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たいせつにしてください



「ここが冒険者ギルドだ」


「ぼうけんしゃギルド~」


「さっきの総合ギルドは手続き関連全般のとこでな。

基本的に俺ら冒険者はここに世話になる」


「そうなんですね~」


「ああ。それであそこの掲示板に張り出された依頼をこなしたり、

魔物の素材をあそこのカウンターで買い取ってもらったりで稼ぐわけだが…

今日は素材があるから素材の方で金をもらう」


「は~い」



カイは素材の買取カウンターにいる逞しい男性に

冒険者免許証を提示しながら話しかける。



「すまない、買取をお願いしたいんだが」


「おぅ、どれだい?」


「これなんだが…」


「ホーンラビットとグレーウルフの毛皮に……ビッグボアの牙か!

うん?いや待て、あんたD級だろ?

よくC級のビッグボアなんか倒せたな?すげぇな」


「すごいんです!」



カイが褒められて嬉しくなったのか、セシリアが胸と声を張りながら言う。



「?そっちの嬢ちゃんは見かけない顔だな?」


「あー…色々あってな…まぁビッグボアは俺だけじゃなく

この人にも「セシリアです~」…セシリアにも手伝ってもらって何とかな」


「ふぅん…嬢ちゃんのランクは?」


「ランクは~?」


「あ…っと、さっき総合ギルドでもらったカードがあるだろ?

それの顔のある方のカードに書かれてるんだが…」



セシリアはカードを2枚とも取り出し、顔写真入りの方を見つめる。

が…。



「…??」


「読めないか…まぁEだよ、E。」


「E!?」


「ちなみにAが一番強くてB、C、D、Eの順に強いことになる。

セシリアは冒険者に成り立てだからEだな。

…説明するの忘れてたなぁ」


「ふむ~…カイ君はDだから~…わたしよりつよいんですね~!」


「いや俺はそんな強くは無いんだが…」


「…このビッグボアはどこで倒したんだ?」


「うん?ギトワの森だが…」


「ギトワの森…ちょっと待っててくれ」



逞しい男性はビッグボアの牙を持ちながら席を離れ、他の職員らしき人の元へ向かう。

逞しい男性とその職員らしき人はビッグボアの牙について何か話しているようだった。



(な…なんかやらかしたか?)


(…よくよく考えたら普通はギトワの森にビッグボアはいなかったはず…

何年かギトワの森で狩りをしてる俺ですら今日初めて見た。)


(その普通はいないC級のビッグボアをD級とE級の冒険者が倒す…

…よくよく考えたら結構怪しい状況だな?)


(…全部本当のことではあるんだが…何か言われたりするんだろうか)



逞しい男性がいなくなり、カイが内心冷や汗をかいていると

手持無沙汰になりきょろきょろと辺りを見回していたセシリアの目に

あるものが飛び込んでくる。



「…きれいですね~…」


「ん?ああ、魔石か」


「ませき?」


「ああ、魔力を込められる石のことなんだが…

こんなところにテキトーにおいてあるってことは

使えないやつだろうなぁ」


「つかえないんですか~?」


「多分な。魔石は生成された時点で込められる魔力の上限が決まるんだよ。

で、中の魔力を使い切った後もまた魔力を込められるんだけど

魔力の上限が高ければ色々使い道はあるけどその分希少で価値も高い。

だからこんなところにいい魔石は置いとかないと思うんだよな。

上限が低すぎて使える魔力も少ないような魔石だと思う」


「でも…きれいですよね~…」


「そうだなぁ…」

(…実は地属性の魔術士も魔石は作れる。

俺も地属性だから作れないかとやってみたことはある)


(魔石作りに特化して一財産築き上げた魔術士もいるらしいから

俺にも出来ないかと真似てみたが…まぁいい物は出来なかったな)


(一応魔石の見た目にはなったんだよな…。

セシリアが魔石を気にしてるみたいだし今度作って贈ってみるか?)





