表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/18

わたしのなまえ

(…………

……………

………………

……………………

…………………や…

…………………………




ヤってしまった……っ)




男が目を覚ますと美女の胸の中だった。

それに驚き身を翻し少し距離を取り、

美女のその太ももに流れる液体を見て

自分が何をしたか…してしまったのかを完全に思い出した。



(…あんな強姦のような事したらもうただでは済まんだろう…

いや…強姦のような事でなく強姦か……)


(あそこまで発情してしまったのは魔術の副作用とは思うが…

本当にそうかもわからんし、だったとしても別に俺の罪は軽くならんだろう…

ヤってしまったものはヤってしまったんだ…)


(街に連れて行ったあとは大人しく自首するか…

終わったな…俺…あんまりいいことなかった人生だった気がするが…)


(協力してもらったとはいえ格上のビッグボアを倒せたこと…

ヤったこと自体はアホほど気持ちよかったくらいか…?いいこと…

……犯罪がいいこととか最低だな…俺…素直に罰を受けた方がいいな…)



美女を置いて逃げ、無かったことにする、という選択肢もあるにはあるが、

男の人の好さか、あるいは出来事の重さに思考が麻痺したか、

ともかくそういう発想が男には出てこなかった。



(………というか…)


(何か近くないか?)



自己嫌悪に頭を抱え、地べたに座り込んでいた男。

そのすぐ隣…それこそ肩と肩が触れ合う程の至近距離に美女もまた座っていた。



「?」



美女は男の視線に気づき、笑顔で手を振り返す。

男も釣られて手を振り、苦笑いを返す。



(わ…わからん…何を考えてるんだ?

俺に悪い印象を持ってる感じでは無さそう…

むしろ好印象すら持っているように見える…?

好感を持たれるようなことは全くしてないと思うんだが…)


(まぁ気のせいだろうな…とりあえず)


「あ~…」


「はい?」


「とにかくすまなかっ"ぎゅるるるぅ~"…」


「?」


「…すまな”ぐぅ~ぐるる”……

…ごめんなさ”ぐるるる…”…」


「…」


「……」


「………」


「…………」




「”ぎゅ~ぐるるる…”」




「…飯にするかぁ~~~~」


「は~い」”ぎゅるるるるぅ”



とりあえず謝罪をしようと思った男だったが

美女の腹の虫に邪魔され、それが叶わなかった。

このままでは話も進まないと思い、食事の準備を進める。

道具を背嚢から取り出す際、ついでに小袋も取り出し美女に渡す。



「その中にクッキーが入って…いや違う違う違う中!中に!そうそうそれそれ」



小袋ごと齧りそうになる美女を慌てて止める。



(明らかに食えなそうな袋なんだが記憶喪失ってそこまで忘れるのか…?)


「時間かかりそうだからそれでも齧って待っててくれ。

俺が作ったやつだから味の保証はでき…無いんだが…」


「んぅう?」


「…もしかして全部一気にいったのか…?」



美女の頬袋はパンパンに膨れており、小袋の中身はもう何も入っていないようだった。



サクサクサクサク


モグモグモグモグモグ


ゴクンッ


「ん~とってもおいしかったです~」


「…それはよかった…」



自分の作ったものを誉められ若干嬉しく感じた男だったが



ぐぅ~…るるる…


(それでも足りないのか!?結構腹が膨れる材料で作ったんだが…)



美女の食い気に圧倒されそれは吹き飛んでしまった。



「…今からこいつを解体して焼くからもうちょっと待っててくれ」


「は~い」



男は気を取り直し食事の準備に戻る。

火を起こし、ビッグボアの解体にかかる。



(ボア系の解体はしたことないが…

まぁ他の魔物と似たような感じでやってみるか)



実はビッグボアは魔物の中でもかなり美味いと評判であり、

男も当然その噂は知っていてこの後実食するのが密かに楽しみだった。



(これが最後の飯になるかもなぁ…味わって食うか。

血抜きも出来てたら尚よかったんだろうが…まぁ仕方ない。)



男は慣れないながらもビッグボアを牙・皮・肉・内臓へと解体していき、

骨付きの肉を火にかける。

少しすると肉の焼ける良い匂いが漂い、美女が待ちきれない様子で涎を溢れさせる。

もう少し間を置いたところで男はナイフで軽く肉を削ぎ、味見する。



「…うん、うまいなぁ…」


「…そうですか~」


「…っとすまん!もう火は通ったみたいだ。存分に食べてくれ」


「!!は~い!」



言うや否や美女は肉を鷲掴みし、一気にかぶりつく。



「ちょ…」


「がふっもっもっもっん~~…ゴクン!

っ!!がっがっもぐもぐもぐ…もっもっ…がつがつがつ

もぐもぐもぐバクっんぐっんぐっもっもっ」


「…マジで存分に食うなぁ」


「ばくばくばくガギッゴリゴリッコッコッコッ…

がつがつがつんもっんもっんもっ」


「…いや今骨まで食べてなかったか?食えるのか?骨??」


「もぐもぐゴリっ…ゴックン……はぁ~……あ!」


「!!どうした?」


「ごめんなさ~い…ぜんぶ食べちゃいました~…

…食べたかったですよね~…?」


「あ…ああ、いや気にしないでくれ、さっきの一口で腹いっぱいなんだ」


「そうなんですか~?よかった~……」



そう言う美女の目線は未だ生である肉の山に注がれていた。

まだ食べたりないらしい。



「…折角だしもう全部焼くかぁ。今焼くからもうちょっと待っててくれ」


「いいんですか~!?ありがとうございます~!」



パァっと華開くような笑顔になる美女。

男はこの顔が見れたなら安いもんかもなぁと思い、

すぐさま肉を焼き始める。



(そういえば本当に腹は減って無いんだよなぁ…なんで…あ)



機嫌良さそうに鼻歌を歌い、横にゆらゆら揺れる美女に合わせて

たぷたぷ揺れる胸を見て男は思い出す。



(母乳を飲んだからか!…いや母乳が出るということは誰かの母親?!

