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はなれません


(…とりあえず落ち着いてみよう)


「んっ…ん~」



カイは比較的きれいな布を取り出し、脂まみれのセシリアの口元を拭う。

されるがままに口を拭われるセシリアは若干気持ちよさそうだった。



(恋人…もう恋人ということにするか…恋人ならさっきヤってしまったことは

まぁ恋人同士のやり取りということで不問になるか…?)


(それなら街に戻って俺が犯罪者になるという線は無くなる…

これは喜ばしいこと…だよな?)


(いや…記憶喪失みたいだが街に戻って即身元が分かって身内が見つかるということもあり得る…

そうなった場合どうなるんだ…?)


(特に記憶喪失前のセシリアさんに恋人・夫がいた場合…その場合俺は殺されても文句は言えない)


(恋人・夫がいてそれでも記憶が戻らず俺を恋人と想い続ける可能性も…

そうなったら…?……何か…考えたくなくなってきたな…)


「?」




セシリアの口元を拭っていたカイの手が止まってしまう。




(…いや!もういいか!もう今は俺の人生初の恋人が出来たということに喜んでおこう!

後のことはその時その時で考える!あとは何とかなるだろ!何とかなってくれ!)



開き直る、という結論を出したカイはビッグボアの解体の際、簡単になめしておいた毛皮を

適当な大きさに切り、手近にあった柑橘系の果物を潰して果汁を軽く全体に振りかける。



「セシリアさん、とりあえずこれを腰に巻いておいてくれ。

さっきかぶせてた服は戦いでどっか行ったしもう予備がない。

一応臭い消しはしたがそれしかないんでちょっと匂っても我慢してもらえると助かる。」


「は~い」


「そんでにこれを…っと」



カイは自分の上着とマフラーをセシリアに着せる。



「それと…何か裸になるの気にしてないみたいだが簡単に肌を見せないようにしてくれ。

…あ~…こ…恋人以外には…そういうのを見せないもんなんだ…よ…?」


「わかりました~。はだかを見せるのはカイ君だけに、ですね~」


「んん゛っ…!?ま…まぁそういうことだ」


「ふふ~」



セシリアはかけてもらったマフラーに顔を埋め、深呼吸する。


カイは続けてビッグボアの毛皮をセシリアの足に巻き、

紐で縛って簡易的な靴にする。



「痛くないか?セシリアさん」


「なんともありませ~ん」


「良かった…。俺の靴だとサイズ合わなそうだからな。

靴のサイズが合わないと歩きづらいからちょっとの間それで頼む。

それじゃ、街へ向かおうと思う。セシリアさんのことが何か分かるかもしれない。

この辺りは入り組んでて周囲が見渡しづらいし魔物も出る。

俺から離れないようにしてくれ。」


「は~い。はなれませ~ん」


「ああ、それと恋人なんだ、セシリアって呼び捨てにしていいか?

セシリアも俺のことは好きに呼んでくれてかまわない」


「セシリア…ふふっは~い」



呼び捨てにされたセシリアはくすぐったそうにしながらも嬉しそうだった。



「でもカイ君はカイ君です!」


「…まぁいいか。ただ俺以外の人を呼ぶときはさん付けで呼んでくれ。

その方が面倒になることが少ないからな。

例えば…ビッグボアさん…みたいに」


「わかりました~。ビッグボアさん!」


「…よし、行くか」


「は~い」




(…にしても)



カイはセシリアの羽織る上着が抑えきれない程大きく盛り上がる二つの山を見やり、

思わず感嘆してしまう。



(…デカイな…)


たゆっ


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