…おはようございます
『一番年上なんだから我慢なさいな』
(…そう言われるのは嫌だったなぁ。)
(だから下の子らに言わないようにしてた…
つもりだけど…出来てたかは自信ないな…)
『これが’カ’でこれが’イ’…あなたの名前よ』
(…そうやって文字を覚えたなぁ。)
(それでたまたまあった魔術の本で勉強して…?)
『体に気を付けるんですよ』
(…そうだ。負担になるからって外に出て…それで冒険者になって…)
『おめでとうございます。これで貴方はD級冒険者へ昇格となります』
(頑張って勉強して…D級になって…)
(それから…?)
『ザシュッ…ドッ…バッ…』
(魔物を狩って…)
『ザシュッ…ドッ…バッ……ザシュッ…ドッ…バッ……ザザッ…』
(魔物を狩って…魔物を狩って……狩って…)
『たのしそうですね~』
(…?)
『いじめますか?』
(……)
『これがわたしの~…』 『かわいくないかもです』 『いただきます~』
『たいせつにしてください~!』 『おてつだいします~』 『かわいいですか~?』
『いっしょにいます~』 『はなれませ~ん』
『わたしのなまえは…』
「………セシ……リ…ア……?」
「…おはようございます~」
「…?おはようございます……?…」
目を覚ましたカイにセシリアが優しく、しかし強く抱き着く。
すんっすんっ、と鼻をすするような音がするので泣いているようだった。
カイはセシリアの背中をなだめるように優しく撫でる。
「あ~…何があったんだ?」
「カイ君…カイ君…」
「ん…」
見渡すとそこは全く見覚えのない場所。
自分の宿より上質な布団、広い部屋。棚には花瓶に花が活けてある。
セシリアに質問するも回答が返ってこず、ただただ抱きしめられるだけなので
どうしたものか、とカイはセシリアをなだめつつ思っていると
魔術士風の赤い服を着た少女が二人のいる部屋に入ってくる。
「失礼しま…起きているじゃありませんの!!!」
「!?」
「カイさん大丈夫でして?!大丈夫そうですわね!!
少々お待ちくださいまし。看護士さん!看護士さーん!!」
「あ…っちょ」
言うや否や赤い服の少女は大声を出してどこかに行ってしまった。
そのちょっとした騒動の衝撃でカイは段々と思い出してくる。
(そうだ…!確かあの子…クリスさん達とダンジョン探索に行って…
それで魔術の事を色々教えてもらって…それで……?)
(……ダメだ、このくらいしか思い出せない。攻撃魔術が使えるようになって
嬉しかった記憶はあるんだが…その後どうしたんだっけ?何があったんだ??)
「看護師さん!こちら!こちらでしてよ!」
やかましい声と共にクリスが看護士を連れて戻ってくる。
看護士の問診を済ませた後、カイはクリスに何が起きたのかを聞く。
クリスはボス部屋に入ってすぐにカイがやられてしまったこと、
そのカイを攻撃したものは悪魔だったこと、そして悪魔は何とか倒せたこと、
悪魔の亡骸を回収した別の悪魔がいたこと、
その後は満身創痍になりながらも全員で無事に帰ってこれたことを話す。
それを聞いたカイは頭を抱える。
「…そんな状況でずっと寝てたのか…俺…役立たずもいいとこだ…
しにてえ…穴があったら入りてぇ…」
「何をおっしゃいますの!カイさんがいてくれたから全員無事に帰ってこれましてよ!
深く感謝いたしますわ!」
「そうか…ありがとう…」
心からの感謝を述べるクリス。
カイはそれを慰めの社交辞令と受け取ったが、
そう言ってくれる相手にウダウダしても仕方ないと
頭を切り替えたところで気付く。
「…っ!?そういえばここ病院だよな!?しかも結構良い!
俺そんなに金ないぞ!!」
「ああ、その件なら心配には及びませんわ!」
聞けば悪魔を撃破した時に渡された悪魔の角の価値が非常に高かったとのこと。
角を引き取ったのは神・天使・悪魔などの超常存在の研究をしている神殿。
この病院はその神殿と提携しており、角の報酬としてカイの入院費の割引がされた。
残った入院費もその角の報酬金額の中から払われており、かかる費用は一切無い、と告げられた。
「そんなことより…カイさん?セシリアさんに感謝は告げまして?」
「?いや、してないが…」
「それはいけませんわ!…まぁ気絶してたので仕方ありませんが!
セシリアさんは気を失っていたカイさんを抱きかかえてここまで持ってきたばかりか
貴方が入院して眠っていたこの3日間、ずっと寄り添っていましてよ!
口で言っても力づくで動かそうとしてもビクともしませんでしたわ!」
「そ、そうなのか。すまないセシリア、心配かけた。ありがとうな」
「………」
セシリアは返事代わりに抱きしめる力を強くする。
「…これ以上お二人の邪魔をしてしまうのは気が引けますので失礼いたしますわ!それでは!」
「あ…ああ、ありがとう」
そう言うとクリスはそそくさと部屋から立ち去る。
(そんなことがあったのか…色々と自分が情けない…)
(…強く…ならないとなぁ…)
(今まで自分一人…何となくで生きてきたが…今はセシリアがいる)
(セシリアに心配かけないくらい…いや、セシリアを守れるくらい強く…)
(セシリアの食費のこともあるしな…。強くなって、稼げるようにして、それで…)
カイはセシリアを強く抱きしめ返す。
いつの間にかセシリアはすぅすぅ、と寝息を立て眠ってしまっていた。
カイはセシリアより伝わる確かなぬくもりから決意を新たにする。
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