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史上最弱のモフモフ召喚士~レベル上げは罪ですか?~  作者: パプリカ
第一章 モフモフ召喚士の誕生と成長編
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襲撃

そういうわけでわたしはエルトリアを出発し、王都へと向かうこととなった。


馬車の旅は順調だった。乗り心地は悪くなかったし、数日が経ってもモンスターに襲われるようなことはなかった。


馬車にはララとベアトリスも乗っていた。全く知らない土地に一人で行くのは怖かったから、わたしがアランさんに二人の帯同をお願いした。


ベアトリスは最初からそのつもりだったみたいだけれど、ララの方は最初は渋っていた。どうしてと聞いても、はっきりとした答えは返ってこない。


しばらくクエストが受けられなくなるからかな?わたしのワガママではあるけれど、どうしてもと頭を下げたら、最終的には了承してくれたけれども。


馬車の旅と聞いたときは野宿を想定していたけれど、実際には街や村で休むことが出来た。王都からエルトリアまでは巡礼の道でもあるので、一定の感覚で集落が作られたらしい。


馬車に乗ってエルトリアを出発してから5日ほどが過ぎ、そろそろ王都も間近に迫っていた。わたしたちはこの日の夜にバージアという村につき、そこで一夜を明かすこととなった。


バージアは農業がメインの、のどかなところだった。簡素な囲いの中に、住居と牧草地帯が半々で同居している感じ。

でも巡礼の宿場としての役割もあるようで、宿屋の建物だけが周囲と比較すると大きく作られていた。


「やっぱりベットは最高だね。あたしは馬車ってなんか苦手なんだよね。ひとりで馬に乗っているほうが全然楽だよ」


わたしたちが部屋に入ると、ララがベットに体を投げ出して言った。ちょうどこの部屋は三人部屋で、ベアトリスも一緒だった。


「わたしも疲れたかな。でもそれは馬車が問題というよりも、王様に会うことに緊張しているんだと思う」


いまだにわたしは、王様に会ったときの対応で悩んでいた。

アランさんにどうすればいいのかと尋ねても、その返事はララと変わらなかった。そんなにかしこまる必要はなく、軽く頭を下げればいいだけだと。

本当に?王都が近づくにつれて、わたしの頭は王様とのやりとりの仮定でどんどん埋まっていった。


「そんなことよりも、アリサが気にしないといけないのは、王様との謁見の後のことだと思うけどね」

「どういうこと?」

「エルトリアと同じことをやらされる可能性が高いってことだよ。王都の人間はいまだにモフモフを見たことがないわけでしょ。街のいろんなところでモフモフの披露を要請されると思う」


モフモフは国民に勇気を与える存在として、国は全面的に活用するはずだと、ララは言った。それが王様の威厳にも繋がるとも。


それはたいした問題ではないように思った。モフモフの披露はもう慣れたものだし。


「エルトリアと一緒にしたらいけないよ。あそことは規模が違うから、みんなに見せて回ったら大変な作業になるかもしれないよ」

「どのくらいかかりそうかな?」

「さあ。想像はつかないね。数日で済まないことはたしかだろうけどね。まあ、いまのうちに休んでおいたほうがいいってことは間違いないだろうと思うよ」

「そう、だね」


もうすでに辺りは暗くなっていた。ベッドに座っていると、徐々にわたしも疲れている実感がわいてきた。


ーー異変が起こったのは、その日の夜だった。

わたしたちがすっかり眠りについていたときのことだった。


バアァァァァァァァァァァン!!


闇をつんざくような爆発音が聞こえた。とても大きな音だったので、わたしは一瞬で目が覚めた。

わたしは驚いて、ベッドから飛び起きた。


「な、なに、なにが起こったの?」

「確認します」


ベアトリスが鎧戸を開けると、遠くの方が赤く染まっている。どうやら、炎によって何かの建物が燃えているようだった。


「あれは火事、なの?」

「どうでしょうか。この村にあそこまでの火を出させるような爆発物が置いてあるとは思えません。何者かが外から爆弾のようなものを持ち込んだ可能性も、否定できないのではないかと思います」

