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史上最弱のモフモフ召喚士~レベル上げは罪ですか?~  作者: パプリカ
第一章 モフモフ召喚士の誕生と成長編
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合言葉

わたしのエルトリアへの帰還はさらに遅れた。ベアトリスの怪我が回復するのを待つためだった。


ベアトリスの怪我は軽症で、獣人は回復力も強い。

だから、そんなに長い間待つ必要もなかったのだけれど、わたしはしばらく休むように伝えた。

これはベアトリスのことを思っただけじゃなく、わたしのためでもあった。


ディアドラの裏切りは想像以上にわたしの心を蝕んでいた。しばらくは落ち着く時間がほしかったから、滞在を伸ばすことにした。


王様との謁見、モフモフ召喚士の過去、友達だと思っていたディアドラの裏切り、まだ15歳の女子高生でしかないはずのわたしの心はもう、パンクでもしてしまいそうだった。


「アリサ、ちょっといい?」


個室でひとりで休んでいると、ララが部屋に入ってきた。


「どう?体調は良くなった?」

「まあ、うん」


本音としてはまだまだではあったけれど、ララを心配させたくないからわたしはそう言った。

わたしが体を起こすと、ララはベッドに腰を下ろした。


「ディアドラのお葬式、終わったみたいだよ」


ここで言うディアドラはもちろん、本物のディアドラのことだった。


「ちらっと確認しただけだから良くはわからないけど、家族も複雑だろうね。娘が実は偽物で、しかもすでに死んでいたと聞かされたわけだから」


わたし以上にディアドラの家族はショックを受けているのかもしれない。そう考えると、数日だけの付き合いであるわたしが落ち込んでばかりもいられないかなとも思う。

もっとも、いつから本物のディアドラと入れ替わっていたのかは知らないんだけれど。


「ディアドラ、いつから偽物に代わっていたのかな」

「アリサと出会ったときは、すでにそうだったんじゃない?アリサに近づいて誘拐することが目的だったんだから」


そう考えると、ちょっとした疑問も出てくる。


その時点で本物のディアドラが亡くなっていたということは、発見されるまでの数日間はどこかにその遺体が隠されていたということ。


にも関わらず、わたしを誘拐したその直後に見つかるなんて、なんかおかしい。タイミングがよすぎる。しかも、しっかりとその人だとわかるように保存した状態で発見されている。


そんな疑問をララにぶつけてみると、


「言われてみると、確かに妙だね。遺体を処分する時間なんていくらでもあったはずなのに」

「何か目的があったのかな」


ララはしばらく、考え込むようにすると、


「もしかして、自分の正体を明かすため、とか」

「え、どういうこと?」

「ディアドラは偽物であるということを、アリサに伝えたかったのかもしれない。口で伝えても信用しないだろうから、遺体を発見できるようにしておいたのかも」

「そんなの、おかしいよ。そんなことしたら、わたしを誘拐することが難しくなるんだよ」


遺体がいつ見つかるかなんて、正確には計算は出来ない。早い段階で見つかってしまえば、自分が偽物であるとわかってしまう。そうすれば計画は破綻する。


「でも、ディアドラはアリサに正体を明かしたんだよね。かつて住んでいた家で過去も語った。本来、それは無駄な時間のはずだよ。何も言わずにアリサを眠らせればよかったのに、彼女はそうしなかった。きっと、アリサに本当の自分というものを、伝えたかったんだと思う。」

「本当の自分?どういうこと?」

「あのディアドラもアリサのこと、本当の友達だと思っていたのかもしれない。短期間ではあるけれど、ダーナ教団から離れて彼女も普通の女の子として生活し、いろいろと感じるところがあったのかもしれないね。本物のディアドラの遺体を保存していたところを見ても、そこまで冷酷無比な印象はないんだよね」


わたしの誘拐が失敗するかもしれないというリスクをおかしてでも、偽物のディアドラは伝えたかったのかもしれない。自分にも感情はあって、好きでダーナ教団に飛び込んだわけではないということを。


友達に、ひとりの人間として、理解してほしかったのかもしれない。


もちろん、本物のディアドラを殺したことは許されないことだけれど、わたしのなかにもどこか、あのディアドラを憎めない気持ちがある。


「それにしても、娘が偽物だって家族の人たちは気づかなかったのかな。いくら変装が上手だと言っても、完璧に真似るのは不可能だと思うけれど」

「あれは変装じゃないよ。たぶんジョブだと思う」

「ジョブ?」

「うん。あのディアドラはきっと、吸血鬼だったんだよ」

「吸血鬼?そういうジョブがあるの?」

「あるよ。姿を真似るジョブなら他にもあるんだけれど、それだとあの屋敷で起こった事件の謎は解明できない。たぶん唯一の答えが、吸血鬼だったということになるんだと思う。」


吸血鬼というジョブは特殊で、それそのものには戦う、または何かを補助するような力はないという。


ただ、吸血鬼というジョブはある意味において最強とも言われているという。なぜなら、吸血行為によって、相手に成り代わることができるからだという。


「吸血鬼は血を吸った相手に精神を移動させることができるんだ。元の体は死んでしまうけれど、男女や年齢に関係なく、別の体に切り替えることができる。もちろん、その人が持っている能力も自分の物になる」

