たおれて
「…っ!?」
悪魔は強いプレッシャーを感じる。
そのプレッシャーはクリスの方からだった。
「っこの!」
「はぁっ…はぁっ…!」
セシリアのスタミナが尽きかけ動きが鈍る。息が切れてくる。
悪魔はセシリアの脅威度を下げ、尻尾の一本をクリスの攻撃へと専念させる。
「ひぃぃっ!≪キリエ≫っ!≪キリエ≫っ!≪キリエ≫っ!≪キリエ≫っ!!!」
バキンッバキンッ、とアンジェのバリアの加護が展開される端から割られていく。
「……ログラム構築…対象は……威力は……形状は………」
クリスはブツブツと呟きながらその場で術式を構築する。
悪魔を葬るための術式を構築する。
「≪キリエ≫っ!≪キリエ≫っ!≪キリエ≫っ!≪キリっへえええええぇぇぇぁ…!?」
アンジェの体の力が抜け、膝から崩れ落ちる。
顔からは涙・汗・鼻水・涎が溢れている。魔力切れだ。
「むっ…うっ!!」
サンバンの盾が砕け散る。それでも止まらない尻尾をサンバンは体で受け止める。
数本の骨が折れる。それでもサンバンは尻尾を抱きかかえ、尻尾の動きを止める。
「使用魔力は…残り全て!!」
「ッ!!」
クリスが術式を構築し終える。悪魔の感じるプレッシャーが増す。
「セシリアさん!避けてくださいまし!!」
「クソ…がっ!?」
悪魔もそれを聞きサンバンに捕らえられていた尻尾を自切し退避しようとする。
しかし強烈な痛みを感じ怯んでしまう。
痛みの正体はセシリアが投げた無数の小石。
カイが魔術で作り、セシリアの腰の小袋に入れていたものだ。
その小石は軽くて固いというだけの単なる小石。
しかしセシリアの怪力によって放たれたそれは散弾となり、
悪魔の肉を削り、骨に食い込んだ。
「喰らいなさい!≪メルト≫!で!す!わぁぁぁ!!」
「ッガァァァァァァァア!」
クリスから発生した火柱が悪魔を飲み込む。
その火柱が悪魔を燃やし続ける。
「~~~~~っ!ぶへぁ!!出゛し゛切゛り゛ま゛し゛た゛わ゛…」
アンジェ同様クリスも膝から崩れ落ち、顔が汁まみれになる。
「フゥーっ…フゥーっ……やってくれたわね…!」
クリスの魔術を受けきって尚立ち上がる悪魔。
尻尾がグズグズになり黒く変色しているので尻尾を展開し盾にしていたようだ。
黒くなった尻尾を再生させる悪魔だったが新たに生えた尻尾は一本。
悪魔も限界が近かった。
そこへセシリアが立ち塞がる。
「堕天使ィ…っ!フゥーっ…フゥーっ…!」
「………」
悪魔が火柱に飲み込まれていた時間は長く、僅かだがセシリアの体力は回復している。
それに比べて炎に焼かれ続けた悪魔の消耗は激しい。
「…アッハァ!」
「!?」
悪魔はセシリアの目元に尻尾を巻き付け、それを自切し目隠しにする。
そしてセシリアの横を通り抜ける。
不利と見た悪魔の取った選択肢は逃走だった。
「じゃあねぇ、キャハハハハハハ!」
長い攻防から悪魔はセシリアが素早く動くことは苦手と見抜いていた。
全力で走られたら1i12セシリアが悪魔に追いつくことは出来ない。
部屋の出口付近には魔力の切れたクリスとアンジェ。負傷し盾も無いサンバン。
対して脅威とならない、逃げるついでに残った尻尾一本で殺しきれるだろうと悪魔は判断。
その判断は正しく、3人に抵抗する術はない。
この殺し合いを制し、最後に笑うのは悪魔となる…………
はずだった。
「…………………………≪クァグ≫……」
「っはぁ!?!!?」
地面が隆起し、悪魔の足元を覆う。
悪魔の足が止まってしまう。
(カイ君……ありがとうございます……)
「クッソがあああああああああ!」
「倒れて」
冷静さを捨て溜め込んだ怒りを解き放つセシリア。