余計にまずいだろ!…?…いやヤった時血が出てた…ということは処女のはず…??

処女なのに母乳…???そういう体質…???…ダメだ…わからん…)



男は美女と行為に及んだ際、気の行くまで美女の胸から溢れ出てくる母乳を飲んでいた。

あまり女性に詳しくない男でも流石に普通は母乳が出ないことくらいは知っている。

頭の中が混乱しつつも手を休めず肉を焼き上げそれを美女に差し出す。



「出来た…ぞ…?」


「わぁ、ありがとうございます~」



混乱のおさまらない男だったが



「ばくっもぐもぐもぐもぐガッガッガッバリゴリバリもっもっ」



美女の凄まじい食べっぷりを見続けて



「もぐぅっバクバクっバリバリバリッもぐもぐもぐ…」


「……ふっ」



何だか自分の悩みが馬鹿らしく思えてきていた。



「バクバクガツガツッもっもっゴリッもぐもぐもぐ…」











「おいしかったです~」


「ああ、それはよかった」



美女は結局全ての肉を平らげ、流石に満足した様子だった。

お腹も食べる前に比べ二回りほど大きく膨らんでいた。



(そうだな…戻れば何らかの罰は待っているだろうが死罪とまでは行かんかな。

生きてればなんとかなるだろう。…がその前に謝罪はしっかりしとかないとな。

…許してはもらえないだろうが。)



「なぁ、さっきはすまなかった」


「?」


「いや…その……ヤ…ってしまって…」


「やって??」



前向きに覚悟を決めたとは言え行為のことを女性に向かって口に出すのは

男にとってまた別の勇気が要ることだった。



「その…ぅ…無理やり~その~…」


「はい~」


「挿れてしまってすまなかった!ごめんなさい!」


「いれて…あっ!交合のことですね~」


「こう、ごう」


「え~と~?交接?房事?情交?えっち・セックス・交尾・ファック・性行為…」


「うぉおちょちょちょそれ!それのこと!」

(何でそこの語彙が豊富にあるんだ!?)


「どうしてあやまるんですか~?」


「どうしてって…」












「私たち、恋人ですよね~?」




「こい………びと………?…へぁ?…………???」




「はい~」



想定外すぎる美女の言葉に男は固まってしまう。



「なん……恋人……え?…??……???」


「?ちがいますか~?」


「え…何でそう思っ…え…?」


「えっと~交合?えっち?をするのは恋人ですよね~?」


「うん…はい」


「なので~セックス?交尾?をした私たちは恋人ですよね~?」


「うん…うん?……???」


「恋人じゃない人と性行為?房事?をするのはよくないですけど~」


「ああ…よくないな」


「恋人ならファック?情交?をしてもいいので~」


「うん」


「私たちは恋人なので~」


「うん……?」


「あやまらなくてもいいんですよ~?」


「そう………………………………………………だな……………………?????」


「うふふ、そうですよ~」


「うん…………???」








(なん……?なんだ?何かを間違っている…気がする…??

何を間違っている?何が間違っている??わ…わからなってきた…)



「ふふっ」 スッ


「っ!?」



美女は男に近寄り、手指を絡ませてくる。



「これ…’恋人繋ぎ’っていうんですよね~?」


「…うん……はい………?」


「~♪」



上機嫌な美女は更に近づき、胸が男の腕に当たる。

男はそのまま流されそうになるのを必死に堪える…が

何がおかしいのか理解できず、混乱を続けていた。



(いや…いやいやいや!何かが違う!変!おかしい!

けどそうか!さっきからこの人が俺を見る目が好意的な気がしたのは

俺のことを恋人だと思ってたからか!!…この人……?あっ!!!!)



男は気付いた。未だに美女の名前を知らず、

自分も未だに名前を名乗っていなかったことを。



「いや違う」


「?」


「俺はあんたの名前を知らないしあんたも俺の名前の知らないだろ?」


「しりませんね~」


「名前も知らない相手とは恋人同士にはなれないだろ」

(よし!これだ!)



さも名案を思い付いたかのような男だったが、



「それじゃあ~あなたはなんていうおなまえなんですか~?」


(あ…)



ここでお互いに名乗るだけで終わることに気づけなかった。



「…………………………’カイ’………………」


「かい…カイ君ですね~?」


「カイ君……はい……」



名乗らない、という手もあったが名案だと思っていたものが即時に破られてしまい、

そこまで頭が回らずにカイは諦めてしまった。



「わたしのなまえは~………?」


「…?」


「…?…???」



美女は自分の名前を思い出せないようだった。

カイは美女が記憶喪失らしいこと思い出し、一瞬光明が見えた気がした。


が、



「ああ!」













「わたしのなまえは’セシリア’です~」






その光は淡く消え去ってしまった。



「セシリア…さん……」


「は~い」





「これで恋人ですね~カイ君♪」


「そう…ですね……」





恋人繋ぎの手をぎゅっと握り、カイの肩に頭を乗せるセシリア。

とても嬉しそうなセシリアとは対照的に力無く虚空を見つめるカイ。


温度差のある二人の間にただただ時間が過ぎていった。







セシリア

挿絵(By みてみん)


カイ

挿絵(By みてみん)


閲覧ありがとうございます。

気に入っていただけたら評価・ブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