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ドラゴン 4

「わたしを向こうまで飛ばしてくれない?」


わたしの提案を、ベアトリスはすぐに理解できなかったようだった。


「それは、どういうことですか?」

「そのままの意味だよ。わたしの脚をつかんで、ドラゴンの上の方に向かって放り投げて欲しいの」


ベアトリスはスキルの影響もあって、ドラゴンも投げ飛ばすことができる。それならわたしくらい何でもないはず。


「つまり、その勢いであの炎の壁を乗り越えるということですか?」

「うん」

「ですが、ドラゴンの反応を考えると、炎を完全に避けることは難しいのではないかと」

「わたしにはマジックマントがある。レベルアップでマジックポイントも増えているし、ある程度ならあの炎も我慢することが出来ると思うんだよね」


正直、正確な計算をしているわけじゃない。わたしの考えが間違いかもしれないけど、他には方法はなさそうだった。


「ですが、仮に炎の壁を乗り越えたとしても、向こうについたアリサ様は壁か天井にぶつかってしまうのではないですか?」

「そこはモフモフにお願いしようかと思う。」

「モフモフに?」

「うん、まずはプリシラにモフモフに結界をかけてもらう。わたしはそれを抱っこした状態で飛ぶ。向こうについて壁にぶつかりそうになったら、その結界を壁に当てる。そうすればダメージはないし、箱のなかでの揺れの衝撃も感じなくて済むんだよ」

