみんながわたしの格好を真似してくれただけでも充分な感じがするから」
「それはもったいないよ。今日は見ての通りアリサがいっぱいいる。いつもモフモフ使いだって目で見られているアリサが、今日は普通に暮らせる貴重な日だよ。これを利用しない手はないよ」
「それはわかってるけど」
ララがわたしにビシッと人差し指を突きつける。
「アリサ、これは命令だよ。今日はひとりで過ごすこと。記憶を失ってからアリサはずっと誰かと一緒にいた。その安心感が記憶の戻らない原因かもしれないよね」
そう言えば、記憶喪失の設定ってまだ生きてたんだよね。そろそろ事実を伝えてもいい頃かな。説明が色々とたいへんだから、さすがにいまってわけにもいかないけれど。
ララはわたしに続いて、ベアトリスにも指を向けた。
「もちろん、今日はベアトリスもついていってはダメだよ。あんたの過保護すぎるお守りが、アリサにとってはマイナスに作用しているかもしれないんだから」
「しかし、アリサ様はいつどこで危険な目にあうかもわかりません」
「だからこそ今日なんだよ。アリサをアリサだとわからないから、いつもよりも安全なんだ。ベアトリス、あんたが本当にアリサのことを思うのなら、ここは耐えるべきだね。記憶が戻ることこそ、アリサにとっての幸せなんだから」
「……」
「たった1日、だよ。ベアトリス、アリサを少しは解放してあげな。あんたがずっととなりにいたら、冒険者以外の友達だってできない。今日くらいは普通のアリサ・サギノミヤとして暮らさせてやるんだ。それがきっと今後のアリサの成長にも繋がると思うね」
ララはベアトリスとプリシラの腕を取ると、
「それじゃあ、アリサ。今日くらいは女神の使命を忘れて、一人で過ごしてみなよ。気楽にその辺を歩くだけでもいいからさ、一般人として街に溶け込むんだね」
そうララは言い残して、三人でどこかへと行ってしまった。