いただきます
(…もうこんな時間か)
「~♪」
セシリアが抱き着つくことから手を握ることにシフトする程度には落ち着いた頃。
外は暗くなり、冒険者ギルドに併設されている食堂では
酒をあおりクダを巻く者の他に食事をとる者も現れてくる。
ギルドの時計はおよそ6時を指していた。
「セシリア、いい時間だし飯にしよう」
「!は~い!」
カイはセシリアを連れて食堂のテーブル席に着く。
「メニューは…読めないんだったな。とりあえず俺と同じメニューでいいか?」
「は~い。カイ君とおなじ!ふふっ」
「んじゃ…すいませーん」
「お呼びでしょうか」
カイが呼びかけると奥の方から店員が顔を出す。
「ベーコンパスタを2つ、それに適当なサラダをつけてもらっていいか?」
「かしこまりました」
注文を受けた店員が下がり、程なくしてパスタとサラダを持った店員が現れる。
「お待たせしました」
「ああ、ありがとう。いただきます」
「?ありがとうございます~。いただきます~」
「!いや待て待てストップ!ストップ!」
パスタの良い匂いに待ちきれなかったかセシリアは手づかみで食べようとするが
それに気づいたカイが止めに入る。
「セシリア、こういうところではこれを使って食べるんだ」
カイはセシリアにフォークを見せながら言う。
「?でもさいしょの時は~…」
「う…あ…あの時はちょっと特別だ」
「?…は~い」
「これはこうやって刺してこう…巻いて食べるものなんだ」
簡単に使い方をレクチャーするカイ。
フォークの先でぐるぐる巻きになったパスタを口へ運ぶ。
「どうしてこんなことするんですか~?」
「んっ…あ~…こうやって食べた方が手が汚れないできれいだから………?」
「きれい~…」
「せ…セシリアがきれいな方が…俺もうれしいし…な……?」
「!!じゃあそうします~!」
カイの真似をしてフォークの先端にパスタを巻いていくセシリア。
カイがして見せたときより二回りほど多くパスタが巻き付くが、
気にせず口へ運ぶ。
「ん~!おいしいです~!!」
「それは良かった」
「はい~!とっても~!!ぐるぐるパクパクむしゃむしゃバクバクもっもっ」
「相変わらず気持ちいい食いっぷりだなぁ…」
あっという間にパスタを食べきったセシリアが野菜を軽くつまむカイを見る。
「?そのはっぱもたべれるんですか~?」
「葉っぱって…まぁ葉っぱか。これもうまいぞ?食べてみるか?」
「んん~…カイ君がそういうなら~…」
半信半疑といった様子のセシリアだったがサラダを口に入れた瞬間、
「おいしいです~!!パリパリむしゃむしゃパクパクもぐもぐ」
「そうだろう?」
サラダが乗っていた器がすぐにカラになる。
だというのにセシリアの視線はカイの元にあるパスタに注がれている。
「…よかったらこれも食べてくれ。」
「いいんですか~!?」
「ああ。…追加で何か頼むか。すいませ~ん、追加で…」
「もぐもぐっパクパクぐるぐるムシャムシャんむっんむ」
パスタを食べ終わり、汚れてしまったセシリアの口周りをカイがナプキンで拭き取る。
「ん~♪」
「お待たせしまた、追加分になります」
「ああ、ありがとう」
「!いただきます~!ぱくっむしゃむしゃがつがつがつがつもっもっもっ」
店員が空いた食器を持って下げやすいよう整理している間に
セシリアは追加で来た料理を食べ切ってしまう。
「…すいません追加で」
「…はい」
「~♪」
そんなやり取りを数度繰り返すと周囲の人々がセシリアの異様さにが気付き、
ちょっとした見世物のようになってしまう。
「がつがつパクパクむしゃむしゃもぐもぐバリバリごくんっ」
「すいません、次は…」
「わはははっいいぞ~嬢ちゃん!」
「やるねぇ、彼女」
「どれくらい食べてるんだ?何品目だ??」
「ワタクシも負けていられませんわ!」
「や…やめておいた方がいいんじゃ…」
「む…!」
「すげぇ…料理が来たと思ったらもう消えてる!」
「ムシャっむしゃむしゃもぐもぐんぐんぐぱくぱくぱくぱく…」
「ごっくん…ふ~、おなかいっぱいです~」
「「「「ワアアアアァァッ!!」」」」
「…どうも」
ひらひらと周囲に手を振るカイ。
改めてソースやらアブラやらでよごれだらけのセシリアの口元を拭いていく。
カイは注目を浴びることは苦手ではあったが、
セシリアに人前で手をつながれたりいきなり抱き着かれたりいきなり告白されたりと
恥ずかしい思いを経験したせいか、それに比べると
何とも思わない程度には人目に慣れてしまっていた。
「7200ゴールドになります。」
(高!?この食堂割安なのに?!!…20品分くらい食ったのかセシリア?