「能力も?」

「それだけじゃない。一度得たスキルは、別の体に移行しても継続されるんだ。あのディアドラがベアトリスに肉体戦で勝てたのも、その影響だと思う」


魔法系のスキルの場合、乗り移った体に魔法使いのジョブがなければ、当然使うことはできない。

けれど、格闘家などのスキルは別。肉体のみを使用するから、どの体でも発動させることができる。


だから、ベアトリスは勝てなかった。偽物のディアドラは他人の体に何度も乗り移って、複数のスキルを手に入れ、戦いに挑んだに違いない。

本物のディアドラになんの力がなくとも、肉体系のスキルでそれらを補い、ベアトリスを上廻った。


「なら、魔法使いの血を吸い続けていれば、ひとりで世界を壊せるくらいの力を手に入れることができるんじゃないの?魔法のジョブ持ちの冒険者も多いだろうから、その人に成り代われば簡単に最強の魔法使いになれるよね」


ありとあらゆる魔法スキルがあれば、ほぼ無敵になるんじゃないかと思った。


「かもしれない。でも、肉体的には限界があるとも言われてるんだよね。スキルがどんどん貯まっていくと、やがて容量が足らなくなって、突然死んでしまうと言われてるんだ」


吸血行為ーースイッチには限界がある。でも、効率的にスイッチを行えば、きっと強大な力を手に入れることができる。


偽物のディアドラがかつて生き残ったのも、それを使ったのかもしれないとララは考えている。


家に侵入した犯人に襲われたとき、もしかしたらベッドなんかで襲われそうになって、そのときに本能的に相手を噛んで乗り移ったのかもしれない。そう考えるとたしかにいろいろとつじつまが合う。


「またいつか、アリサの前にあのディアドラ、現れるかもしれないよね。そのときはきっと、また別人になっているんだろうね」


お爺ちゃんかもしれないし、10歳くらいの子供かもしれない。どんな姿であっても、わたしにはその正体を見破ることはできないかもしれない。


「吸血鬼の正体を見破る方法なんてないのかな?」

「あるよ。真眼のスキルを使えば、可能だとは言われている。体を入れ替えても、吸血鬼というジョブに代わりはないから、元のステータスで表示されるらしいんだよね」


とは言っても、マークさんにいつもそばにいてもらうというわけにもいかない。結局、吸血鬼の正体を見破ることは難しいことかな。


「あ、でも、すごいことに気づいちゃったかも」

「なに、すごいことって?」

「あのディアドラがさ、アリサの体を乗っ取る可能性があるんじゃない?そうすればもう、モフモフ召喚士も思いのままだよね」


言われてみると、たしかにダーナ教団にとってはそれが一番効率的なのかもしれない。わざわざ誘拐なんてする必要もなくなる。


「もしそうなったら、大変だよね。今のうちに合言葉でも決めておいたほうがいいかもしれない」


合言葉。お互いだけにしか通じない言葉を決めておけば、相手が本物かどうかをすぐに見極めることができる。でも。


「記憶も引き継いでいたなら、意味はなくなるんじゃないの?」

「そこは大丈夫。記憶は引き継がないと言われているから」


なら、一応決めておいたほうがいいのかな。ララがそうなることもあり得るわけだし。考えたくはない可能性だけれど、念のために。


「で、どんな合言葉がいいかな?」

「なるべく簡単なものがいいかな。難しすぎると忘れちゃうし。山、川とか?」

「山、川?」

「ごめん、なんでもない」


前に見たアニメでそんな合言葉があったんだけど、これは単純すぎるかな。


「じゃあ、どちらかがモフモフと言ったら、召喚士と答えるとかは?」

「それは簡単過ぎるような気もするね」


偶然でも答えられるようなものだと、合言葉としては適切とは思えない。


「うーん、じゃあ、アリサの好きな食べ物って何?」


パッとお寿司という言葉が浮かんだけれども、ここで通じる言葉じゃないよね。


「甘いケーキかな。チーズケーキとか」

「じゃあ逆に、嫌いな食べ物は?」

「辛いもの、かな」

「わたしは魚が苦手なんだよね。どうも生臭い感じが残ってる感じがして。これを合言葉にするのはどうかな?」

「どうやって?」 

「それぞれ相手が何か怪しいなと感じたら、自然な感じで好きな物を聞くんだよ。そろそろご飯の時間だかだよね、そう言えばアリサって何が好きだったけ、てな感じで」

「そのときに、あえて嫌い物を伝えるのが正解ってこと?」

「うん。これなら普段の会話を邪魔したりしないし、偶然に正解を出すこともないよね」


たしかにそれなら、自然な感じで話題を振ることはできる。

もしかしたら相手が偽物かもしれないと疑っているときは、こっちも緊張しているはず。

難しい合言葉だと不自然さが出てしまうから、何気ない会話の中で確認できるようなものが最適かもしれない。


「ちょっと混乱する部分はあるかもしれないけど、だからこそはっきりと証明できる。どうかな?」

「良いかも、しれない」


辛いものとお魚。この単語は、しっかり頭に刻み込んでおこう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ここで第一章が終了です。

どうにか、ここまでたどり着くことが出来ました。

このまま第二章へと続きます。

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