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史上最弱のモフモフ召喚士~レベル上げは罪ですか?~  作者: パプリカ
第一章 モフモフ召喚士の誕生と成長編
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モフモフアタック

わたしが自宅に戻ると、ギルドで別れたララが送れてやってきた。

その脇には大きめの何かを挟んでいて、ララは庭にそれを置いた。


「これは剣術の練習なんかで使うダミー人形だよ。知り合いから借りてきたんだ」


それは木組みで胴体と頭だけが作られた人形だった。胴の真ん中を貫いた1本の太い棒が伸びていて、その下に繋がる台座によって支えられていた。


「モフモフをこいつにぶつける練習するんだ。これを倒せたら討伐クエストに出掛けられるってことにしようよ」


ダミー人形に触れてみると、支えになっている棒にはしなりがあって、そうそう簡単には倒れない仕組みとなっていた。


「モフモフは柔らかいから、これを倒すのは難しそうだけれど」

「勢いよくぶつければ倒れるよ。まずはチャレンジだよ」

「そうかな。っていうかそもそも、モフモフをぶつけるってどうやるの?わたしがモフモフを持って放り投げるってこと?」


ララは苦笑した。


「それじゃあ、たいしてダメージは与えられない。石でも拾ってぶつけたほうがまだましだよね」

「なら、どうやってダメージを与えるの?」

「まず、モフモフを空中にあげる。もちろん、念じてね。それから前のほうに動かしながら落下させる。その勢いのまま相手にぶつかっていく、これでモフモフアタックの完成」

「……モフモフアタック」


わたしはその場面を頭に思い浮かべた。モフモフは軽いけれど、空中に浮かぶかどうかは別だと思う。そんなことを試したことは一度もないし。


「モフモフを空中に上げるって、どうやるの?」

「前に進むんなら、空中にも浮かぶんじゃないの?モフモフはピョンピョン跳び跳ねているんだから、ジャンプ能力はあるはずだし」


わたしはモフモフを見た。ピョンピョン跳ねているとは言っても、その高さは微々たるもの。わたしの膝にすら到達はしていない。


「まずは試してみたら?そんな難しいことじゃないんだし」

「う、うん」


わたしはとりあえずモフモフを呼んでみた。

そしてミステルの杖を持ったまま、ジャンプをした。モフモフが空に高く飛ぶイメージをモフモフに送りながら。


「ど、どうかな?」


何度かジャンプを繰り返したあと、わたしはララにそう確認した。隣でジャンプをしているわたしには、モフモフの様子を正確に見ることはできなかった。


「うーん、どうだろう。少し高く飛んだような気もするけれど」


枠を作れる地面とは違い、空中の高さをはかるのは難しい。傷でもつけた壁の近くででもやったとしても、その線を越えたかどうかを一瞬で判断することはなかなかできない。


「もう一度やってみてよ。とにかく、もっとジャンプジャンプ!」


ララにそう促され、わたしはジャンプを繰り返した。


だからといって、モフモフがわたしの頭を飛び越えるくらいに跳ねることはなかった。

その場でジャンプをするだけでも結構疲れてしまい、マジックポイントよりもヒットポイントのほうが早くなくなりそうな感じがして、わたしはその場に座り込んだ。


「だ、だめ、もう、無理。さすがに休憩させて」

「一筋縄でいかなそうだね。でも、アリサは前回もなんとかしたんだから、この試練も乗り越えられると思うよ」

「も、モフモフアタックなんて本当に必要かな。仮に出来たとしても、たいしてダメージは与えられないよね」

「覚えておいて損はないよ。きっといつかは役に立つはずだから。相手を牽制するだけでも、十分な意味があると思うからね」

「そうは言っても、モフモフが空高く飛ぶなんて、やっぱり無理なんじゃないかな。前後の動きとは大分違うわけだし」


前とか横とかに動くことは、わたしにも出来るからハッキリとイメージができるけれど、高く飛ぶというのは不可能だから、モフモフにちゃんと伝わらないのかもしれない。


「……アリサ様、ちょっとよろしいですか」


そう言ってベアトリスがわたしのほうに近づいてきた。


「なに、ベアトリス?」

「さきほどから気になっていたのですが、アリサ様はジャンプをするとき、その杖を支えにしていませんでしたか?」

「うん、してるけど」


ミステルの杖は重いので、それを持ったまま飛ぶことはできない。わたしはむしろ杖に体重をかけるようにして、高く飛ぶようにしていた。


「もしかして、それが原因ではありませんか、モフモフが思いどおりに動かないのは」

「どういうこと?」

「モフモフを呼ぶには、その杖が必要なのですよね。ではモフモフはむしろ、その杖に反応しているのではないかと思います。杖の動きに従っているとしたら、地面に置いたままでは無意味かと思います」

