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モフモフの武器

やっぱり、モフモフを武器化することはどうしても避けられないと改めて思った。


フィオナ迷宮のボスは、わたしが必ず止めを刺す必要がある。モフモフにはいまのところ特殊能力はなく、モフモフアタックという体当りするのがせいぜい。


ヒットポイントが残り1なら、いまのままでももちろん平気だけれど、それをいちいち確認するのも手間がかかる。マークさんがいつも真眼を使える状態とも限らない。


わたしに攻撃能力がなければ、間違いなく戦闘は不利になる。モフモフアタックで相手の体力をしっかりと削れるくらいの攻撃方法が必要だと思う。


最低限でも相手の弱ったとき、という漠然とした状態でも攻撃ができるようにしておかないと、他のみんなが危険にさらされてしまう。


そこでわたしは今日、ララとベアトリスを伴って武器屋を訪れることにした。

モフモフに装着できるような武器をさがすために。


モフモフ用の武器なんてものはないことは百も承知ではあるけれど、誰かに相談するには武器屋以外には思いつかなかった。


「ああ、お客さん、いらっしゃい、ゴホゴホ」


武器屋の主人は痩せすぎの男性だった。吹けば飛んでいきそうな線の細さで、薄暗い店内でも顔色が悪いことがわかった。


「今日はなんの用事かな。うちの品揃えはエルトリアでは一番だからね。どんな要求にも答えられると思うよ」


そこで武器屋の主人はわたしの顔に目をとめた。


「おや、きみはモフモフ召喚士だね。はじめまして。わたしは武器屋のレイ。今日は杖に変わる武器でも探しに来たのかい?」


どこか具合でも悪いんですか、そんなことを聞きたくもなったけれど、失礼な気もしたので体調のほうはスルーすることにした。


「あの、小さくて丸いものを覆うような武器というものはここにありますか?」

「ん?それは拳を強化するということかな?」

「いえ、そうじゃなくて。わたし用の武器ではなくえ、モフモフのものが欲しいんですけど」

「モフモフの?」


わたしは事情を一から説明して、モフモフにうまく使えるような武器はないかと尋ねた。


「なるほど、モフモフを武器に変換できるようなものか。なかなか難しい依頼だね、それは」

「無理、ですか?」

「どうだろう。すぐに思いつくものはないんだけれど、とにかく、ここにモフモフを呼んでもらえるかな。ゴホゴホ」

「は、はい」


わたしの呼び声に応じてモフモフが出現すると、レイさんはモフモフをその手に持った。


「なるほど、これがあのモフモフ。たしかにかわいらしい。人を幸せにするとも言われているけど、わたしのこの虚弱体質も治るかな」

「虚弱体質、なんですか」


てっきり大きな病でも患っているのかとも思っていたのだけれど、そうではないみたいだった。


「わたしも昔は冒険者をやっていたのだけど、とあるクエストを受けたときに、深い森に迷い込んでしまってね。そこからなかなか出ることができずに、しばらく森の中をさまようことになったんだ。空腹は我慢することができず、その辺に生えてあるキノコや草に手を出してしまった。そのときに食べたものがやはりよくなかったらしく、内臓を痛めてしまったようなんだよね。それ以来どうも体調が万全にならなくてね、こうして武器屋に転身したというわけなんだ」


「ヒーラーに治してもらうことはできなかったんですか?」

「治療はしてもらったよ。でも後遺症を完全に除去することは難しいらしいんだよね。これがまあ、ぼくの体質として定着したということなんだ」


ヒーラーでも治せないものがあるんだ。まあ、それも当然なのかな。なにかがあったとき、なんでもかんでもクローネさんを頼るわけにはいかない。だからこそ、わたしの強さも必要になると改めて思う。


