話し合い 2
「ところで、アリサくん、出かける前にもうひとつ頼みがあるのだが」
「モフモフが見たいんですか?」
いつものパターンなのでそう聞いてみると、ハーミットさんはうなずいた。
「ああ、そうなんだ。わたしも召喚士のはしくれとして、モフモフがどんなものか以前から気になっていた。いったいなにが特別なのか、この目で確かめたいと思っていたんだ」
そんなふうにハードルを上げられると、わたしとしても緊張してしまう。目の前にいるハーミットさんは召喚士。これまでの単なる好奇心とは違う雰囲気を感じる。
「構いませんけど、モフモフに何か特別なところはないですよ」
「結構だ」
わたしがモフモフを喚ぶと、ハーミットさんはじっくりと見つめた。そこに喜びの色はない。あくまでも観察対象として、チェックしている。
「たしかに見た目は普通の可愛らしい動物と言ったところだが、伝説の生物がそれだけだとは到底思えない。このモフモフには、なにかスキルのようなものは?」
「いえ、そういうものは一切ないんです。モンスターがいてもぶつけるくらいしかなくて……」
「まだアリサくんのレベルが足りないのか。しかし、見れば見るほど奥深いというか、吸い込まれそうな魅力があるな」
「そうですか?」
「……モフモフとはいったい、なんなのだろうか?モフモフ召喚士はなぜ、特別なのだろうか?」
ハーミットさんはモフモフを見つめたまま、呟くように言った。
「それはわたしも知りたいところですけど」
「世の中が荒みはじめたとき、モフモフ召喚士は現れると聞いた。それはつまり、これからダーナ教団や隣国との争いが激化することを意味する。魔王も復活するのかもしれない。果たして本当にきみがその戦いを終結させることができるのか、わたしにはどうしても疑問を感じてしまう」
モフモフの秘宝、それがわたしの頭に浮かぶ。フィオナの地下迷宮をクリアしなければ、得られない力。
わたしが本物のモフモフ召喚士になるか、それとも敵国に命を奪われるか、その競争の部分があるのかもしれない。
「誤解しないでほしい。アリサくん、なにもわたしはきみという存在を否定しているわけではないんだ。ただ、プリシラともそう変わらない年頃のきみのような女の子には、あまりにも荷が重すぎるのではないかと思っただけだ」
「平気です。わたしは全然気にしていませんから」
「そうか。頼もしいな。さすがはモフモフ召喚士と言ったところか。ここならプリシラも充分に成長できるだろう」
そう言って、ハーミットさんは立ち上がった。
「師匠、もう行くんですか?」
「時間は限られている。いつまでものんびりお茶というわけにもいかないだろう」
「悪魔化を治療する人か方法を見つけたら、すぐに帰ってきますか?」
「もちろんだとも。まあ、途中で寄り道をすることもあるのかもしれない。困っている人がいたら手助けするのが正義だからな」
そう言ってハーミットさんは、プリシラの目を見つめた。
「プリシラ、お前はこれからアリサくんとともに行動するのだろう。それなら国を救う英雄としての自覚を持つべきだな。わたしがお前の父であるのなら、お前はこの国の国民から母のように今後頼りにされるだろう。その覚悟を持たないともいけない」
「自信はないですけど」
「お前の才能はわたしが保証する。きっとこの世界を救う大きな力となるはずだ」
「はい、わかりました」
「全ての仕事を終えれば、わたしも仲間として活動するつもりだ。それまで大人しく待っているんだぞ」
ハーミットさんはそう言うと、わたしたちを見回すようにした。
「ではみなさん、不肖の弟子、プリシラをお願いする。彼女は優秀な魔法使いだ。遠慮せずにどんどん活用してもらいたい」
そして、ハーミットさんは家を出ていった。