ドラゴン 5
「女神、だと?」
アーサーは『わたし』を見て怪訝そうな表情を浮かべた。
しかし、それもわずかなこと。街の復活をその目で目撃したことで、わたしの驚異的な力を認めざるを得なかった。
アーサーはその場で膝をついた。
「フィオナ様、われわれにお力をお貸しください。あなたがいれば、今からの反転攻勢も夢ではありません。共に手を携え、悪魔を滅ぼしましょう」
「立ちなさい、アーサー。へりくだる必要はありません。わたしはそのためにこの地に降り立った。あなたたちは部下ではなく仲間、これからは命を分け合う友人なのです」
アーサーはその言葉に従い、立ち上がった。
「その言葉、わたしの仲間にも聞かせてもらいたいものです。こうしてみなが復活したとは言え、まだ形勢は明らかに不利。絶望がこの街を包んでいます。フィオナ様の力強い言葉があればへし折れた心も今一度立て直すことが出来るでしょう」
「では、あなたが信頼できる仲間をいまここに呼んでください」
「かりこまりました」
街に消えたアーサーが再び戻ってきたとき、その背後には数人の男女が並んでいた。
戦士のディルムット、召喚士のファーガス、弓使いのリア、ヒーラーのグラニア、格闘家のコナン、魔法使いのルガイド。アーサーに促されてそれぞれが自己紹介をする。
アーサーの仲間たちは、わたしのことを不審そうな目で見る。それも当然だ。女神と説明されたにも関わらず、どこにでもいそうな女性がそこに立っていたのだから。
しかも、彼らにはこの街の変化は感じられなかった。わたしのそばにいたアーサーだけが、死の街の復活を認識することができた。
ここは挨拶代わりとして、何かしらの力を見せつける必要があるのかもしれない。幸い、わたしの実力は彼らと比べても遜色ないどころか、圧倒していると表現しても過言ではない。
おおよその実力差は肌で感じとることが出来る。わたしが女神として生きていくには、明確な違いを見せつけるべきだ。
召喚しかない。とんでもないものを喚べば、みなが驚くはずだ。こちらでは別世界へのリンクは難しいかもしれないが、わたしの実力なら多少強引でも呼び出すことは可能だろう。
「突然女神と言われても、あなた方が戸惑う気持ちもよくわかります。いまここでわたしがそうであることを証明する必要があるでしょう。だからといってここで魔法でも使えば、せっかく元通りとなった町並みが台無しになってしまう。ここはわたしのしもべを呼びましょう。それ一体だけでも、あなた方を超える能力を有するものです」
わたしは杖を持ち、最大限の力を込めて召喚を実行した。
そして現れたもの。
それは、白い何かだった。
「……ん?」
「これが女神様のしもべですか?」
アーザがそれを恐る恐る持ち上げた。
「なんというか、予想とは大分違うものですね。もっと凶暴なモンスターをわたしは想像していたのですが」
キュー、とそれは鳴いている。
「鳴き声も見た目も可愛らしい。愛玩動物にしか見えないが……いや、こうして相手の油断を誘うことが目的なのか。魔法使いもそうだが、見た目で実力は判断できない。この召喚生物の力は何なのですか?」
「力?」
「はい。女神様の第一のしもべなら、強大な魔法も使うことができるのですよね」
「ええと、それは秘密です」
自分の実力を見せつけるために呼んだしもべなのに、その力を隠すというのは矛盾しているとも思ったけれど、アーサーはとくに気にもとめてはいないようだった。
「そうですか。いまはまだ秘密というわけですね。ですが、名前くらいは教えてもらえますよね」
「名前?」
「はい。この召喚生物はなんと呼べば良いのでしょうか?」
「……」
「愛くるしい見た目に、毛布のような柔らかさ。確かにこちらの世界では見かけないような神々しさが宿っていますね」
毛布?
「ぜひ、このしもべの名前を教えていただきたいのですが」
「モフモフです」
「え?」
「モフモフと言いました」
「モフモフ?まさかそれは、毛布から」
「モフモフですが、何か?」
「……」
「……」
アーサーはモフモフを持ち直して、じっくりとながめた。
「なるほど、モフモフですか。確かに言われてみると、モフモフという名前以外、適当なものはなさそうな感じもしないことはないですね。ちょっと間抜けというか、戦闘要員としてはかわいすぎる気がしないこともありませんが」
「わたしは天界から来ました。あなた方の感覚とは違うということを理解してください」
それでみなは納得したようだった。モフモフは何か特別な魅力があるのか、その存在だけでみなはわたしを受け入れ、敬うような流れが生み出された。
結果としてはありがたいことだったのだけれど。
それにしてもーー。
この生物は一体なんなのだ?