いっしょにいます
街の関所に着き、衛兵が二人に気づく。
カイは街に入る手続きを済ませるため衛兵に軽く会釈をし、受付小屋の方へと行く。
セシリアもカイの真似をし、衛兵に軽く会釈をしてカイについて行く。
(まずは街に入る手続きだが…どうなるかな)
受付小屋に入ったカイとセシリアは受付係にも会釈をし、挨拶する。
「お疲れ様です」
「おつかれさまです~」
「お疲れ様ですカイさん。と…そちらの方は?」
「あー…」
「セシリアです~。カイ君の恋人です!」
「…です」
「はぁ」
誇らしげに答えるセシリアに少し怯むカイであったが、
気を取り直し受付との会話を続ける。
「え~…セシリアは森で倒れているところを俺が見つけたんだけども…
どうも記憶喪失みたいで話を聞いてもあんまり要領を得なかったんだ」
「…森で倒れていた記憶喪失の人と恋人になったんですか??」
「はい~!」
「ん゛ッ(よく考えたらおかしいとこだらけじゃねえかこの説明!これは終わっ…)」
「それは…………
………素敵ですねぇ」
「ステキでした~」
(ってない!?何!?何が起きた!??)
「おきたらカイ君がいて~」
「ふんふん」
「そのあとおっきいまもの?ビッグボアさん?がきて~」
「へえへえ」
「バキってやられてだめかな~っておもったんですけど~」
「ほうほう」
「カイ君といっしょにえいってやっつけました~」
「はいはい」
「カイ君がとってもかっこよかったです~!」
「なるほどぉ~~~~ッ!」
「……」
受付は若い女性だった。恋バナに目がないタイプの女性だった。
受付嬢の脳内では右も左もわからぬセシリアの前に颯爽と現れたカイが
セシリアを襲いに来た強大な魔物を打ち倒し、そして恋に落ちる…
と言った物語が展開されていた。
ガールズトークに置いてきぼりを食らっていたカイはひと段落ついたところで
受付嬢に説明を続ける。
「あー…それで行方不明者の中にセシリアみたいな人がいないか聞きたいんだが。
関係者の人に送り届けられるかもしれないし。
あぁ、あと記憶喪失なんでもしかしたらセシリアというのが本名じゃないかもしれない。
セシリアとは自分から名乗ったが名前を思い出すまで間があったんだ」
「うぅ~ん はい!少々お待ちください!」
そう言うと受付嬢は後ろの戸棚から何らかの帳簿を取り出し、
中身を確認していく。パラパラっといくらかページに目を通したところで
カイ達の方へ向き直る。
「お待たせしました。この街を含む王国全土の記録を
調べてみたところ’セシリア’という名前の女性の行方不明者、
及びセシリアさんのように青く長い髪の女性の行方不明者はいないようですね」
「…そうなのか?」
「はい。ちょうど先ほど行方不明者一覧は更新されたばかりですので
行方不明になって間もないから記録も無い、ということもまず無いと思います。
青い髪自体珍しい髪色ですし…その…身体的にも特徴的なものをお持ちですので…
そういった印象に残りやすい人が記録にないというのは間違いありません」
受付嬢がちらっ…とだけセシリアの双丘を見て言う。
「ふぅん…?それじゃあセシリアは…?」
「はい!
きっと空から舞い降りてきた天使様ですよ!!」
「…………はぁ…?」
「そうなんですか~?」
受付嬢は最近、空から舞い降り、記憶を無くした天使が
初めて出会う男と惹かれあって行く…
という恋物語を目にしたばかりであった。
「…そしてぇ…二人はぁ…ブツブツ…ってぇ…ふふふ…」
「いや…そうじゃなくて」
「あっはい!」
「セシリアはどうすればいいだろうか」
「そうですね。え~…身元不明でその身元もすぐにわかることは無さそう、
しかしこの街の住民のカイさんの恋人、ということであれば
カイさんを身元保証人としてこの街の住民として仮登録するのがいいかと思いますが…
その前にカイさんの身分証明書を確認させてもらってもいいですか?」
「ああ、はい」
「お預かりします。…ふんふん…なるほど、お返ししますね。ありがとうございました。
確認したところカイさんはこの街での冒険者としての活動が長く、
また重大な違反等もありませんでしたので身元保証人としての資格は十分にあります。
身元不明だと色々不便…それこそこの街に入れることも出来ないので
元の身分がわかるまでの一時的措置としてこの街の住民として仮登録、
というのは全然認めらています。
加えてこの街、実はちょっと人口が少ないので住民が増えることは大歓迎なんですね。
恋人となればさらなる人口増加も見込めますので手続きは簡単に済むと思います。
よってセシリアさんにはカイさんと総合ギルドで手続きをしてもらい、
この街の住民になった上でお二人一緒の住所に住む、
というのがカイさんセシリアさん双方にとって良い選択かと思われます。
やはり恋人は一緒にいるべきなので!」
「いっしょにいたいですね~」
「ですよね~!!」
「はい~」
最後の一言以外は非常にまともなことを喋り出した受付嬢に面喰いつつも
カイは疑問を投げかける。
「ん…セシリアの記憶が戻って身元がわかった場合ってどうなるんだ?
例えばそれで恋人とか夫とかが元からいた場合とかは?」
「その場合、元からあった身元の方が優先されこの街での住民登録は無効になります。
あくまで一時的な措置としての仮登録となりますので。
ただその後セシリアさんがどうするかは記憶が戻ったセシリアさん次第ですね。
記憶がなくなる前の場所に戻るか、カイさんとの生活を続けるか、
それとも第三の全く別の場所へ行くか…全てセシリアさんの意思決定に依ります。
仮にセシリアさんに恋人・夫がいたとした場合、当人同士で話し合いをし、
てそれぞれが納得の行く形にしてもらうことになります。
…が、元の恋人・夫・その他家族がいた場合でも
現状でセシリアさんに該当する行方不明者の記録がないということは
その人は行方不明者捜索の申請をしていないことになりますので
そんなロクデナシよりセシリアさんを保護し、
身元保証人になり面倒を見て、今現在恋人であるカイさんの方が
法的にも愛的に強いです!」
「法的にも愛的にも…」
「つよいんですね~」
「まぁ最終的にはセシリアさんの意思が優先されるわけ・で・す・が…?」
「カイ君といっしょにいます~」
「ですよね~~!!!なので大丈夫だと思います!!!!」
セシリアは力強くカイの腕に抱きつく。
「はぁ………」
(大丈夫…大丈夫なのか…言われたことは全て筋が通ってるよな…
まぁ…大丈夫なら大丈夫か!)
「と、いうわけで早めに手続きを済ませることをおススメします。
総合ギルドの営業時間はまだ余裕がありますので今日中にも行けるはずです。
こちらから先にセシリアさんのことを総合ギルドへ連絡しておきますので
受付でカイさんの名前と身分証明書を出してもらえばスムーズに話が進むと思います。
セシリアさんをこの関所から街に入れるのもそういった事情として処理しておきます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます~」
「それではお帰りなさい、カイさん!
そしてようこそセシリアさん!このビーニの街へ!」
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