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史上最弱のモフモフ召喚士~レベル上げは罪ですか?~  作者: パプリカ
第一章 モフモフ召喚士の誕生と成長編
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初めての討伐クエスト2

「おっ、やってるねぇ」


ふいに近くで聞こえてきた声。振り向いてみると、馬から飛び降りたばかりのララがそこにはいた。


「ララ?どうしてここに?」

「手こずることは予想できたから、加勢にきたんだよ。簡単には決着はつかないだろうと思っていたけれど、まだ両者とも動きは鋭そうだね」


ララは二人のベアトリスを見ても、驚いた様子はなかった。腕を組んだまま、その戦いを冷静に眺めている。どうやら事情を知っているらしい。


「それにしても本当に似ているよね。遠くからだとどっちがどっちかまったく区別が出来ない」

「ねぇララ、あれってどういうことなの?どうしてベアトリスが二人いるの?」

「不思議なことじゃないよ。今回のターゲットはミラースライムだからね」

「ミラースライム?」

「うん。ミラースライムはスライムの上位系統で、その能力は人の姿を真似ることができるというもの」

「人の姿を真似る?」

「そう。実際には姿形だけじゃない。やっかいなことに、その能力もコピーができるんだ。だから本人同士と言うことになるから、戦ってもなかなか決着はつかないんだよね」


じゃあ、わたしを襲ったのはミラースライムだったってこと?それを本物のベアトリスが助けてくれたってことかな。


「ミラースライムは見るだけでその人をコピーするというからね、物陰にずっと隠れていれば、さすがのベアトリスも、その気配には気づかなかったのかもしれないよね」

「コピー能力で全く同じになるなら、ずっと決着はつかないってことなんじゃないの?」

「戦いかた次第だね。実際のところ、コピーはコピーでしかない。相手を何よりも知っているのはベアトリス自身なんだ。自分の特徴を把握した上で、戦略を立てれば勝てるはずだよ」


ひとつの疑問がわたしの頭に浮かんだ。これまでに護衛を伴った商団なども襲われている。ひとり相手なら、なんとか対応ができたんじゃないかって。


「でも、それならミラースライムに襲われた人たちもなんとかなるんじゃないの?複数の人がいれば戦力で上回れるから、簡単に撃退できるんじゃないの?」

「ミラースライムにはもうひとつの特徴があるんだよね。体力勝負になったらきついかもしれないね、いくらベアトリスでも」

「なら、いますぐ加勢してあげてよ」

「そのつもりなんだけど、まずはどちらが本物なのかを判断したいんだよね」


ララがそう言った直後。

本物か偽物か、どちらかのベアトリスが拳を顔面に受けて、木に向かって吹き飛んでいった。幹に背中をぶつけて、そのまま地面に座り込むような体勢になるベアトリス。


きっと、わたしを助け起こしたベアトリスのほうが本物だったのだろうけれど、激しい動きの結果、もう一方からもカチューシャが落ちている。吹き飛ばされたのが本物なのかわからないと、心配することも出来ない。


「おい、ベアトリス!」


ララが打ち勝ったほうにそう呼びかけるけど、反応はない。


「どうやら、吹き飛ばされたほうが本物みたいだね」

「わかるの?」

「ミラースライムは言葉をしゃべれないからね。口数の少ないベアトリスとは言え、いまのを無視するとは思えない。試しにアリサも声をかけてみてよ」

「ベアトリス!」


やっぱり、反応はない。


「間違いがない。飛ばされたのが本物だね。ミラースライムは物理耐性のスキルも持ってるから、肉体派のジョブにとってはなかなか大変な相手なんだよ」

「物理耐性って、攻撃がまったく効かなくなるの?」

「いや、あくまでも直接的な攻撃のダメージを減らすスキル。それに早めに気づいて関節なんかを決められればよかったんだけど、ベアトリスにはわからなかったみたいだね」

「じゃあ、どうすれば」


もうベアトリスは限界のように見える。まだ立てないでいるから。いまアドバイスしても遅すぎる。


「答えは簡単。魔法でやっつければいいんだよ。物理耐性が強い分、ミラースライムは魔法にはめっぽう弱いからね。魔法剣士のあたしでもどうにかなる相手だよ」


ララはそう言って手の平を上に向け、なにかを念じるように目を閉じた。手の平の上に炎の球体が現れ、野球のピッチャーのように偽物のベアトリスに向けて投げようとして……。


