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悪魔 3

わたしちはレアに案内させる形で、謎の病に苦しむ子供たちの家を回った。


事前に聞いていた通り、子供たちとはみんな話すことができた。ちょっと疲れたような印象はあるけれど、言葉をはっきりと伝えられるような状態でもあった。


たしかに見た目はどことなく元気がなさそうではあったのだけれど、それは病人というよりは徹夜をして眠気がマックスになった、みたいな感じだった。


もちろん、どうしてそんな状態になったのかについては、親も含めて誰も心当たりはなかった。

家族と同じものを食べていたし、動物にも触れてはいない。まだ子供だから街を出てモンスターなんかとの接触もない。


そうなるとやっぱりダーナ教団の魔術を疑ってしまうのだけれど、体調不良にするだけの魔術というのもどこか違和感があるんだよね。

しかも、なんの脅威にもならない子供だけ狙っても、全然意味がないよね。兵士とかなら戦力を減らせるって目的があるわけだけれど。


「覚悟はしていたけど、なんの成果もなかったね」


わたしはその家を出た直後、ため息をついた。これで3軒目だったけれど、前の2つと同じようにとくにこれといった情報は得られなかった。


「仕形ありません。散々調査しても結論は出なかったわけですから。あの子もモフモフを見れただけでもよかったかなと思います」


モフモフを見せてみると、この家の男の子はうっすらと笑みを浮かべていた。それで体調が良くなるわけではなかったのだけれど、わずかでも笑顔が見れたことで両親はホッとしていた。


「やはり、モフモフは特別な存在ですよね。他の動物ではあそこまで安心させることはできないようですから」


その家では猫を飼っていたのだけれど、モフモフと触れ合っているときのほうが明らかに元気だと、お母さんが言っていた。


「すぐ近くにもう一軒ありますから、そこにも立ち寄りましょうか」

「うん」

「あ、アリサさん、待ってください」


そのとき、外で待っているはずのプリシラがこちらへと駆け寄ってきた。


「どうしたの、プリシラ、何かあった?」

「いえ、あまりにも暇だったので、来ちゃいました」


いや、来ちゃったって。それだと困るから外で待っていてもらってたんだけど。


「ケルちゃんはどうしたの?」

「外に置いてきました。ちょうどいい感じの木が生えていたので、そこに結界の鎖で繋いでおいたんです」


大丈夫、なのかな。プリシラを守るようにとハーミットさんから命令されているはずだから、プリシラが近くにいないと暴れそうな気もするんだけれど。


そもそもケルちゃんレベルなら、木くらい簡単に吹き飛ばせるんじゃないの?


「ケルちゃんは基本的に夜行性なの心配無用です。運動した直後ですから、いまは結界の中でスヤスヤ眠っています。短時間なら離れても平気のはずです」

「そうかな」

「いまは調査の最中ですか?なら、早めに済ませてしまいましょう。調査が終われば戻ることも出来ますし」


そういうわけでわたしたちは、プリシラを加えた5人で4軒目のお宅にお邪魔することにした。


その家の前まで来て、玄関ドアをノックしようとしたとき、中から悲鳴のような声が聞こえた。なにか事件が起こったのかと思い、わたしたちは勝手に家へと足を踏み入れた。


騒がしいのは奥のほうにある個室だった。わたしたちがそこまで行くとドアは半分開いている状態で、わたしたちは駆け足のまま室内へと入った。


「なにが」


あったんですか、と聞くまでもなかった。

そこはおそらく子供部屋で、女の子がベッドで上体を起こしていた。そして少し離れたところにお母さんらしき人が立っていた。


悲鳴を上げたのはお母さんで、その理由は炎だった。女の子がいるベッドの周りに、炎が立ち上っていた。


「炎?どうして?」

「とりあえず、ここはわたしに任せてください」


プリシラが冷静にその状況を受け止め、すぐに魔法を発動した。その手の平から吹き出すようにして出た水がベットの周辺を濡らし、炎はあっというまに鎮火した。


「ありがとう、助かったよ、プリシラ」

「いえ、それよりも状況の確認をお願いします」

「あ、うん、わかった」


なんかプリシラって、かなり大人っぽい感じもするんだよね。見た目の年齢はわたしの感覚で言う小学生の高学年くらいなんだけれど、むしろ年上かなって感じがする。山で暮らしていたから、たくましい部分があるのかもしれないけれど。

