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リディアの過去 6

「召喚が解けたのか、男の子の体は元通りになっていました。ミランダの腕のなかで、穏やかそうに目を閉じていた。ミランダのほうにはわずかに息があり、わたくしが体を揺すると、かすかな声を漏らしました」

「なんと言ってたんですか?」

「プレゼントを、と」

「プレゼント?」


プレゼント?感謝の言葉じゃなく?


「おそらく、わたくしへのプレゼントを彼女は用意していたのではないかと思います。ちょうどわたくしが誕生日を迎えるところでしたから。ミランダは最後に、その場所をわたくしに教えようとしたのかもしれません」


それだけ言って、ミランダさんは息を引き取ったという。

最期を迎えるときに言う言葉にはとても思えなかったけれど、それだけミランダさんはリディアさんにとって重要なものを用意していたのかもしれない。


「それってなんだったんですか?」

「残念ながら、そのプレゼントがなんだったのか、結局はわかりませんでした。ミランダの部屋にもどこにもそれらしきものはなかった。わたくしは妙に気になり、いまだに探し続けている次第です」


こうして長いリディアさんの話は終わった。もともとはザイードでの出来事との関連性について聞くつもりだったけれど、そのことをすっかり忘れてしまうくらいに、わたしは聞き入ってしまった。


「では、ザイードで起こった子供の悪魔化も、召喚によって引き起こされたということですか?」

「おそらく。ただ、召喚による悪魔化はうまくはいかなかったと聞いています。人の体が耐えられず、ほとんどの場合はすぐに命を落としてしまうから失敗したと」


ルシアちゃんを始めたとした子供たちは空を飛び、自由に移動が出来ていた。あれを見る限りは、失敗だったようには思えないのだけれど。


そのことをリディアさんにわたしが指摘すると、


「なにか別の方法を見つけたのかもしれません。ダーナ教団はこちら側で頻繁に子供をさらって、悪魔実験を繰り返していたと言います。そのなかで技術をだんだんと練り上げていった可能性もあります」

「じゃあ、早めに突き止めないと大変なことになりますよね」

「そうですね。子供の安全のためにも、アリサ様には頑張っていただかないといけませんね」


やっぱり、ハーミットさんから直接話を聞くしかなさそう。何か知っていそうだったし。


問題は悪魔化をとめることだけじゃない。ルシアちゃんたちをどうやって元通りにするのか、それも大事なこと。リディアさんにはこっちのほうが得意分野かもしれない。


「教会には、エクソシストはいないんですか?」

「エクソシスト、ですか?」

「ルシアちゃんたちをもとに戻すには、そのなかを悪魔を退治しないといけないと思うんです。悪霊や悪魔を徐霊するエクソシストがいれば、それも可能かなと思って」

「えっと、すいません、除霊という行為は存在しますが、エクソシストというものがなんなのかはわからないのですが」


どうやら、こちらにはエクソシストという存在はいないようだった。


それもある意味、当然なのかもしれない。この世界には悪魔という存在が現実にいる。悪魔が退化したというモンスターも含め、それを退治するのは冒険者や国全体の役目。特定の職業に頼らなくてもいいわけなんだよね。


「ごめんなさい、変なこと言ったみたいで。どこかでそんな言葉を聞いたことがあったような気がして。幽霊なんてこの世には存在しないですよね」

「幽霊ならいるよ」


とララが平然と言った。


「え、いるの?」

「うん。シャーマンってジョブがあるみたいなんだけど、それなら幽霊を降ろすことが出来るね」


シャーマンは亡くなった人の力を借りることが出来るジョブだという。本人そのものには特に能力と呼べるものはなく、戦うとしたらどこかの幽霊を頼るしかない。


「でも、あくまでも亡くなった人間が対象らしいし、悪魔を排除するような力ではないはずだけど」


そううまくはいかないか。もしそれが可能だったら、とっくに誰かが気づいているだろうし。

そもそも、今回の相手は悪霊ではなく、実態のある悪魔なんだよね。それが人間と合体している。エクソシストがいてもどうしようもないか。


「いま、みたいって言ったけど、ララはシャーマンに直接会ったことはないの?」

「ないね。いま言ったように、シャーマンは使い勝手が悪いから、戦闘には不向きなんだよ。ギルドでもほとんど見かけないよ」


ジョブ持ちだからと言って、みんながモンスターなんかと戦うわけじゃないんだよね。それを生かした職業で生きている人もたくさんいる。


「シャーマンっていうジョブがいかせるものって、どんな職業なのかな?」


日本にいたときはイタコという人をテレビで見たことがあるけれど、あんなふうな巫女みたいな感じなのかな?


「シャーマンは探偵とかで活躍しているね」

「た、探偵?!」


あまりにも予想外の答えだった。


「ほら、誰かが殺された場合、一番楽なのはその死人に話を聞くことでしょ。そうすれば事件は簡単に解決するじゃない?」


なるほど、たしかにそうかもしれない。でも、それが嘘だとしたら?


「それを悪用したりはしないのかな。被害者の幽霊を降ろしたと言いながら、でまかせを言う可能性もあるよね」

「それはないんじゃないかな。幽霊は基本的には嘘をつかないらしいよ。しかもシャーマンが幽霊を降ろした場合、その人物に姿形も変化するらしいから、詐欺かどうかもすぐに見分けられるらしいから」


霊を降ろすと、亡くなった人の姿になるんだ。なら、かなり信頼できる情報ということになるのかな。


「そう言えば、この街にもシャーマン探偵はいるらしいよ。噂で聞いた程度だけれど、かなりのやり手らしいね」

「へぇ、一度会ってみたいな」


わたしはミステリー小説なんかも好きで読んでいたりしたので、こういうことを言うのも不謹慎かもだけれど、事件現場で犯人を指摘するところを見てみたいなと思った。


「周囲で殺人事件が起きれば、向こうから勝手にやってくるかもね。アリサ殺人事件なんか、現実的に有り得そうじゃない?」


ララは冗談のつもりで言ったのだろうけど、ダーナ教団に狙われる身としては笑えない話だった。


「シャーマン探偵が活躍しているってことは、エルトリアってもしかして、殺人事件が多かったりするのかな?」

「シャーマン探偵の役割りは、必ずしも殺人事件の解決ばかりじゃないよ。例えば亡くなった愛する人ともう一度会いたいとか、そういう願いも叶えたりもするみたいだね」

「そっか。そういう使い方もあるんだね」


シャーマン探偵は悪い人じゃなさそう。仕事ではあるのだろうけど、誰かの悲しみを癒やすために働ける人はきっと、悪人じゃない。


「今度ギルドで紹介でもしてもらおうかな。どんな能力なのか、一度この目で見てみたいし」


この日までは、こう気軽に考えていた。

その後、まさかあんなことになるなんて、思いもしなかったのだけれど。

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