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エルフの里 8


「そうか、終わったか」


わたしたちはエルフの里に戻り、一連の流れを長老さんに報告した。


「やむを得ないとは言え、かわいそうなことをしたものだ。アーロンにクライヴ、二人とも賢く、他のものたちと比べて好奇心も強かったように思う。それがある種の変化を呼び込んだのかもしれん」

「同性愛が掟で禁止されている理由は、長老さんにもわからないんですか?」


わたしがそう聞く。この場にはララとベアトリスもいて、二人にもすでに説明は終えていた。


「わからん。いままでそのようなことを考える機会もなかった。掟はエルフにとっての呼吸のようなものだからの」


長老さんでも、エルフの掟がいつ作られたものなのかはわからないらしい。神によって定められたものなら、それも当然かもしれないけど。


「人間の方では、同性愛は認められているんだよね」


わたしはララに聞いてみた。二人が人間の国に向かったということは、そこでなら普通に暮らせるという判断があったからのはず。


「まあ、貴族なんかはそれを公にしている人もいるくらいだから、処罰を受けるようなものではないと思うけどね」


なら、やっぱりエルフ独自の決まりごとなんだよね。エルフだからこそ、意味のある縛り。

しかも、それを決めたのは神だという。


「神様のいじわる、なのかな」

「エルフにいじわるしてどうするのよ。エルフってむしろ神様に愛されてるんぞゃないの?寿命だって人一倍長いんだからさ」

「なら、エルフにとってメリットがあることなの?呪いとも言われてるんだよ」

「さあ、それはわからないけど」

「そう言えば、息子が」


と長老さんがいいかけて、言葉を止めた。


「息子さんが、どうかしたんですか?」


わたしが催促するように言うと、長老さんは重々しい口調で言った。


「いや、以前にわしの息子が気になることを言っていて、それをふいに思い出したのだ」

「どんなことですか?」

「エルフは呪われた存在であると。そして、同時に神に愛された存在でもあると」


……どういうこと?矛盾した発言のように思うけど。


「そして、こうも言っていた。このままでは世界が滅びてしまうと」

「魔王の復活によって、ですよね」

「いや、息子はエルフという存在が世界を滅ぼす、と言っていた」

「エルフが?どうしてですか?」

「わからん。息子は具体的なことまでは言わなかったが、本気でそう信じているようだった。そしてそれを止めるためにと言って、里を出たのだ」


なんかそれ、おかしい。もしエルフが本当に世界を滅ぼすというのなら、どうしてここを出る必要があったのだろう。

そもそも、その情報はどこで得たものなの?なんの根拠があって突然そんなことを言い出したのだろう。

そのことを聞くと、


「おそらく、二つのきっかけがあったのではないかと思う。ひとつはサチとの出会いだろう」

「サチ」

「実を言うと、サチが現れたとき、そこへと駆けつけたのはわしだけではなかったのだ。息子と一緒だったのだ」


サチに話しかけたのも、長老さんではなく息子さんの方だったと言う。

それがきっかけになったのか、ここにサチが滞在しているとき、一番仲良くしていたのも息子さんだったという。


サチが自殺をしたあと、息子さんの様子がおかしくなったと言う。短い期間しか付き合いがなかったのに、息子さんはサチの死にかなり落ち込んだと言う。


「エルフにとって人間は余所者でしかなく、サチの滞在も数日でしかなかった。しかし息子はまるで長年の友人を失ったかのように、しばらく自宅から出ることもできなかった」

「サチのことを好きになったんじゃないですか?一目惚れというものもありますし」

「いや、それはないだろう。息子には当時、すでに婚約者がおった。彼女のおかげで立ち直れたといっても過言ではない。もしサチに恋心を抱いていたら、そのような流れは生まれなかったのではないか」


そうなのかな。ある種の失恋を、別の恋で埋めるというのも、充分にあり得るとは思うのだけれど。


「それからの息子は以前と同じような姿を取り戻した。サチについても口にすることはなくなった。あの日までは」

「あの日、というのは?」

「その日は天候が悪かった。強い雨が降り、雷の音も激しく鳴っていた。息子はそんな中、森の奥にひとりで出掛けた。サチの墓を見に行ったようだ」


その当時、サチのお墓はいまのような状態ではなく、息子さんが作った墓碑が立てられ、サチの遺品も添えられていたらしい。息子さんはそれが雨で流れてしまうのではと心配したみたいだった。


「わしは息子の姿が里にないことに気づ、すぐにサチの墓へと向かった。予想通り息子はそこにおったが、わしの存在に気づくことはなかった。サチの墓にかぶさるようにして地面に横たわったまま、気を失っていたからだ」

「雨に濡れたせいですか?」

「いや、息子を雷が直撃したらしい」

「雷」

「わしは息子を背負って里に戻った。息子は死んではいなかった。数日間眠りについたあと、何事もなかったかのようにして目覚めた。そして、起き様にこう言った」


ーーこのままではエルフが原因で世界が崩壊する。この運命を回避しなければ。サチの意思を受け継ぐためにも。


「わしは困惑した。目覚めた息子はどこか別人のようになっていた。雷の直撃によって起きた一時的な変化かもしれないと思ったが、そうではなかった」


ーーお父さん、ぼくはここを出て行きます。世界を救うために出来ることをやりたいと思います。


「そして、息子は里を出ていった。わしの説得にも耳を貸さなかった」

「最後まで詳しい説明はしなかったんですね」

「ああ。どこへ何をしに向かったのかもわからない。しばらくすれば戻ってくるかもしれないと期待もしていたが、その後、一度も姿を見せることもなかった」


いまの話を聞く限り、長老さんの息子さんは雷で頭に異常が発生したとかではないみたいだけど。


「サチの意思を受け継ぐ、ということはやはり、サチから何かの話を聞いていた、ということでしょうか?」

「かもしれん。正確なところは本人に聞くしかあるまい。百年近く戻ってこないのであれば、そなたたちのほうが会う可能性はたかいのかもしれんな」

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