「ちょっと待ったぁぁぁ!」


わたしは大声を上げて、ララの動きを止めた。


「ん?どうかした?」

「それって、確実に当たるやつなの?」

「いや、あたしはそこまでの魔法スキルはないから、確実とまでは言えないけど」

「じゃあ、外れたら火事とかになるんじゃないの?」


本物と偽物、両方のベアトリスはわたしたちから見て森のほうにいる。ララのファイヤーボールみたいなやつが森の中に間違って入ったら大火事を引き起こしてしまって、それはそれで取り返しのつかないことになりそうだとわたしは思った。


「確かにそうかもしれないけど、他に方法はないんじゃない?」

「もっと近づいてその、ファイアーボールをぶつけることは出来ないの?」

「接近戦だと難しくなるね。向こうもあたしを狙ってくるだろうし、接近戦だと難しくなるね。魔法の発動にもそれなりに時間がかかるから、ある程度の距離を取らないといけないんだよね」

「他の魔法は使えないの?例えば氷の槍とか?」


それなら火事を誘発することはないはずだけれど、ララは首を振った。


「ごめん、あたしはまだこれしか使えないんだよね。もともと魔法剣士は、限られた魔法しか使えないからね」


偽物のベアトリスが本物に近づいていく。これはもうリスクを取らないといけないってこと?