まあ、とにかくいまは話を聞いてみないと。


「あの、わたしたちはギルドのものなんですけど、何が起こったんですか?」


わたしはお母さんらしき女性に問いかけた。


「わ、わかりません。あの子が苦しそうにしていたので様子をみようとしたら、突然炎が現れて」

「突然炎が?」

「はい」


わたしは改めてベッドの周辺を見やった。蝋燭やマッチの類は一切見当たらなかった。


ベッドにいる女の子は頭痛がするのか、両手で頭を抱えるようにしていて、火が出たことにすら気づいてはいないようだった。


「大丈夫?」


女の子に近寄って声をかけても、こちらを見向きもしない。わたしはお母さんにこの子の名前を尋ねてみることにした。


「えっと、この子の名前はなんというんですか?」

「ルシアです」

「ルシアちゃん、聞こえる?いま何があったのか、説明できる?」


それでもルシアちゃんは首を振るばかり。ダメだ。まずはこの子を落ち着かせないと。


それにはひとつしかない。ルシアちゃんを安心させるためにモフモフを喚んでみよう。


「モフモフ!」

「……あ」


モフモフがベッドの上に現れると、女の子は顔を上げた。モフモフには本当に不思議な力が隠されているのか、さっきまで苦しそうにしていた女の子の表情にはだんだんと穏やかさが戻ってきた。


「これ、モフモフ?」

「そうだよ。すぐにわかった?」

「うん、絵本で読んだことあるから。すごく柔らかい」


会話も十分にできそうだったので、わたしは自分の正式な身分を二人に明かして、女の子から話を聞くことにした。


「ルシアちゃん、身体のほうは大丈夫かな?」


ルシアちゃんはモフモフを抱っこしてうなずいた。


「じゃあ、いまなにが起こったのかわかる?」


ルシアちゃんはベッドの周りを見回してうなずいた。どうやら炎が出たこと自体は認識しているみたいだった。


「さっきの炎はどうして出たの?マッチなんかはないみたいだけど」

「……頭のなかで、そんなイメージが浮かんできて、そしたら、勝手にそうなったの」

「え?」


イメージをしたら炎が出た?それって魔法なんじゃないの?


「まさかルシアちゃん、ジョブ持ちなの?」


けれども、すぐにレアが否定する。


「そんなはずはありません。ルシアちゃんはまだ5歳です。仮にそんな才能があったとしても、覚醒は早すぎます。早熟な人でも10歳を超えないとジョブの才能は目覚めないはずです」


そういってレアはルシアちゃんの手を取った。


「やはり、ジョブの才能を感じることはできません。もしかすると、お母さんのほうが魔法を使えるのではないですか?」


レアにそう確認されると、お母さんはブンブンと首を振った。


「まさか、わたしにそんな力はありません。冒険者でもありませんし」

「ちょっと失礼します」


レアはお母さんの方のジョブもチェックしたけれど、実際に何もないらしかった。


「しかし、そうなるとこの状況は説明できないですね。火元となるようなものは、実際に見当たりませんし」

「外からの攻撃って可能性はないの?」


ララがそう聞く。


「外部からの攻撃、ですか。それはないかと思います。離れたところから攻撃すれば、何かしらの痕跡が壁には残るものです。しかし、この部屋の壁にダメージらしきものはない。常識的に考えれば、この室内で火がおこったとなるわけですが」


でも、この部屋にいたふたりともジョブ持ちではなくて、マッチなども見当たらない。

うーん、どういうことだろう?


「これは一連の謎の病との関連を疑うべきではないでしょうか」


ベアトリスがそう指摘する。

たしかにそう考えるべきかもしれない。体調不良と今回の発火現象には何かしらの繋がりがあると考えるべきだ。


でも、病との関連で火が起きるって、どういうことなのかな。レアはジョブの才能がないとも言ってるし、ルシアちゃんが発したものとは考えられない。


うっと顔を歪めてルシアちゃんが頭を抑えた。モフモフで安心したと言っても、根本的な解決にはならない。いまは体を休めるのを優先すべきかもしれない。


とはいえここに置いておくのは危険。ベッドの一部だって燃えているし、また同じことが起こりかねない。


お母さんに頼んで、ルシアちゃんは両親の部屋に運んでもらった。

それからわたしたちはリビングのほうに移動して、改めてルシアちゃんの体調異変の原因に心当たりはないのかをお母さんに尋ねることにした。

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