「つまり、杖を高く上げないと、モフモフも高くは跳ばないってこと?」


ベアトリスがうなずくけれど、ララは納得していないようだった。


「でも、それはおかしいんじゃないの?だってアリサは練習した結果、その場にいたままでもモフモフを動かせるようになったんだよ」

「それこそ練習したから、ではないのでしょうか。ある程度意思の疎通を繰り返していると、軽く念じるだけでもモフモフに通じるようになる。前に行け、後ろに下がれ、そういった動きを杖と一体化した行動でモフモフは学んでいた。しかし、高く飛ぶという指示のときには、杖は全く動いていなかった。だからモフモフはちゃんと理解できなかったのかもしれません」


ベアトリスの指摘には一理あると思った。ララも反論をしようとはしなかった。


わたしは立ち上がって、ミステルの杖を持った。これを高く上げればモフモフもそれに合わせるのかな。


杖自体は重いけれど、両手で持てば持ち上げられないというほとじゃない。毎日持ち歩いていたから、慣れもあったのかもしれない。


「まあ、やってみる価値は、あるかもね」

「そうだね」


わたしはモフモフを呼ぶと、その背後に立ち、ミステルの杖の下部をもった。そしてそれを持ち上げながら、モフモフが空高くジャンプをするイメージを思い浮かべた。


「モフモフ!」

「おっ」

「これは」


ミステルの杖を素早く高く持ち上げた影響でバランスを崩してしまい、わたしは杖に押し潰されるような感じで後ろに倒れてしまった。


「あたっ」

「む」

「やはり」


地面に後頭部をぶつけてしまい、一瞬だけ目の前が暗くなった。わたしは倒れたまま頭を振った。


「い、痛い。ミステルの杖に頭を殴られたみたいになった……あれ?」


目線を下げると、そこにはなぜかモフモフがいた。わたしのお腹と杖に乗るようにしている。

どうして?さっきまでモフモフはわたしの目の前にいたはずなのに。


「アリサ、成功したよ。モフモフが飛んだんだ!」

「え、でもここにいるけど」

「それが証明してるんだよ。っていうか、見てなかったの?」

「う、うん」


わたしは高さをハッキリとイメージをするため、ずっと空を見ていたから、モフモフのほうはちゃんと確認してなかった。


「アリサが杖を持ち上げたら、モフモフは高くジャンプをした。そしてアリサが後ろに倒れたら、モフモフもバックしたんだ」

「しかも、結構素早く」


その結果、わたしの体の上に乗るような感じになったってこと?わたしが倒れるのと同時にモフモフも後ろに移動した。

わたしはモフモフの衝撃は感じなかった。それはモフモフが軽いだけじゃなく、その間にミステルの杖があったからなのかもしれない。


「アリサが倒れると同時に後ろにバックしたってことは、その杖の先端のほうにモフモフは反応をしているのかもしれないよね。下の方はあまり動いてないわけだからさ」

「では、もう一度試してみてはどうでしょうか。今度は前のほうに杖の先端を向けてみると、確かめられるかと思います」


わたしは立ち上がり、さっきと同じことをした。ただ今回はちゃんとモフモフのほうを見て、倒れないように気を付けながら。


モフモフはたしかに、いつもよりも高く飛んでいた。わたしの腰くらいまでの高さに到達して、再び落ちていった。


わたしはさらに杖を持ち上げ、今度は前のほうに倒すようにした。

すると、それに合わせてモフモフも空中に浮かんだまま前へと進んだ。攻撃、というほとではないけれど、緩い曲線を描いてモフモフは地面に落下した。


「モフモフアタック、とまでは言えないけど、一歩目としてはとりあえず、成功と言えるんじゃない?」

「ほんと、モフモフは杖と一体化してるんだね」

「それを何度も繰り返す。そうすれば自分の意思だけで動かせるくらいになるし、きっとモフモフアタックは完成するよ」


モフモフアタック。いまのわたしにとっての、唯一の攻撃方法。これをマスターできれば、たしかにわたしの生存確率も上がるとは思うけれど。


「でも……」

「なに?」

「モフモフが何か、かわいそうな気もするんだけど」


モフモフをぶつけるということは、モフモフ側にもダメージがあるということだから。モフモフアタックが強力になればなるほど、モフモフにもそのしょうげきが返ってくると言うことになる。


「そんなの気にする必要ないよ。モフモフなんて死なないんだからさ」

「モフモフは死なないの?」

「前に不死身って言ったと思うけど、覚えてない?」


そう言われれば、そんな話を聞いたような気もするような……。


「でも、不死身だとしても、かわいそうなことには変わりはないよ」

「え、なんで?」


ララが不思議そうな顔で言う。


「なんでって、痛みとかあるんじゃないかな?」

「死なないのに?」


……どうなんだろう?不死身の気持ちなんて、私にはわからないんだけれど。


モフモフとは会話ができないから、本人に確かめる訳にもいかないし。モフモフの表情だってとくに変化はないし、キューと鳴くだけで悲鳴みたいなのも聞いたことはないから。


「そこは割りきるべきだと思うよ。アリサが生き残るためだったら、モフモフは少しくらいの無茶、受け入れてくれるはずだからさ」

「そこはララ様のおっしゃる通りかと思います。アリサ様が死んでは元もこうもないわけですから」

「それはそうなんだけれど」


わりきれるかどうかは、また別問題なんだよね。


改めて思う。モフモフっていったいなんなんだろうって。

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