でも、ララは正確には当てられないって言ってるし、どうしよう。


「よし、じゃあアリサ、まずモフモフを呼んでみて」

「え、どうして?」

「いいから、早く!」

「う、うん、モフモフ!」


モフモフが現れると、ララはその体をつかんで偽物のベアトリスのほうへと投げた。


「な、なにするの、ララ!」

「いや、その姿を見ただけでモンスターが服従したっていう伝説が本当なら、モフモフが近くに来ただけで、土下座でもするのかと思ったのだけれど」


偽物のベアトリスはモフモフを一瞥しただけで、とくに興味は示さなかった。わたしはモフモフを還した。


「わかった。ならアリサ、今度はモフモフアタックを頼むよ。モフモフアタックで偽物のベアトリスを転ばせることができれば、あたしも外すことはさすがにないからね」

「じゃあ、さっきぶつければよかったんじゃないの?」

「モフモフは軽いから、投擲じゃ勢いつかないんだよね。その点、モフモフアタックならアルテイドノダメージを与えられると思う」


習得したばかりのモフモフアタック。それをもう使うべきときが来たみたいだった。

その名前の通り、モフモフを相手にぶつける技だけれど、その効果は確認済み。ダミー人形を倒すこともできている。


「わかったよ、モフモフ!」


わたしはもう一度モフモフを呼んだ。そしてすぐにモフモフアタックを仕掛けた。


ミステルの杖の真ん中くらいを持ち、それを高く上げる。モフモフがわたしの頭を飛び越えて飛んだら、次は前に振り下ろすようにする。


降下しながら、まっすぐに偽物のベアトリスに向かって飛んでいくモフモフ。狙いは正確で、確実に相手をとらえていた。


ところが、ぶつかる直前に意外なことが起こった。偽物のベアトリスがモフモフに気がついて手で、その体を弾き返したのだ。


それでも、高速でぶつかってくるモフモフの衝撃は強く、偽物のベアトリスはその場に膝をついた。ララはその隙を見逃さず、ファイヤーボールを放った。


「十分だよ。よし、いけ!」

「……ん?」


しかし、ここでもまた予想外のことが起こってしまう。


偽物のベアトリスが弾き返したモフモフは、空高く漂っていたのだけれど、それがゆっくり落ちてきて、ちょうどファイヤーボールの軌道上に重なったのだ。


「え、いや、ちょっと」


まずい、と思ったときにはもう遅かった。


ララが放ったファイヤーボール、空から落ちてくるモフモフ。そのふたつが横と縦の線で繋がった。


ファイヤーボールがモフモフに当たり、炎に包まれたモフモフが偽物のベアトリスに当たった。

ミラースライムが魔法に弱いと言うのは本当のことのようで、一発のファイヤーボール……というかファイヤーモフモフによって一瞬で霧散した。


「も、モフモフ!」


本物のベアトリスはすでに立ち上がっていた。わたしが心配しなきゃならないのはモフモフだった。ミラースライムに当たって地面に落ちたモフモフ。


慌てて駆け寄って見ると、モフモフからすでに炎は消えていた。

驚いたことに、モフモフ白い毛は白いままだった。炎によって焦げているようなことは一切なくて、モフモフも元気にピョンピョン跳び跳ねていた。


「モフモフ、大丈夫なの?」


両手で抱き上げて見ても、異変はなかった。モフモフはモフモフのままで、キューとも鳴いている。


「さすがはモフモフ、不死身っていう噂は本当みたいだね」


ララが近くに来て、モフモフを指でつついて言った。


「やけどすらしてないなんて……」

「まあ、神の使いがファイアーボール程度で怪我をしてたら、そっちのほうが驚きだけどね」


モフモフは本当に不死身……それが事実だとしても、わたしは乱暴な扱いはしたくなかった。

モフモフとは会話などのやり取りはできないけれど、それなりに一緒にいるから、ペットみたいな感覚になってるし。


モフモフアタックも、本当なら使いたくない。痛みを感じないかどうかなんて実際にはわからないわけで。


「もしかしたら、モフモフ召喚士って、魔法使いとのパーティーの相性が一番いいのかもね。相手を火だるまにするファイヤーモフモフ、硬質化でガードを破るアイスモフモフ、ちょっと触れただけでも痺れが起こるサンダーモフモフ、いろんな組み合わせが可能かもしれない」


わたしはその様子を想像して、慌てて首を振った。


「そんなかわいそうなことはできないよ」


さすがにモフモフもボロボロになるような気がするし、仮に大丈夫だったとしても、わたしの心が持たないような。


「使えるものは使った方がいいと思うよ。モンスターにモフモフのかわいさが通用しないとわかったいま、貴重な攻撃方法になるかもしれないんだから」


モフモフのかわいさ……見た目だけでなんとかなるなんてこと、やっぱりなかったんだよね。まあ、とくに期待していたわけじゃないけれども。


「アリサ様、申し訳ありません。不覚を取ってしまいました」


ベアトリスが辛そうに顔を歪めたまま、わたしのほうへと歩いてきた。


「ベアトリス、体のほうは大丈夫だった?」

「はい、なんとか。しかし、アリサ様を守るという役目を果たせず、申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「いいよ、そんなこと気にしなくても。どうにかミラースライムも倒せたんだし」

「ミラースライム……そのような情報は事前には聞いていませんでしたが」


ベアトリスの視線がララのほうへと向けられる。


「いやぁ、クエストを受けるときはちゃんと内容を確認したほうがいいよね。ギルドっていうのは最低限の説明しかしないからね。ほら、ひとりひとり新米相手みたいな説明していたら、他の仕事が疎かになっちゃうじゃない」


あのとき、ララはミアに対してなにかを耳打ちしていた。

あれってもしかしたら、細かい説明はしないように言ったのかもしれない。ベアトリスひとりでは出来ないことがあるということを、実戦で教えるために。


「……ララ、今回のことであなたを責めることはしません。たしかにわたしの落ち度であった部分も否定できないからです。わたしにとってもひとつの勉強になりました。これをひとつの糧として次に生かすつもりです」

