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迷宮へ

エルトリアに戻ってすぐに、わたしはフィオナ迷宮に挑むことにした。そこに隠された何かを、真剣に探そうと思った。


モフモフ召喚士の本当の力、それがどうしても気になる。いつから手に入れなければならないもので、わたしがここで生きる意味でもある。

それが何かは誰にもわからない。最下層にたどり着いて初めてわかるもの。


ディアドラに会ったことがきっかけで、わたしのなかには以前よりもフィオナ迷宮に対する好奇心が強くなっていた。ダーナ教団が恐れ、執着する力。それを手にしなければ、自分の身も守れないかもしれない。


前回訪れたときには、入り口付近で引き返していた。トラップが怖くて進むことはできなかった。その点はもう、解消している。


「ここにはトラップはなさそうだ。進んでも問題はない」


マークさんが周囲を見ながら言った。アサシンであるマークさんには真眼というスキルがあって、それを使うと通路の異常なども検知できるようだった。


わたしたちパーティーメンバーは、総勢5人となっている。わたしとララにベアトリス、そしてマークさんとクローネさんだ。


「しかし、あれだね。思ったよりもかなり簡単だね」


ララが言うように、わたしたちは順調に迷宮を進んでいた。出てくるモンスターは蜘蛛が巨大化したものばかりで、素早さはあるものの、そこまで強いわけじゃない。


迷宮はいまのところ通路と階段だけの構成で、迷うようなことも一切なかった。トラップらしいトラップもなく、拍子抜けするくらいに危険は感じられなかった。


「まだ入ったばかりですので、油断は禁物かと思いますが」


ベアトリスが周囲をうかがいながら言う。すっかり体は良くなっていて、最近のベアトリスはわたしを教会やララに預けて、個人でクエストを請け負うことも多くなった。

あの敗北がよほど悔しかったらしくて、もっとレベルを上げないとわたしを守れないと危機感を持つようになっていた。


「というか、ここにモフモフのお宝なんて本当にあるのかしら?千年も前の何かの物が放置されているとは考えにくい気もするのよね。最新部に到達したら、ここまでの経験こそがあなたたちの宝になる、なんて落ちかもしれないわよ」


クローネさんは最初は誘うつもりはなかったのだけれど、マークさんが行くならとついてきた。よくよく考えればヒーラーというものはかなり重要な存在なので、私たちにとっても断る理由なんてなかった。


「さすがにそれはないだろう。モフモフ召喚士がモフモフを呼ぶだけのものとは思えない。フィオナには何か隠された力があったはずだ。でなければ、悪魔の大群を、ほぼひとりで打ち負かすことなどできはしないだろう」


マークさんの指摘に、クローネさんはちょっと首を傾げる。


「フィオナってひとりで悪魔を倒したの?わたし、歴史のことってよく知らないんだけど」

「仲間は数多くいたが、フィオナの力があってこそ成せた大業と言われている。そもそも、フィオナが降臨したのは、人間側の負けがほぼ決定的となったあとだと伝えられている。悪魔のほうが戦力は圧倒的で、そこから盛り返すのはよほど強い力がなければ難しいだろう」

「伝説には詳しくは記されてないの?そのフィオナの力がどんなものだったのかは」

「フィオナは魔法使いとして、前線で活躍をした。だが、それだけで敵を倒せたかというと疑問もある。その辺りはぼやかされた状態で書かれているのがほとんどだな。フィオナの神々しさによってモンスターが服従したとか、モフモフによって敵が改心したとか、そういう感じになっていて、それをどうやって行ったかについてはよくわからないんだ」

「もしかして洗脳、とか?」

「なるほど、それは充分にあり得るかもしれない。他人の意識に介在して自由に感情をコントロールできれば、それは最強の能力と言えるかもしれないが、同時に恐怖の対象にもなり得る。女神としてはあまりイメージが良くないからな」


モフモフによる洗脳。事実なら恐ろしい力だけれど、それで本当に悪魔を屈服させることができるのかな。だって悪魔は大群のはずだったから、それをいちいち洗脳するというのは難しいと感じる。


それとも全体を一気に洗脳とか?でもそれなら一瞬で全てが終わって、そもそも伝説に残るような長い戦いにはならないだろうし。


「なんにせよ、アリサがそれを使いこなせるかどうかが大事なのよね。大きな力だからこそ、使い方には気を付けないといけない。進む方を間違えると、アリサ自体が悪魔になってしまうかもしれないもの」

「……悪魔」


少なくとも、ディアドラたちダーナ教団はわたしやモフモフ召喚士をそう捉えている。

フィオナが隠さなければならないほどの力だから、一歩間違えると誰にとっても危険なものであることはたしかだとは思う。

そう考えると、ここに挑戦するのもちょっと早すぎたかもしれないと思いもするのだけれど。


「クローネ、あまり余計なプレッシャーをかけるな。まだアリサもわからないことだらけなんだ」

「わかったわよ」


そんな会話を交わしている間に、わたしたちは行き止まりにたどり着いた。目の前にあるのは階段ではなく、鉄で出来た扉だった。


「……まさか、ここがゴールなの?」

「いくらなんでも、それはないだろう。まだ休憩部屋のほうが可能性は高そうだ」

「これはあくまでも試練のはず。そんな親切にする理由はないと思うのですが」


ベアトリスがそういうように、ここまで簡単に来ることが出来た以上は、わざわざ休憩部屋を用意してくれるとは思えない。


「とりあえず開けてみたら?」


ララにそう促されるけれど、わたしにはちょっと怖い感じもある。これまで扉なんてなかったから、この先には何かしらの特別なものがあるはず。モンスターが大量に現れるとか。


