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ウェアウルフ 3

「モフモフアタックです。それでウェアウルフを倒すんです!」

「モフモフを凍らせるつもり?それでちゃんとダメージを与えられるの?」

「おそらく、凍らせるだけではあまり意味がないと思います。モフモフの大きさではやはり、限界がありますから。でもわたしにはひとつ、考えがあります」

「どんな?」

「時間がありません。この間にもウェアウルフの体力は回復しています。とにかくアリサさん、1度モフモフを空中に浮かせてみてください。精一杯高く!」

「う、うん」


プリシラのいつにない迫力に押され、わたしはモフモフをすぐさま呼んで上昇させた。

それを見上げるプリシラ。


「予想よりもだいぶ高く飛びますね。これなら少し近づくだけでも、大丈夫かもしれません」


プリシラはひとり毒ブレスのほうに近づき、わたしたちもそれについて行く形で前進をした。


「ここまで来れば問題ありません。ではまずはウェアウルフの位置を確認します」


プリシラはそう言って前方に柔らかい風を発生させた。そしてウェアウルフがいまどこにいるのかを調べた。


「ほぼ中央ですね。ではアリサさん、その正面に立って下さい」

「う、うん」


わたしはプリシラに指定された場所に立った。


「それでは次に、モフモフアタックの準備をお願いします」

「ここから当てるってこと?たしかにウェアウルフは正面にいるからモフモフも当たるだろうけど、さっきも言ったようにヒットポイントを全部削ることは出来ないんだよ」

「いいですから、早く。向こうが回復したら攻撃を仕掛けてくる可能性が高いんですから」

「わ、わかった」


わたしは再びモフモフを高く上げた。

次の瞬間、そのモフモフを囲むようにして四角い透明な箱で覆われる。


「結界?」

「はい、これをウェアウルフにぶつけるんです!」


結界は大きく、それをぶつければウェアウルフに物理的なダメージを与えることが可能だ。

氷で固めたモフモフなら一部にしか当たらないけれど、結界ならウェアウルフの全身に傷を負わせることが出来る。


しかも、中にはモフモフが収まっている。結界が当たった直後にモフモフも相手に当たることになる。まさに一石二鳥というやつ。


でもひとつ、大きな問題がある。


「無理だよ、プリシラ。だってモフモフには重いものは動かせないんだよ!」

「そこも問題ありません。いまはまだ骨組みを軽く作った状態です。アリサさんがモフモフを下降させたとき、徐々に結界を太く、強くしていきます」


そうか、軽いものならモフモフアタックでも充分に移動させることができる。

そして1度勢いがつけばそう簡単には落下しない。

ウェアウルフを直撃する寸前に分厚い結界に変えれば、大きなダメージを与えることもできる。


「それに!」


プリシラが結界に向かって手を伸ばす。すると、結界がその周囲に白銀の光を纏った。


「薄い氷で結界を覆いました。これで威力は倍増するはずです!」



どちらも単純な魔法ではあるけれど、これがいまのプリシラにとっての限界かもしれない。

冷静に観察してみると、プリシラの呼吸がちょっと荒くなっている。


これは決して外すわけにはいかない。わたしの、みんなの命がかかっている!


「モフモフ、お願い!」


わたしは自分の気持ちを強く込めるため、大きくミステルの杖を振り下ろした。


結界と同化したモフモフが、ウェアウルフの吐き出した毒ブレスに向かって急降下していく。

その間にプリシラはどんどん結界を強化、緑の霧に突入するころに一気に硬度を増す。


音がした。激しく、何かにぶつかる音。問題はそれが壁や床なのか、それともウェアウルフの本体なのか、ということ。

もしもその直前に危機を察してウェアウルフが横にでも逃げたら、わたしたちにはもう、おしまいだった。


「ど、どう?」


固唾を飲んで見守っていると、毒霧が晴れるよりも早く、部屋の中央部分に変化が起こった。


「どうやら、成功したようだな」


そこに現れたのは転送装置。ボスを倒した証しでもあった。


やがて毒霧が晴れ、そこにはモフモフだけが残っていた。

すぐに消そうと思っていたのに、緊張しすぎてすっかり忘れていた。

そのままこちらへと戻ってくるように頭で命じると、なんの異変も感じさせずにピョンピョンと跳んでくる。


「モフモフ、大丈夫だった?」


怪我や魔法のダメージに強いのは知っていたけれど、毒の影響は調べたことなんかなかった。

実際に持ち上げてみると、やっぱりいつものモフモフで、毒されているようにも見えなかった。


「全然、平気そうですね」

「キュー」

「それにしても、見事な作戦だったな。あの新しいモフモフアタックが使えれば、今後もボスには大ダメージが与えられるかもしれない」


マークさんが感心したように言った。


「今回は単純な形にしか出来なかったですけれど、もっとマジックポイントが残っていれば複雑な形にすることも可能なんです。今度試してみましょう」


プリシラが仲間に加わったことで、モフモフの使い勝手も一気に良くなった。

不死身と言われているとはいえ、結界があればモフモフそのもののダメージだって防げるし、わたしの罪悪感もだいぶ減る。


この力さえあればわたしは足手まといにならなくて済む。


「ありがとう、プリシラ!」


わたしはプリシラに抱きついた。いきなりだったから、プリシラはビクッと体を震わせた。


「あ、アリサさん」

「わたしたちは最初から出会う運命だったんだよ、きっそうだよ!」

「ちょ、ちょっと苦しいです」

「あ、ごめん」


わたしがプリシラから体を離すと、ララがポンと肩を叩いてきた。


「アリサもこれで冒険者として一人前だね」

「プリシラがいないと、どうにもならないけど」

「冒険者はパーティーが基本だよ。誰かの力を借りることは、決して恥ずかしいことじゃないんだよ」


わたしの場合、経験値のマイナススキルがあるから、パーティーを組むという考えはあまりなかったけれど、これで大型のモンスターを倒せるのなら、それもアリかなと思う。


「それでは、帰るとするか」


マークさんが転送装置に手で触れ、続いてクローネさんが帰還する。続いてプリシラが行き、ララとベアトリスも戻った。


わたしは最後に残り、しばらく転送装置を眺めていた。そこに触れることにためらいがあった。


またフィオナの記憶を見るのかもしない。

なんの害もないことではあるけれど、一時的でも他人として生きることはなにか、怖さがあった。


とはいえっても、さっきまでボスのウェアウルフがいたところに、長くいたくはない。ここから歩いて戻るわけにもいかない。わたしは覚悟を決めて、転送装置に手を伸ばした。

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