「物理耐性や魔法耐性のモンスターは結構いるからね、本気でアリサを守るためなら、念入りに調べてから挑むことだね」


二人の間にピリピリとした空気はあったけれど、険悪な空気もまでは言えなかった。よかった。こんな状態で喧嘩なんてされたら大変だし。


「ところで、ひとつ気になったことがあるんだけど」

「なに?」

「モンスターって、どうして人を襲うの?」


単純な疑問だけれど、よく考えたら不思議な感じもする。討伐クエストがたくさんあるということは、それだけモンスターに人が襲われるということだけれど、その動機っていまいちよくわからない。


だってこの世界は自然で溢れている。少なくとも、日本のように適当な開発はされていない。

ここみたいに森林は多く残っているようだから、食べ物だってたくさんあるはず。熊が食べるものがなくて人里に降りてくる、なんてケースとは大分違うように思う。

わざわざ返り討ちに合う危険を犯してまで、人を襲う必要があるのかな?


「それはなんていうか、遺伝子に残った敵意みたいなものじゃない?」

「遺伝子?」

「そう。モンスターは悪魔が退化した生き物って言われているんだよ。悪魔、わかるよね」

「うん。かつてフィオナと敵対した勢力のことでしょ」

「正確にはそいつらに召喚された異世界の生物なんだよね」


異世界の生物、という表現を聞いて、わたしの心臓がドクンと跳ねた。自分のことを言われたような気がしたから。


なんかこっちにずいぶん馴染んでしまったけれど、わたしって別世界の人間なんだよね。

それを忘れたらいけない気がする。日本では辛いことばかりだったけれど、その記憶を捨てるつもりなんてわたしにはなかった。


いつか、ララやベアトリスにも、本当のことを言う日が来るはず。わたしの過去をちゃんと伝えられたとき、わたしたちは本物の友人と言えるような関係を築くのかもしれない。


「フィオナに対抗するため、悪魔はいくつもの召喚生物を呼び出した。ただ、悪魔側の形勢が不利になると、そういった生物は散り散りに散った。もともと忠誠心が薄かったから、最後まで戦おうという気概はなかったんだ」


フィオナも直接の敵ではないため、あえて追撃はしなかったという。召喚生物の多くは森に潜み、そこで新たな生態系を築いていったという。


「とはいえ、人間の敵としての本能はまだ完全に消えたわけじゃない。当時から退化したものが多いとはいっても、人間にとってはまだまだ脅威。人間側にもモンスターに対しての恐れはある。いずれ衝突するのは時間の問題だったのかもしれない」


そこはフィオナのミス、だったのかな。召喚生物を根絶していれば、人とモンスターの対立が生まれることもなかったわけだけれど、でも、フィオナの優しさも否定するようなことはしたくはないんだよね。


「フィオナのせい、というわけではないんだよね」

「まあ、人間側も疲弊していたし、召喚生物を含めた悪魔の全滅はもともと無理があったのかもしれないよね。すべての敵を残らず追いかける、なんてことは現実的ではなかったのかもしれない。仮にいまダーナ教団を滅ぼしたとしても、またいつか勢力は盛り返して再び戦いが始まる、その繰り返しなのかもしれなよね」


歴史は繰り返すというから、そういうものだと割り切るべきなのかもしれない。きっと軍や騎士団が協力をしても、モンスターなんかは全滅は出来ないはず。


わたしがこの世界に来た理由はなんなんだろう、そんな当たり前の疑問を頭に浮かべる。これまではこんなことも考えたことなかった。


こっちの世界を当たり前に受け入れられているから、落ち着いた思考ができるようになっているのかも。


特別な理由があるのかな。トラックに引かれたから違う世界に来ました、なんて単純な話ではないように思う。


この世界にたぶんひとりしかいないモフモフ召喚士。そんな稀少な存在としてわたしがここにいるのには、なにかとくべつな理由があるんじゃないかって思う。

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