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故郷 3

ノールクリシアの土地は陸の方に向かって高くなっていて、その一番上に当たる位置に墓地はあった。


ベアトリスのお父さんのお墓は奥の方にあった。他にお墓参りに訪れている人はいなかった。


わたしとベアトリスはそのお墓の前で手を合わせた。どんな人かもわからないのだけれど、こうしてわたしを守ってくれているベアトリスへの感謝も伝えておいた。


「ベアトリスのお父さんって、どんな人だったの?」


ここに来るまで、わたしはベアトリスからお父さんの情報は聞いていなかった。職業なんかを尋ねたとき、ベアトリスが出来れば現地で話したいと言ったからだった。


「……わたしのお父さんは医師でした」

「へぇ、お医者さんだったんだ」

「はい。優秀な医師で、街のみんなから慕われていました」


そこが接点だったのかもしれない。ソフィーさんとベアトリスのお父さんとの。それなら5年経ったいまも感謝の気持ちを抱いている理由も納得できる。


「どうしてお父さんは亡くなったの?」

「病で亡くなったと聞きました」

「聞いた?」

「領主様ーーエリオット様に引き取られたあと、わたしはそう聞いたのです。お父さんが亡くなったときのことは正直、覚えていません。お父さんが亡くなったショックが大きすぎてしばらく寝込み、前後の記憶もなくしたようです」

「じゃあ、気づいたらエルトリアにいたということ?」


ベアトリスはうなずいた。


「最初は信じることができませんでした。エリオット様には親切にしていただきましたが、それでも当初のわたしはひどく荒れていました。その後エリオット様に連れられてノールクリシアを訪れ、このお墓を見てようやく納得したのです」


記憶を失うほどのショックっていったいなんなのだろう?誰かに殺されたとか?


お医者さんなら、逆恨みをされるってこともあるよね。患者の家族が助かると思っていたのに、亡くなってしまった。それは医者が無能だからと決めつけ、そしてという感じで。


「いまもまだ、何も思い出せないの?」

「はい。ただ……」

「ただ?」

「……何かを運んでいたような気がします」

「運んでいた?どういうこと?」

「わかりません。ただ、お父さんのことを思い出すとき、そういう場面が頭をよぎるのです。場面といってもそこがどこなのか、何を運んでいるのかもわからないのですが」


5年前の今日が命日ということは、その日もケモ耳祭りを控えていたということだよね。ということはお祭りのお手伝いをしていたとかかな。まあ、それがどうしてお父さんの死と結び付くかは良くわからないんだけれど。


「ソフィーさんをはじめとした街の人に聞いてみる?5年前のことならはっきりと覚えている人もいるだろうし」

「いえ、結構です。それよりも領主の館へと向かいましょう。アリサ様はモフモフ召喚士。新しい街にやってきたのなら、その領主への挨拶を欠かすことはできません」

「ここの領主ってどういう人なの?」

「中年の男性だったと記憶していますが」


そのとき、ベアトリスが突然手で頭を抑えた。しかも、いつも平然としている表情が歪んでいる。


「ど、どうしたの、ベアトリス?」

「いえ、ちょっと頭痛がしただけです」

「頭痛?」

「とくに体には問題ありませんので、気にしないでください」


この街が海に面しているからかな。湿度が高いと頭痛が起こりやすくなるとも聞いたことがあるけど。


「それでは、領主の館へと向かいましょう」

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