「それで、えっと、なんだったかな?」

「モフモフに装着できるようなものって、ここにはありませんか?」

「ああ、モフモフを武器化するものか。そうだねぇ、ううん、どうだろう。モフモフの顧客というものは初めてだからね。悩むなぁ」

「す、すいません」

「そう言えば、あれはどうだろう。もしかしたら合うのかもしれない。」


レイさんはわたしにモフモフを返すと、奥へと引っ込んでいった。

そして再び戻ってきたとき、その手にはトゲのついた複数のベルトを持ってきた。


「これはこん棒や鎖鉄球などを強化するための補助具なんだ。このトゲ付きベルトを巻き付けることで、攻撃力が一気にアップする」


へぇ、わたしが以前似たようなものを考えたことがあるけれど、本当にこんなものが存在していたんだ。


「これをモフモフに巻き付ければ、単なる体当たりでもかなりのダメージを与えることが出来ると思うのだけれど、どうだろう?」


ベルトに付いたトゲは金属製で、先端は鋭く尖っており、簡単には折れそうもなかった。


「たしかに良さそうですね」

「では、さっそく取り付けてみようか」

「お願いします」


ベルトにはいくつかの長さがあって、レイさんはモフモフの大きさをチェックして適当なものを選び、そのうちのひとつをモフモフな巻き付けた。


それはそもそも鉄球に対応しているものらしく、頂点から4本のベルトが伸びていて、丸い物体を包み込むようにできている。

もちろん、モフモフにも対応可能で、気づけばベルトに包まれたモフモフはトゲ付きモフモフとなっていた。


「よし、出来た。ちょっと不格好ではあるけれども、これでモフモフアタックの威力は格段に上がるはずだよ」


なんか一気に強そうな感じにはなった。これならモフモフには直接のダメージはなくて、しかも相手には脅威になる。このまま急降下して相手にぶつかれば、相当痛みがあるはず。


店内には武器と防具が一体となった装備一式があり、それをトゲ付きモフモフの試し打ちに使ってもいいとレイさんは言った。レイさん自身も、直接その目で威力のほうを確かめたいらしかった。


わざわざ広い場所に移動するのも面倒なので、その申し出はありがたく受け入れることにした。わたしはミステルの杖を持ち直し、まずはモフモフを浮かび上がらせることにした。

……のだけれども。


「……あれ?」


上がらない。モフモフはいまも床にいる。ベルトの内部に生まれた隙間で、軽く体は動いてはいるけれども、それだけ。

ララがしゃがみこんで、モフモフの観察した。


「もしかしてこれ、重すぎるんじゃないの?」

「え?」

「このベルトには鉄のトゲトゲがたくさんついているから、それなりに重量はあるよね。一方のモフモフは軽いから、それを持ち上げられるような力はないってことじゃない?」

「そ、そんな」


ショックが大きい。良いアイデアだと思ったのに。


「もっと軽くするしかないんじゃない?トゲのないベルトで試してみるとか?」

「それだと、攻撃力自体がなくなっちゃうけど」

「ベルトで飛べれば、トゲの部分をもっと軽量化するとか方法もあるから、一度試してみたほうがいいよ」


そっか。金属製のトゲじゃなく、例えば細い針みたいなものに変えればかなり軽くなるし、それなりにダメージも与えることができる。重い金属を取り外したものならモフモフでも持ち上がるのかもしれない。


わたしはレイさんにお願いして、なにもついていないベルトを借りることにした。2本のベルトをモフモフに巻き付けて、再び持ち上げてみると。


「お、上がった」

「だいぶゆっくりですが」


ベルトだけならだいぶ軽いので、モフモフでも浮上は可能だった。


けれど、それはのろのろとした動きで、とてもじゃないけど戦闘で使えるようなスピードではなかった。素のモフモフならビュンと瞬間的に上がるのだけれど、ベルトを身につけたモフモフは、10秒近くかかってしまっている。


「これは、無理だよね」

「みたいだね。こうなるとやっぱり、マジックモフモフで行くしかないんじゃないの?」


マジックモフモフ。モフモフに魔法をぶつけてモフモフを変質させるもの。たしかにそれなら確実に相手にダメージを与えられるけれど、どうしても抵抗感も消えない。


それに、出来れば個人でなんとかできるようになりたい。マジックモフモフは誰かの力を借りないと生み出せないわけで、わたしがひとりでどうにかできるようなものではない。


なにかもっと新しいモフモフの攻撃方法を見つけないと、フィオナ迷宮をクリアすることは難しいかもしれない。

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