「ためらう必要はないよ。何か来てもわたしたちがいるんだから」

「う、うん」


そうだよね。ここで立ち往生というわけにもいかない。

鉄の扉にはモフモフが刻まれているので、ここでもモフモフを召喚することが鍵となるみたい。わたしには仲間がいる。みんなを信じないといけない。わたしは覚悟を決めて、モフモフを呼ぶことにした。


「モフモフ!」


わたしの声に応じてモフモフが現れると、鉄の扉はゆっくりと開いていった。

扉の向こうに広がるのは、何もない空間。ただし通路ではなく、四角い形のひとつの部屋だった。


「……なにもない?ほんとに休憩部屋なのかな?」


そう言って中に入ろうとしたわたしを、マークさんが引き留めた。


「待て。あれを見るんだ」


マークさんがそう言った直後、ドスンという地響きのような音が聞こえた。

音のした方を見ると、そこに何かがあった。

脚、だった。丸太のような脚がわたしの視界に入ってきた。

視線を上のほうにやると、そこには巨人がいた。人の3倍はある巨体で、顔には一つ目が半分ほどを占めている。


「どうやらこれは、サイクロプスのようだな」


一つ目の巨人、わたしもゲームなんかで見たことはあるけど、本物はもちろん初めてだった。


「向こうから襲ってくる気配はなさそうね」


サイクロプスにこちらに気づいた様子はなかった。部屋を周回するように歩いているだけだった。扉が開いた音は聞こえているはずだけれも、わたしたちにはなんの反応も示さない。


「おそらく、この通路と部屋は完全に別物として機能しているのだろう」


マークさんは懐からナイフを取りだし、部屋の方へと放った。そのナイフは扉のあったところでバリアに弾かれるようにしてこちらへと跳ね返ってきた。


「やはり、ここから攻撃することも出来そうにない。人が通るかどうかをしっかりと認識する仕組みなのだろう」

「なら、入ってみるしかなさそうだね」

「いや、迂闊に入るのはあまりにも危険すぎる。この通路と向こうの部屋は、完全に別物として機能している。中に入れば、このボスを倒すまで部屋から出ることはできないかもしれない」

「そうだとすると、一度引き返したほうが良いかもしれないね。このままだと全滅もあり得るし」


ララが腕を組んで言った。


「それはサイクロプスの強さにもよるが」


マークさんはこめかみに指を当て、サイクロプスを見つめた。相手のステータスを分析しているようだった。


「サイクロプスのレベルは15か。思ったよりも弱いな。このメンバーなら勝てない相手ではなさそうだな。サイクロプスは目が弱点だから、一気に勝負を決めることも出来るかもしれない」

「このサイクロプスを倒せば、アリサはフィオナの力を手に入れられるの?」


クローネさんがそう言って部屋の中を覗き込む。


「いや、相手の強さを考えると、これはあくまでも第一関門、といったところだろう。おそらく、一定の階層を進むごとに主が現れる仕組みかと思われる」

「では、アリサ様を除いたわたしたちだけで戦うことにしましょう」


ベアトリスが自分の手のひらに拳を打ち付ける。


「それはさすがに無理だろう。これはモフモフ召喚士の試練だ。無関係の人間が勝つことに意味はないだろう。戦闘メンバーにアリサがいなければ、おそらく戦いは成立しない」

「しかし、いまだにレベルの低いアリサ様を、攻撃力のあるサイクロプスと戦わせるのは、リスクがありすぎると思うのですが」

「たしかに誤って一撃くらい受けてもおかしくはないが」


そう言ってマークさんはわたしのステータスをチェックしてもいいかと尋ねてきた。わたしがうなずくと真眼でステータスを見て、それからサイクロプスのほうに視線をやった。


「きみが着ているのはマジックマントだな。マジックマントはマジックポイントの量と知力によって防御効果が変わる。いまのアリサなら、サイクロプスの一撃にも耐えられるだろう」


それって逆に言えば、一撃くらいしか耐えられないってことなんじゃ……。


「サイクロプスは動きが鈍そうだし、隅のほうにいればなんとかなるかもしれないね。部屋は結構広いから、逃げ回ることも可能がしれないわよ」


この展開、戦うしかないってことかな。正直、怖い気持ちのほうがよっぽど大きい。弱いモンスターとだってまともに戦ってないんだから。


「どうする、アリサ。きみが決めるんだ」


他の四人から見つめられる。わたしの決断を待っている。まだまだ弱いわたしではあるけれど、みんながその気であるのなら、逃げるわけにはいかない。


「うん、わかった。行こう」


鉄の扉は幅があり、わたしたちは横に並んだ状態で中に足を踏み入れた。

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