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─────ビーニの街。


カドン王国の北西に位置する小さな街。

農業がやや盛んなおかげか食料品が安く買え、

また周辺に発生する魔物もそこまで強くないが

多めに発生するため日銭程度なら稼ぎやすく、

カイのような低級冒険者には住みやすい街であった。






(手続きのための総合ギルドはまぁ今日行くがその前に…)



カイはセシリアを見る。


男物のマフラー、男物の上着、腰には毛皮、足元も紐でぐるぐる巻きの毛皮。

顔はカイという恋人の視線に気づきそれに返す笑顔…というのはさておき

明らかに浮いている風貌であった。



(…まずは服だな。時間もあるし)



目的地を定めセシリアを連れて歩く。








「「いらっしゃいませ」」



カイとセシリアが扉を開けるに合わせて同時に挨拶をする全く同じ顔の店員二人。

ここはその双子とその親族が経営する服屋であり、カイの行きつけの店でもあった。



「魔物と戦ってこっちの方の服が全部駄目になってしまってな…

すまないが女物には明るくないんで適当に一式見繕ってもらえないだろうか?」



顔こそ全く同じではあるが店員は男女の双子。

男の方はズボンを履いており、女の方は長スカートを履いている。

カイは長スカートの店員に話しかけ、セシリアの服を見てもらうよう頼む。



「!」



こっちの方、と言われこっちですよ、と身振りでアピールをするセシリア。



「かしこまりました」


「ああ…それとこの腰の毛皮は実は魔物のものなんだが

これの買い取りもお願いしていいだろうか?」


「かしこまりました」


「かいとり?」


「ん?…んー…お金と交換してもらう…ってことだよ」


「こうかん…」


「そうそう交換」


「…やです…」


「ん?」


「…いやです!」


「え…」



腰に巻いた毛皮をぎゅぅっと握るセシリア。



「これはわたしがカイ君からもらったものなので~…

だれかにあげるのはいやです!」


「えぇ~…そんなに気に入ってたのか」


「うぅ~」



毛皮は誰にも渡さないという強い意思を感じる表情のセシリア。

セシリアとしてはカイからもらったものは全て大切なものになっており、

誰にも渡したくなかった。



「ん~…そういうわけで店員さん、買取はやっぱキャンセルで」


「かしこまりました」


「代わりに毛皮はこの靴にしてるのも含めて

何か別のものに加工してもらえないだろうか?

俺が手加えたもんだから処理とか甘いと思うんだ」


「かしこまりました」


「セシリア?そういうわけでそれの買取はナシだ。

代わりにもっといいものにしてもらうから

この人たちにちょっとだけ預けさせてもらえないだろうか」


「…ちゃんとかえしてもらえるんですよね~…?」


「ああ、大丈夫。絶対返してもらえる」


「…わかりました~」



不承不承といった感じながらも受け入れるセシリアを連れて長スカートの店員は店の裏に回る。

ぜったいかえしてくださいね~?という猜疑心強めのセシリアの声が聞こえた後、

長スカートの店員はセシリアから受け取った毛皮をズボンの店員に渡し、

ズボンの店員はその毛皮の状態を確認し加工を始める。

長スカートの店員は持つ服を変えながらセシリアの元へ行ったり来たりを繰り返す。



(…そういえば機嫌悪そうなセシリアは初めて見たな…

いや今日会ったばかりだけども。)



そんなことをカイがぼんやり考えていると



「「お待たせ致しました」」



二人の店員が着替えの終わったセシリアを連れてくる。



「どうですか~カイ君…?」


「おぉ、いいじゃないか。似合ってるよ」

(こういう時はとにかく褒めるといいとどっかで聞いたからとりあえず言っておこう…。

まぁ似合ってると思ったのも事実だしな。)