「モフモフ結界をクッション代わりに、ということですか。では落ちてからはどうするつもりですか?」

「ドラゴンの背中に乗るよ。かなり大きいからその上に着地すればダメージは少ないだろうし」


わたしの提案を、ベアトリスは簡単には受け入れないようだった。


「それはあまりにも危険すぎます。炎を越えられる保証はありませんし、その後の衝撃でアリサ様が大ダメージを受けるかもしれません」

「うん、それはわたしもわかってる。危険は承知の上だよ。」


ベアトリスはドラゴンの方をじっと見つめる。


「やるしかないよ。このままだと、らちが明かないし」

「では、先程のように壁際を狙った方がいいのではありませんか。」

「それはわたしも考えたんだけれど、ドラゴンの首は長いから向こうに行っても追撃される恐れがあるんだよね」


モフモフは基本的に無害だからか、さっきもドラゴンは何の反応もしなかったけれど、わたしだと対応は変わるはず。ドラゴンは首が長く、サイドに伸ばせば後方にも炎は届く。


「それを回避するには、ドラゴンの真後ろを狙うしかないんだよね。そこが唯一の空白地帯なんだよ」


炎の壁を乗り越えるだけではだめ。その後ろでモフモフアタックを当てないといけない。首の真後ろなら炎はこない。そこでなら狙える。


「お願い、ベアトリス、もうこの方法しかないんだよ」

「ベアトリス、アリサの頼みを聞いて上げなよ」

「ララ、あなたまで」

「これはアリサの試練だよ。アリサの意思を尊重すべきだとあたしは思う。」


わたしの思いが通じたのか、ベアトリスも最終的には納得してくれた。


「わかりました。ただ、一応鎖はつけてください」

「鎖?」

「プリシラの結界で作ったものです。ケルちゃんの首輪にしたように、それをアリサ様の胴体に巻きます。これで仮に失敗した場合には引き戻すことができますので」


ベアトリスがプリシラの方を見る。


「出来ますけど、強度は保証はできないかもしれません。細く長く作り上げると脆くなりますから、外部からの衝撃には弱くなります」


ドラゴンまでの距離は遠く、ケルちゃんの首輪よりも長く作り上げる必要が出てくるようだった。気休め、程度のものかもしれない。


「ないよりはましです。お願いします」

「では」


プリシラがわたしの胴体に結界を巻き付け、余った部分はベアトリス以外のみんなが手に持った。


「ではアリサ様、寝てください」

「え、寝る?」

「脚をつかんで投げるのが一番勢いが出ますので」


大丈夫なのかな。自分で提案をして何だけれど、いまさら怖くなってきた。


わたしが結界に包まれたモフモフを抱いて冷たい床に横になると、ベアトリスは足首をつかんだ。

そして、体を捻り、反動をつけてわたしを空中に放り出した。


わたしはすぐに炎の中に飛び込み、その圧を感じた。マジックマントのバリアによって熱くはなかったけれど、それでも風圧を全て避けることはできなかった。


わたしはドラゴンの頭上目掛けて飛んでいた。正面から来るドラゴンの炎によって、わたしの体は追いやられるようにしてどんどんと天井へと近づいていった。


やがて、わたしの背中が固いものにぶつかった。天井だった。真下からやってくる炎がわたしを天井に押し付けている。


後少しだった。ドラゴンの首は完全に伸びている。さすがにもう反ることはできないくらいに。あとほんの少しでも前に進めば、この炎を乗り越えられるのに。


この作戦は失敗だった。わたしは天井に張り付きながら、ずっと炎を正面から浴びている。

身動きは一切できない。引き戻される感覚がないということは、やっぱり鎖の方も炎によって破壊されたに違いない。


あとどのくらいだろう。マジックポイントがなくなるのは。マジックポイントがゼロになれば、わたしは炎に焼かれて死ぬ。刻一刻とそのときが迫っている。


それも仕方のないことかもしれない。わたしみたいな何の取り柄もない女子が世界を救うなんて間違いに決まっている。きっとここで死ぬのは運命なんだ。もう、諦めよう。


「キュー」


そのとき、モフモフの声が聞こえた。死を受けれてたわたしが目を開けると、そこにあったはずの結界はすでになくなっている。モフモフの結界は小さいからか、耐久性は低かったようだ。


モフモフはわたしの腕から飛び出すようにして、炎の方に顔を向けている。それはまるでわたしに炎が当たらないように壁の役目を果たしているみたいだった。


「モフモフ、わたしを守ってくれているの?」


それでも、この状況は変わらない。モフモフは小さく、炎を遮れるのは一部でしかない。わたしへのダメージはいまも蓄積している。


それでも、少しだけ気持ちは前向きになった。無駄な抵抗かもしれないけれど、わたしは少しでも前に進むように足をバタバタさせたり、体をひねったり、片腕でクロールするようにした。


そのとき。


ふっと体が軽くなったかと思うと、わたしの体は空中へと放り出されていた。ドラゴンの炎を越えて、首の後へと到達していた。


まさか、あの破れかぶれの行動がきいたの?


いや、そんなはずはない。その程度で前進するのなら苦労はしない。そう言えばその直前に何か足の裏に感じた。


後方を見ると、矢の残骸らしきものが落ちていくのが見えた。まさか、ヴァネッサがわたしの足の裏に矢をぶつけたってこと?そんなはずない。そんなことをすれば矢は貫通して今頃激痛が走っているはず。


そうか。氷か結界だ。それで矢の先端を幅広くして、わたしの足裏に当てた。それによってわたしの体は前へと押し出され、こうして炎の壁を乗り越えることができたんだ。


ドラゴンの炎はもはや驚異ではない。真後ろまではやはり、首は回らないようだった。わたしはモフモフを両手で持って、それを真下へと放り投げた。


「モフモフアタァァァック!」


モフモフが当たると、ドラゴンは瞬く間に消滅した。


問題はわたしの方。空中でモフモフアタックをぶつけてしまったため、本来クッションの役割を果たすドラゴンがいなくなってしまった。

このままだと床に落下して死んでしまう。


「あわわ、どうしよつ、落下しながらモフモフ当てるだけで良かったのに」


そんなことを言っている間にも、床は近づいてくる。ここはどうにか死なないようにしてクローネさんに回復してもらうしかない。わたしは両手で頭を抑えて、その瞬間を待った。


「うっ」


傷みはあった。でもそれは床に直撃したものとは違っていた。肩に痛みを感じたけれど、固いものに反発する衝撃は感じなかった。目を開けると、視界が濁っている。息も出来ない。わたしはそう、水の中にいた。


「アリサさん、大丈夫ですか?」


プリシラが駆けつけてくるのがわかった。わたしの周囲にはその時点ですでに水はなくなっていた。床は水浸しになっていてわたしの体も濡れていた。


どうやら、プリシラがわたしの真下に水によるクッションみたいなものを作ったらしい。


「う、うん、問題ないよ。ありがとう、プリシラ。助かったよ」


わたしが立ち上がると、部屋の中央で転送装置が起動する。


「じゃあ、戻ろっか」


みんなが次々に転送装置に触れていく。

そしてわたしが最後にそれに触れると……。

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