いいんですよ
「すごい音ですねぇ~」
「そうだ…なっ!」
「ぁんっ」
「(やわらかっ…いやいやいや!)すまんがちょっと我慢してくれ!」
男は呑気にしている美女を抱え、すぐさまその場から離れる。
間を置かずに轟音の主が今まで二人のいた場所を蹂躙していく。
「ブオオオオォォォッ!!」 ベギベギベギッ
男は目にする。その体高は男の約2倍。
口元から大きな牙二本が生える猪系の魔物。
「ビッグボアか!?」
「ビッグボア?」
「ああ、俺も初めて見るから多分だが…」
「それじゃあはじめましてになりますねぇ~」
「はじっ…まぁそうなるけどっ(なんでこんなのんびりしてるんだこの人!)」
「ブルルルゥ…ッ」
驚愕している男、変わらず呑気な美女。
その二人に狙いを定めたビッグボアが今一度突進の体勢に入る。
(クソッ…ビッグボアっつったら確かC級の魔物…D級冒険者の俺にはキツすぎる!
普段こんなとこにはいないはずなのに…どうするどうするどうする…っとりあえず…)
「何もしないよりはマシだろ!」
男は勢いよく地面に手を付ける。
すると魔力が流れ、ビッグボアの足元の土が隆起し、ビッグボアの足を覆い隠す!
男は地属性の魔術師だった。が…
ボコッボコッ「ブオオオオオオォォォ!」
「ダメか…っしかも余計キレた!何もしない方がマシだったか?」
簡単に足元の土を振り払い、面倒なことをされたと苛立ちを募らせるビッグボア。
地の魔術で相手の身動きを止め、その間にナイフ等で急所を刺す、
というのが男の得意とする狩りの方法であったが
暴力の塊のようなビッグボアには力不足だった。
(どうするどうするどうするどうする…攻撃魔術は碌に使えねえし
ナイフなんか通らねえだろうから倒すなんか論外!
もう少し強力な拘束も出来るがそれには魔力の貯めが要る…その隙晒してる間にやられる!
逃げようにもこの人がなんかのんびりしてて逃げづらい…どうするどうする…)
ドッドッドッ
死を身近に感じ否応にも早鐘を打つ心臓の鼓動。
考えを巡らすも妙案など浮かぶはずもなく
あきらめの四文字がうっすらと浮かんできた男に美女が話しかける。
「あのこを何とかしたいんですか~?」
「ん?ああ…まぁ何とか出来れば一番いいが…」
「わかりました~」 タッタッタ ぶるん ぶるん
「は…?…おいおいおいおい待っ!~~~!?」
そう言って美女はビッグボアの方へととてとて歩きだした。
着るものを全く気にしていないのか簡単に羽織らせただけだった服がずり落ち、
再び全裸になってしまう。あらわになった二つの胸が歩みに合わせて大きく揺れる。
男は止めるべきだが見るべきではない、だが見たい!
という思考が重なりショートしてしまい、咄嗟に動くことが出来なかった。
そしてビッグボアに近づいた美女は
「えいっ」
拳を振り下ろし
ヒョイっ
ビッグボアにそれを避けられ
ボゴォっ
その拳はビッグボアの避けた先にあった岩を砕き
ドッ バギバギバギッ ズゥーン…
ビッグボアの後ろ蹴りを浴びてしまい吹き飛ばされ樹に激突してしまった。
「大丈夫か!?」
「う~ん…ダメでしたぁ~」
「大丈夫なのかよ!!」
かけつけた男の心配をよそに何でもない様子の美女。
打ち付けられた樹が倒れてしまう程の衝撃だったというのに外傷はかすり傷一つなかった。
(肉体強化の魔術か?いや…魔力は感じなかったから素の身体能力?
何にせよとんでもない防御力だ…それにあの拳の破壊力!もしかしたらいけるかも知らん…!)