今日の稼ぎが飛ぶレベルだぞ……マジか……)
(俺も途中で楽しくなっちゃったんだよなぁ…次からは気を付けないと…)
「~♪」
若干青ざめた顔のカイのとなりで幸せそうにお腹をさするセシリア。
そこへ一人の男性がやってくる。
「や、君たち。いい物見せてもらったよ!」
「はぁ…どうも」
「どうもです~」
「お礼と言っちゃなんだけどここの支払いは僕がやっておこう!」
「いいのか!?…っいや助かるが…」
「いいのいいの!君たち冒険者でしょう?僕も昔は冒険者だったから
何だか懐かしくなってね。」
そう言いつつ男は手際よくマジックカードを取り出し、会計を済ませてしまう。
「君たちの行く先に幸あれ、ってね。応援してるよ!」
「…ありがとうございます!」
「ありがとうございます~」
「縁があったらまた会おうね~」
(今回は助かった…たまたま運がよかっただけだが)
(それにしても毎回この調子でセシリアが食うとしたら…
1日3食で食費が日に2万近くになるのか…?)
(…本格的に稼ぎを考える必要があるなぁ)
「~♪」
(………頑張るかぁ)
腹も満たされ、カイという恋人と手をつなぎその手を振り回しながらご機嫌に歩くセシリア。
その顔を見てカイは気合を入れなおす。
(幸いセシリアの戦闘能力は高い…俺がうまく補助できれば稼ぎの幅も増えるはず)
(まぁ何にせよ今日は疲れた…。色々ありすぎた。もうゆっくり休むか)
そうしてカイはある建物の中に入っていく。カイの宿泊している宿である。
カイはカウンターのところにいる女将へ近づき挨拶する。
「ただいま」
「ただいまです~」
「うん?おかえりカイちゃん…と、そっちの子は?もしかして???」
「まぁ…そのもしかしてだよ…」
「あら…あらあらあらあら!!!」
バシバシとカイの肩をたたく女将。思いのほか力が強くカイはバランスを崩してしまう。
「む~…カイ君をいじめちゃダメです~!」
「あらっごめんなさいねぇ。お嬢さん、あなたのお名前は?」
「セシリアです~」
「セシリア…セシリアちゃんね。いい名前じゃない!
カイちゃんをよろしくね、セシリアちゃん!
この子いい子なんだけどねぇ中々お相手が見つからなくってねぇ~」
「そうなんですか~」
「そうなのよぉ~それでねぇ…」
「…悪いが聞きたいことがあってな」
「うん?何かしら?」
「俺とセシリアはまぁそういうことだ」
「そういうこと~?」
「……恋人っていうことだ」
「!!」
「それでセシリアを俺の部屋に泊めたいんだが」
「あら!全然いいわよ!」
「その場合部屋の代金はどうなるんだ?2人分払うことになるのか?」
「あぁ~うちは部屋ごとで料金取ってるからねぇ。一部屋分の料金、今まで通りでいいわよ!」
「そうか、助かる。それじゃあ今日は疲れてるから早速部屋に戻りたいんだがいいか?」
「はいはい、おかえりなさいカイちゃん。セシリアちゃんも!」
「ああ、ただいま」
「ただいまです~」
女将から鍵を受け取り、カイはセシリアと共に自分の部屋へと向かう。
腕を組みながら歩く二人を眺めがら女将はため息をつく。
「…若いっていいわねぇ」
「ふぅ~う…セシリア、お疲れさま」
「カイ君もおつかれさまです~」
「シャワー浴びて寝るかぁ…セシリア、先シャワーいいぞ」
「しゃわー?」
「…っ!!」
(シャワーも知らないか!そりゃよく考えればそうか!しかし…!ということは…!!)
「?」
「…………………っはぁ~……
…………一緒に…シャワー……浴びるか……?」
「は~い、いっしょいっしょ~♪」
(いやいやいやこれは仕方ない…やり方知らないんだし……
一人でシャワー室入れたら石鹸とか食うかもしれないし……
シャワー浴びさせずそのままってわけにもいかないし………)
(それに恋人なら…一緒にシャワー浴びるのも普通のはずだし…?)
脳内で言い訳を並べるカイ。
うだうだと言い訳をしながらもカイの愚息には元気が漲り始めていた。
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