「…うふふ♪ありがとうございます~」



カイに褒められ気を良くし、その場で軽くターンをするセシリア。

カイの選択はとても正しかった。


ケープとスカート、帽子は黒をベースに紫の差し色。

腕のカバーと脚のサイハイソックスが白。

ブーツはカイのものと同じデザインの軽めで頑丈なもの。

全体的に申し分無かったが…



「その…胸はなんとかならなかったんだろうか…?」



カイが店員に小声で聞く。

セシリアの胸は半分ほど露出しており、

上機嫌に小さくステップを踏むセシリアのそれは

大きく揺れ、今にもあふれ出しそうだった。



「申し訳ありません。あれが当店での最大サイズのものになります。

彼女は大きすぎました。」


「………そうか……」

(………街中じゃスカーフ掛けて隠させるか……)





「毛皮ですが、足に巻かれていた小さいものは

今彼女が付けている帽子とさせていただきました。」


「ああ…なるほど、ありがとう」



セシリアがしきりに帽子を触って嬉しそうにしていたことに得心の行ったカイ。



「腰に巻いていた大きなものはこちらの毛布になります」


「わかった。ありがとう」


「それでは毛皮の加工代金と」


「お洋服一式の代金、合わせまして」


「「4万5千ゴールドとなります」」


「ぐっぅ…!?」

(高っっっ!?!!?ほぼ俺の半月の稼ぎじゃねーか!!

女物は高いのか!?俺の服の倍以上してる…!!!)




カイの思う通り女性物の服は全体的に割高である。

とはいえこの店は冒険者用服飾装備の店であり、過酷な環境を想定されるため

頑丈な生地が使われ、それを女性好みのデザインに加工するのに

手間が普通より多くかかるためその傾向が顕著だった。


実は他に行けばもっと安くて良い女性物の普段着等を取り扱っている店もあったが、

着るものにあまり頓着が無いカイは他に店を知らず、

魔物と戦った、という話から双子はセシリアも冒険者と判断。

そこから冒険者向けのそれなりのものを見繕ったためこのような悲劇が起きてしまった。



(俺の予備の服も買いなおそうかと思ってたがキツイなこれは…仕方ない…)

「………支払いはこのカードで頼む…」


「かしこまりました」



カイの出したカードのとあるマークの部分にズボンの店員が棒状のものを近づける。



「ロックの解除をお願いします」


「はいはい…」



カイがカードをいじるとカードに書かれていた数字から

店員が提示した金額分の数字が引かれる。



「「ご利用ありがとうございました」」


「ああ…どうも…。行こうかセシリア…」


「は~い」



なるべくセシリアの胸元を隠すようマフラーをかけてから店を出る。



「………」


「~♪」


「…ん…いやセシリア」


「?」



沈むカイにご機嫌なセシリア。

セシリアはカイの持っていた毛皮の毛布を手に取り、再び腰に巻こうとする。



「それはそうするものじゃ無くて…」


「…ダメなんですか~?」



不服そうな声を漏らすセシリア。

セシリアは毛皮を腰に巻くものと思っており、また気に入っていた。

腰に毛皮を巻くのは周りから浮いてしまうため、

そうならないよう服を買ったのだがこれでは本末転倒である。



「いやダメじゃないが。そうだな……

それをしない方が……俺は…その……












かっ…かわいいと思う……」


「っ!!!それじゃあ~このままにします~!」


「っ…ああ、この毛皮は俺が預かっておく。落ち着いたらまた返す」


「は~い。うふふふ…」


「ん゛っ…」



上機嫌になり、カイに寄り添い恋人繋ぎをしてくるセシリア。

恥ずかしいながらもセシリアの扱いがわかって来たカイ。

とはいえカイがセシリアをかわいいと思ったのも本心からではある。



(クソっ…恋人いるの結構楽しいじゃねえか…!)


(女に貢いで破滅するバカの話は何度か聞いたことはあるが…

気持ちがわかる気がする…4万5千の価値はあった気がしてくる)


(それでも痛い出費であることは変わらんが…

まだファングボアの牙が残ってる。コイツの値段に期待だな)



「カイ君…わたし…かわいいですか~?」


「ん…ああ…」


「~っ♪♪♪」



流石に2度目のかわいいは恥ずかしくて口に出せなかったカイ。

代わりにセシリアの頭をぽんっと撫でる。

それでもセシリアの機嫌のメーターは良い方向に振り切っていた。







セシリア 衣装

挿絵(By みてみん)

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