「なぁ、ちょっと聞いてくれ」
「はい、なんでしょうか~」
「さっき俺があいつの足元を土で覆ったんだが見たか?」
「あ~、あれはあなたがしたことだったんですね~」
「そう、あれをもう一回、今度はもっと強力にやってみる。
それであいつを少しの間足止めするからあんたはその間にあいつを倒してくれ」
「わかりました~」
「問題は強力になる分溜めに時間がかかることと強力にしたところで
俺の力じゃ足止め出来んかも知れんっていうことなんだが…」
「さっきのぼこぼこをさっきよりつよく出したいんですね~?」
「ああ」
「それでしたら~」
美女が男へと手をかざす。
「…?」
「う~ん…ちがうかな~…」
次に美女は自分の手と男の手を絡ませる。
「なぁ!?」
にぎにぎ 「こうでもない~…?」
美女に触れられ思わず赤面してしまう男。
高まっていた心臓の音に生命の危機以外のものが加わる。
「えぇ~…何してるん「ああ!わかりました~!」
そう言うと美女は男の頬に手を添え目を見開く。
(うっ…綺麗だ…)
美女の紫色の瞳に男が目を奪われた次の瞬間、
美女は男の唇に自分のそれを重ねる。
「ん…」
「!?っ!??!?っ」
「ぷぁ…」
「っは…!?!??」
時間にしてほんの一瞬の口づけ。しかし男には永遠にも感じられた。
「何を…!?」
戸惑う男だったが魔力の漲りを感じ、美女の目的を理解する。
(魔力の強化魔術か!何故あの形式だったのかはわからんが…何にせよこれで行けそうだ!)
「ブオオオオォォォォッ!!」
岩をも砕く美女を警戒していたのか少し大人しくしていたビッグボアだったが
口元から垂れるよだれから察するに空腹に耐えかねいよいよ二人を攻めることにしたようだった。
「くらえ!!」
男は再び手のひらを地面につけ魔力を流す。
先ほどよりも高密度・大量の土がビッグボアの足を覆い尽くす!
「ブオオオォォッ!?」
「よしっ今だ!頼む!!」
「は~い」
美女は再度とてとてとビッグボアに近づき拳を眉間めがけて思いっきり振り下ろす。
「えいっ」 ボゴンッ
「ブォッ…!」 ぎょるん ズシーン…
「やったか!?…念のためもう一発頼む!」
「は~い」 ドゴンッ
「ブォフ………………」
「…これで多分大丈夫だろ…はぁ~助かったぜ。ありがとな」
「どういたしまして~」
「…っと、すまんな、ビッグボアの血で手を汚させちまった。
これで拭いてくれ」
「ありがとうございます~」
(いや~~何とかなってよかった!しかも相手はビッグボア!格上!
素材を売れば結構な金額になるはず!二人で山分けしても余裕でいつもより稼げてる!
今日はちょっと贅沢するかなぁ”ドクンッ”あ…?)
気づけば男の下半身のモノは痛いくらいに勃っていた。
そして男の目から見た美女が先ほどより強く魅力的に見えていた。
そう、襲ってしまいたいくらいに。
(まさか強化魔術の副作用か!?こんなところまで強化されるのかよ…グッゥ…!!)
「フゥーッ…フゥーッ…!!」
「あら?だいじょうぶですか~」
「うぐぅっ…!」
男の状態など知らない美女が近づく。
声が・吐息が・触れる手が男の理性を崩壊させて行く。
しかも美女は今、全裸であった。
「~~~!!」
「う~ん…とってもつらそうですね~…何かをがまんしてるんですか~?」
「っ~~!~~~!」ぷにゅ「~~~~~~!!!」
「んぅ」
あっちへ行ってほしい、と手を振るジェスチャーをするつもりだった男の手に美女の胸が触れてしまう。
思わず漏れてしまった美女の甘い声も重なり男の理性は糸一本分くらいまでしか残っていなかった。
「何があったのかわかりませんが~…大丈夫です!」
「がまんしなくていいんですよ~」
がまんしなくていいんですよ~
男の脳内にその言葉がこだまする。
恐らく大丈夫、ということを表すために
両腕を広げて軽くこちらに向けたポーズを取った美女であったが
それが男には全てを受け入れる、と言った意味合いに見えた。
プツン、と男の理性の糸は切れてしまった。
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