「爆弾?どうして?」

「とりあえず、ここを出ましょう。騎士団と合流して事情を聞くべきです」

「う、うん」


わたしたちが宿屋を駆け足で出ると、ちょうどアランさんがこちらへとやってくるところだった。


「アリサ様、無事だったのですね」

「アランさん、いったいあの爆発はなんなんですか?」

「わかりません。いま確認してきますので、みなさんはここを動かないでください」


アランさんは複数の部下を率いて、炎が出ているほうへと駆け出した。


「なんか、嫌な予感がするよね」


ララがポツリと、独り言のように言った。


「ララも事故じゃないって思うの?」

「アリサが泊まったその日に爆発なんて、あまりに偶然が過ぎるよね。何者かがアリサの命を狙ったと考えるのが自然じゃない?それこそ、ダーナ教団とか」

「でも、だったらこの宿を狙うはずだけれど」


炎はだいぶ遠くの方で上がっている。わたしの命を狙うのなら、何の意味もない行為だと思った。


「アリサは気づかなかったかもしれないけど、宿の周辺は騎士の連中が夜通し見張ってるんだよね。その近くに建物を壊すくらいの爆発物を持ち込むなんて簡単じゃないよ。でもいまは?」


ララは周囲を見回すようにした。わたしにはわからないけれど、警備をしていた騎士の姿はなくなっているようだった。


「つまりララ、あなたはこれは何者かによる陽動作戦であると言いたいのですか?」


ベアトリスの指摘に、ララは頷いた。


「他には考えられない。ほら、噂をすればってやつかな。不穏な気配が近づいてるね」


ララは後ろを振り返った。わたしもその動きに合わせると、暗闇の向こうに、複数の人影を見つけた。


それは村の人たちだった。全部で10人くらいいた。


その人たちは爆発に驚いて外に出てきた、という感じじゃなかった。明らかな敵意があった。


それぞれ、相手にダメージを与えられるような農具や護身用と見られる武器を持ち、こちらへと近づいてくる。その目は夜という環境のなかで、鈍く光っているように見えた。


「まさか、村の人たちがダーナ教団の仲間だったの?」


けれども、ララは首を振った。


「いや、操られているだけだろうね。村の人たちに意思らしいものはないみたいだしね。あくまでもダーナ教団に利用されているだけだよ」

「利用されている?」

「ああ。ダーナ教団は魔術が得意とされているんだ。魔術は洗脳みたいなことが得意分野のひとつだからね、きっとこの人たちも被害者ってことなんだと思うよ」


つまり、わたしを襲うように催眠術みたいなものをかけられているってことだよね。村の人たちには悪意があるわけじゃない。


「それで、どうすればいいの?」


村の人たちは武器を持ったまま、こちらに近づいてくる。早く対応を決めないと。


「まあ、あたしの知る限りじゃ、操られていてもそれ以上の力は出ないはずだから、あたしらだけでなんとかなると思うね」

「戦うってこと?」

「うん。それ以外ないよ。騎士の連中にまかせるよりも、その方が安全かもしれない」

「殺したりはしない、よね」

「ある意味、騎士の連中がいなくなってよかったかもしれないよ。あいつらはでかい剣をぶんぶん振り回すくらいしか能がないから、繊細な戦い方ってできないんだよね。間違って殺したりもするかもしれない。その点、こっちにはベアトリスがいる」


その時点でもう、ベアトリスは村の人たちのほうへと向かっていた。


村の人たちには戦闘力なんてものはない。だからこそ、加減というものが大事になる。適当に武器を振るってくるから、まずはその攻撃を避けないといけない。


ベアトリスのジョブは格闘家。接近戦が得意。複数で襲いかかられても、村の人たちの動きは簡単に読めるようだった。


それだけの場数をこなしているらしく、ベアトリスに焦りはみられない。あえて相手に攻撃をさせてそれを避けると、すぐさま急所に一撃、それを冷静に繰り返している。


「相手に攻撃をさせることで、村の人たちの間隔を作ってるんだよね。誰かが武器を振るおうとすると、それに当たらないように距離を取る。そうすることで安全に気絶させることができる」


最後のひとりに手刀をくらわせると、ベアトリスはふうと一息ついた。


「終わりました。全員、気絶しています」


わたしは地面に横たわる村の人たちに近づいて、その状態をチェックした。確かに息はある。


「良かった。ありがとう、ベアトリス」

「いえ、当然の務めです」

「あれ、なにか腕にあるけど?」


いまの季節は春みたいだから、みんな半袖を着ていた。わたしが見下ろしている中年の女性もそうで、暗くてよく見えないけど、その露出した腕のところには入れ墨のようなものがあった。