少しして逞しい男性が二人の元へ戻ってくる。



「やぁ~すまんすまん、話し込んじまった」


「…その牙のことを話し合ってたみたいだが?」


「ああ、それなんだよ!まず最近この辺だと普通は見ないような魔物…

しかも場所に見合ってない高ランクのやつが見つかる報告がチラチラあってな。

それこそあんたらがギトワの森でビッグボアに遭遇するようなな」


「へぇ?」


「それで一部の冒険者に原因の調査とそういう魔物を討伐するための

指名依頼をギトワの森にも出してたんだが…ここを見てもらえるか?」



逞しい男性はビッグボアの牙を指さす。



「ちょっと色がかわってますか~?」


「そうそう!これが熱による変色痕でな。

その指名依頼を受けた冒険者の中に炎属性の魔術士がいて炎の魔術を牙に当てたけど

取り逃したビッグボアがいる、って報告がそいつからあったんだよな。それが昨日の話」


「ふぅん…俺たちが倒したビッグボアがその個体なんじゃないかと?」


「そういうこと!原因はまだ調査中なわけだけど

とりあえずギトワの森で見つけた変わった魔物はこのビッグボアが最後だったんだ。

だから今しばらくはギトワの森は大丈夫なんじゃないか、という見立てだな」


「…それって俺たちがビッグボアを横取りしたことには…」


「ならないな。その取り逃がした冒険者の力不足ってことになるな」


「…そうか。取り分が減るかと不安だったんだが良かった」


「いやむしろあんたらの報酬は増えるな。ちょっとではあるけど」


「本当か!?」


「取り逃した強い魔物の後始末してもらえたことになるからな。

それじゃあ長くなったけど報酬を支払おう。マジックカードはあるよな?」


「ああ。セシリアもマジックカードを」


「これですか~?」


「そうそうそれそれ。報酬は俺とこのセシリアとで二等分してもらっていいか?」


「お安い御用よ!」



逞しい男は傍に立てかけてあった棒状のものを手に取る。



「まずはセシリアから…セシリア、カードのこのマーク部分をこの棒の近くにかざしてくれ」


「こうですか~?」


「そんな感じだ。次にカードの縁に指をあてる」


「はい~」


「これでいいはず」


「OKOK。嬢ちゃんはマジックカード初めて使うんだな。いくよ~。

ホーンラビットとグレーウルフの毛皮、ビッグボアの牙、それと討伐報酬。

合わせて…」



逞しい男は棒に何かしらの操作を加える。

するとセシリアのマジックカードの’0’と書かれていた部分の数字が変動し

’10200’となる。



(1万200ゴールド!普段の俺の2日分くらいの報酬だ!)



続けてカイも同じ手順を踏み、

カイのマジックカードの数字部分も’10200’が足された数字になる。



「ちゃんと報酬は支払われたな?」


「ああ、ありがとう」


「ありがとうございます~」


(セシリアの服代の4万5千を賄いきれるほどじゃないにしても

サイフのダメージは軽減されたな…この調子で稼いでいけるか?…っと)


「それでセシリア、このマジックカードに書かれている数字までが使えるお金になる。

欲しい物があったらその値段と同じ分の数字をこのカードの数字の中から相手に渡せば

その欲しい物と交換することが出来るわけだ。」


「ほしいもの…」


「大体どの店でも使えたと思うんだが」


「使えるというかこの王国内じゃマジックカードが使えないとこは

そもそも店の営業許可が下りないな。そういう決まりがある」


「そうなのか」


「…わたし、あれがほしいです」



セシリアはそう言うとさっき見ていた魔石を指さす。



「ん?あれか?あれは質のよくないやつなんだがな」


「やっぱりそうか…一応そうなんじゃないかという話はしてたんだが。

それでもセシリアは気になってるみたいなんだ」


「あーまぁ女の人は宝石とか好きだもんな」


「ん…よかったらセシリアにあの魔石を売ってくれないか?

実際にマジックカードでどう買い物するかとか教えたいと思ってたんだ」


「なるほどな。よしわかった!嬢ちゃんの残高は1万200だな?

あの魔石は300~400ゴールドくらいのもんなんだが

キリ良く200で売ろう!」


「助かる」


「たすかります~」


「それでセシリア、買う時のやり方もこのカードの数字を増やした時と一緒だ。

やってみてくれ」


「は~い」



セシリアは逞しい男性が構えた棒にカードのマーク部分をかざし、縁に指を添える。

セシリアのマジックカードに書かれた’10200’という数字が’10000’となる。



「よしっ、これでこの魔石は嬢ちゃんのものだ」


「ありがとうございます~。ふふっ」


「よかったな、セシリア」


「はい~。それじゃあカイ君…」


「ん?」


「どうぞ!」



セシリアは買ったばかりの魔石を両手のひらに乗せ、カイの方へ差し出す。



「うん?」


「カイ君にあげます!」


「…?欲しかったんじゃないのか?」


「え~と~…わたしはカイ君のことがだいすきです!」


「ん゛ん゛っ!?」


「交合もきもちよかったですし~おなかいっぱいたべさせてくれました~」


「ぶっ!?」


「いやいやいやちょっとそういうシモのことは言わないで…」


「かわいいふくもくれました~。そのうえかっこいいです!」


「うん…うん…」



セシリアの突然の告白に真っ赤にした顔を両手で覆うカイ。



「ですけど~わたしはカイ君になにもかえせていません~…

なので~これをあげます!」


「うん…はい…ありがとう…大事にする…」


「どうぞです!」




恥ずかしさから消えてしまいそうになりながらもセシリアから魔石を受け取るカイ。



「それに~…そのませきは~…わたしの目の色とそっくりなので~…

カイ君にもっててほしいな~…って思いました~!」



少し気恥しいのかもじもじしながら言うセシリア。


カイはセシリアが自分の頬に手を添え、

セシリアの見開いた目と自分の視線が交わった瞬間のことを思い出す。

神秘的な光りを放ち、魂さえ吸い込まれそうな魅力を持ったセシリアの紫色の瞳。

魔石はその紫に似た色をしていた。

その次の瞬間に口づけを交わしたことも思い出し、カイの顔面の赤がより強くなる。


恥ずかしさで爆発しそうなカイだったがセシリアから受け取った魔石を

何とかズボンのポケットへしまう。



「だぁっははははは!仲良いなぁ、あんたら!」


「はい~。恋人ですので~!」


「っはははは!そうだな!恋人なら仲良いな!!

ふっくくくくくくくく…!」


「…………………」



逞しい男性は堪えきれず大笑いしてしまう。

それが周囲の注目を呼び、カイは余計にいたたまれなくなる。



「……~~~~よし!それじゃあもう用は済んだ!行くか、セシリア!」


「は~い」



一刻も早く立ち去るために雑に話を切り上げるカイ。



「おお。またな、お二人さん!最後にあんた、カイって言ったか?」


「ああ、そうだが…」


「お嬢ちゃんを大切にな!」


「たいせつにしてください~!」


「…………たいせつにする…」


「~~♪♪」



セシリアはその大きな胸がぎゅうと押しつぶれるほど力強くカイに抱き着き、

頭をぐりぐり擦りつける。


カイはそれ以上何も言えなくなり、

逞しい男性にひらひらと手を振り買取カウンターを後に…したかった。

セシリアが抱き着いているせいでうまく歩くことが出来なかったため、

時間をかけてなんとかその場から離れることが出来た。


閲覧ありがとうございます。


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