激情に身を任せたセシリアの拳が背中から悪魔の心臓を貫いた。
「………カッ…………ぁ………ッ……」
悪魔はもうほぼ動けない。わずかに痙攣を繰り返しか細い声が漏れるだけだった。
しかしセシリアはカイの言葉を思い出す。
『…念のためもう一発頼む!』
(カイ君………)
それはカイと初めて出会い、ビッグボアを倒した時の言葉。
セシリアは悪魔の頭を踏み潰し、カイの元へと駆け寄りカイを強く抱きしめる。
「カイ君!!」
「ひぃあっ!せひりあしゃま!…んん!カイ様は治療しましたけど
依然危篤な状態れす!あんまり動かさず…っ!?」
「ま゛ぁ゛っ゛!」
「む…!」
アンジェが止めるのも意に介さずセシリアはカイに口づけをする。
永い永い口づけ…。そうすると死相の濃かったカイの顔に生気が満ちていく。
「これは一体……?神官の加護でも体力の回復は難しいですぅ…
悪魔の人がセシリアさんを堕天使と言っていたのでぇ…もしや天使の奇跡…?」
アンジェが何事かをブツブツと呟き始める。
構わずセシリアはぎゅう、とカイを抱きしめ動かなくなる。
「助゛か゛り゛ま゛し゛た゛の゛?助゛か゛り゛ま゛し゛た゛の゛ね゛??
疲゛れ゛ま゛し゛た゛わ゛!さ゛っ゛さ゛と゛帰゛り゛ま゛し゛ょ゛う゛!」
「む…っ」
魔力切れでへたり込んでいるクリスが濁った声でやかましく言う。
それほどまでに限界なのだがそれがどうにも可笑しく、
サンバンは笑いを堪える。そのせいで骨折箇所が痛み、少しうずくまる。
「お疲れ様でした」
「…っ!?」
そこへ聞き覚えの無い声が響く。
全員が声のする方へ振り向くと黒いスーツを着た男がピシッ、と姿勢よく立っていた。
男の肌は青く、頭には黒い角が生えており、
普通の人間なら眼球の白くなっている部分は漆黒に染まっている。
「あ…っあ…」
「ま゛た゛で゛す゛の゛っ゛!?」
「む…っ!」
「……」
セシリアはカイを庇う様に立ち上がる。今にも倒れそうなほどフラフラだが、
それでも顔は強く男を睨みつける。
「…勘違いさせてしまったようですね。失礼しました。
私はあなた方に敵意はございません」
男は丁寧に頭を下げ、謝罪する。
「申し遅れました、私はスミスと申します。ここへは彼女に用向きがあり、参りました」
スミス、と名乗った男はもう動かなくなった悪魔を指して言う。
「彼女が何か迷惑になる前に回収するのが私の仕事だったのですが…
あなた方の戦いぶりに興味が湧き、つい見入ってしまいました。
重ねて謝罪を申し上げます。」
柔らかい物腰で喋るスミス。本当に敵意は無いようだ。
しかしセシリアは警戒を解くこと無くスミスを睨み続けている。
「よ…っと。こちらは差し上げましょう。勝者の当然の権利です」
何らかの力で悪魔が浮く。
スミスは浮いた悪魔の角を片方だけポキリと取り外しセシリアに渡す。
「申し訳ございませんがもう片方の角は私が上司への報告の際に必要になりますので…
どうかご容赦を。それでは失礼します。ご縁がありましたらまたお会いしましょう」
そう言うとスミスは黒い何かに包まれ悪魔共々姿を消す。
「っはぁー…っはぁー…ふひぃ~……」
「大゛丈゛夫゛で゛す゛の゛??大゛丈゛夫゛で゛す゛の゛よ゛ね゛???」
「む…」
「……」
その後警戒するも特に何も起きず、体力を回復させた後一行はダンジョンから脱出を図る。
幸いなことに魔物が襲ってくることは無く、無事に生還することが出来た。
意識の戻らないカイは、道中セシリアにずっと大事そうに抱えられていた。
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