「それ、たぶん魔術刻印だよ」


ララがわたしのそばにしゃがみこむと、人差し指のところに炎を浮かばせた。


「ほら、間違いない。これで相手の意識を乗っ取り、あたしたちにけしかけたんだね」

「魔術刻印?それってなんなの?」


わたしがそう聞くと、ララは説明してくれた。

魔術はもともと悪魔の得意技で、ダーナ教団がいまも密かに引き継いでいるものだという。何かしらの代償と古代文字によって系列化されたいくつもの神秘を現象化するもので、ジョブ持ちでなくても使用できるところが恐ろしいという。


「魔術刻印はその魔術をさらに簡略化したもので、他人にも応用することもできるんだよ。今回もそれだね」

「そんなことができるんだ。一般の人も使えるんじゃ、かなり危険だよね」

「とはいっても、魔術にも才能は必要だと言われてるんだよね。魔術は古代文字を使って現象やものをこちらへと呼び込むものといわれてるんだけれど、能力が低いとそれらに体を乗っ取られてしまうと言われているんだ。魔法は自らの体に宿ったマナと精霊の協力によってさまざまな現象や能力を生み出すけれど、魔術の場合は強制。だからコントロールしにくいらしいね」


それでも、ジョブがなくても魔法みたいなものが使えるってすごいよね。麻薬みたいなリスクがあるんだろうけど、それでも手を出してしまう人のきもちもわからなくはない。


「この人たちって、もとには戻るのかな?」

「うん。魔術刻印はいずれ消えるからね。見た感じ、そんな強力な魔術とも言えないから、副作用も少なくてすむんじゃないかな」

「良かった」


わたしがホッと胸を撫で下ろすと、


「アリサ様っ!」


アランさんが駆け足でこちらへと近づいてきて、すぐに地面に横たわる村の人たちに気づいた。


「やはり、陽動でしたか。向こうに人の気配がなかったので、慌てて戻ってきたのですが」

「わたしなら大丈夫です。この娘が守ってくれましたから」


わたしはベアトリスのほうに視線をやった。


「この数をひとりで、ですか。しかも、目だった怪我もしていない。なかなかのやり手ですね」


そう褒められると、ベアトリスの頬が少し緩んだ気がした。普段から無表情だからなんか珍しい。


「爆発による被害はなかったんですか?」

「人の被害はありませんでした。ただ、狙われたのは厩舎だったので、いくつかの動物が亡くなったようです」


それ、わたしのせいだよね。命を狙われたのは、明らかにわたしなんだから。

わたしがここに泊まったから、罪のない動物たちが死んでしまった。すごくかわいそうなことをしてしまった。


アランさんはしゃがんで村の人たちをチェックした。


「ダーナ教団の仕業のようですね。なんと卑怯な。一般市民にも容赦がない」

「でも、どうしてここで狙われたんでしょうか。エルトリアにいたときなんか、いくらでもチャンスがあったと思うんですけど」


むしろそっちのほうが無防備で、いまのように大人数の護衛もいない。わざわざこんな状況で襲う必要はなかったんじゃないかって、わたしは思った。


「おそらく、アリサ様の輿入れを警戒したのでしょう。王の庇護下に入れば、襲撃することは難しくなりますから。本来はしばらく様子見をするつもりが、慌てて計画を立てたのかもしれません」


輿入れって、結婚のことだよね。わたしが王都に向かうってことは、そう疑われても仕方ないのかな。


アランさんは空を見上げるようにした。真っ暗だった空が徐々に薄まり、果ての方から青さが広がっていた。


「ここにとどまるのは危険です。そろそろ夜明けが近いですし、このまま一気に王都を目指しましょう」


そう言って、アランさんは部下に馬車などの準備をするように命じた。


「あの、アランさん」

「なんでしょう?」

「出発する前に、その厩舎に立ち寄ることは出来ますか?」

「構いませんが、その理由を聞いても?」

「亡くなった動物たちにお詫びをしていきたいんです」


アランさんは驚いたような顔をしたあと、しっかりと頷いた。


「わかりました。そのように手配しましょう」

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