おねがいします
「ひゅいい!?」
「なっ何ですの!?何なんですの!??」
「むっ…?!」
突然のことに戸惑う一行。
カイの胸を貫く何かが勢いよく引き抜かれ、カイはその場に倒れ込む。
その何かが向かう先には一人の少女がいた。
「う~ん、そっちの女を狙ったつもりだったんだけど…ま、いっか」
「ひっ…」
「次はどいつにし・よ・お・か・な~?」
異様なプレッシャーを放つ少女。
その見た目も異様で肌は青く、頭には黒い角が生えており、
普通の人間なら眼球の白くなっている部分は漆黒に染まっている。
「あ…悪魔ですぅ…っ!」
「お、よく知ってんじゃん。って神官みたいだし知ってて当然かなぁ?」
ビュンッ、と少女は二本ある尻尾で風を切る。
カイの胸を貫いたものの正体は彼女の尻尾だった。
悪魔―――遥か昔、神話時代の大罪人の成れの果てと言われている。
理外の力を持ち、またその成り立ちから多くは残忍な性格を持つ。
「ひっ…!」
悪魔の放つプレッシャーに加え、神官という立場上悪魔の知識もあったアンジェは
悪魔に視線を送られ失禁してしまう。
「…あん?アンタなんか嫌な感じするわね?
…もしかして天使…いや、こんなところにいるから堕天使か!」
スッ、と前に出てきたセシリアを指して悪魔は’堕天使’と形容する。
セシリアはそんなことなど意に介さず思考を巡らせる。
(この重圧…間違い無く強い。さっきのギガモールが部屋から出て来たのは
恐らくこの子のせい…この子から逃げるため…。
喋ってばかりで攻めてこない…こちらをバカにしている?
それも納得の行く戦力差がある…その油断を利用してまずは…)
「アンジェさん、カイ君の回復をお願いします」
「ふ…ふぇ…」
「アンジェさん!回復を!」
「ひゃっひゃい!」
「私が前に出ます。サンバンさんはアンジェさんとクリスさんの防衛を。
クリスさんは魔術で援護をお願いします」
「…!わかりましたわ!」
「むっ…!」
柔和でゆっくりとした喋りから一転、
ハッキリと言い切るような口調になったセシリアに指示され、
少し落ち着きを取り戻す3人。役割を理解し即座に構えをとる。
「ひっ≪ヒール≫!!」
(これでいい…後は…)
記憶を無くしてからのセシリアが初めて見たものはカイだった。
それからのセシリアの傍らには常にカイが在った。
幾度と体と重ね、その優しさに触れてきた。
セシリアにとってカイは彼女の全てになりつつあった。
そのカイを奪われたことによりセシリアの胸に芽生える激しい怒り。
その怒りによってセシリアの頭はむしろ急速に冴えていく。
本当は今すぐにでもカイの元へ駆け付けたいセシリアであったが、
セシリアは強力な回復手段など持ち得ない。
氷のような判断力が駆け付けることを許さなかった。
「あん?やろうって言う…の!」
「…!」
「≪プロミネンス≫ですわ!」
「むっ!」
「ひゅいっ…!≪ヒール≫…!」
悪魔の尻尾がセシリアに襲い掛かる。
クリスはそれを隙と見て魔術を唱える。
熱光線の魔術。それが片方の尻尾に当たりその表面を焦がす。
しかしそれにより尻尾は標的をクリスに変え伸びてくる。
その尻尾をサンバンが大盾で受け止める。…が、大盾が簡単にへこんでしまう。
その破壊音に怯えながらもアンジェはカイの治療を続ける。
セシリアは襲い来る尻尾を一本掴む。
それを引き千切りブチブチィッと大きな音が鳴る。
「!いったいわねぇ堕天使!何すんのよ!」
ボコボコ、という音と共に千切られた尻尾が再生する。
魔術により焦げ付いた尻尾も元通りになっていた。
「効いてませんの!?」
「いえ、効いてます。続けてください」
「チッ、面倒ねぇ!」
(恐らく形が元に戻っただけ…ダメージはある。尻尾の再生の時若干汗をかいていた…。
…そして若干距離を取った…。本体は再生できない?もしくは再生が難しい?
本体にダメージを与えられればチャンスはありそう…)
悪魔は尻尾による攻撃を叩きつけから突きに変える。
尻尾が掴みづらくなりセシリアは防戦一方に陥る。
致命傷は避けているが攻撃は掠り、
今まで傷つかなかったセシリアの肌には切り傷による血が流れていく。
「ひぃ…!ひッ≪ヒール≫……ひっ!」
「≪プロミネンス≫!アンジェさん!落ち着きなさいな!サンバンが必ず守ってくれますわ!
≪プロミネンス≫!!」
「くっクリスしゃまぁっ…はっ…!はっ…!≪ヒール≫っ…!」
ガァン、と大盾と尻尾がぶつかる音が響く。
アンジェは回復の加護が使える。
…が、回復の加護はただ使えば良いというものでは無い。
正しい臓器の位置や役割等を理解し、きちんと元のように戻す必要がある。
それに治す際、うまく加護を当てなければ他の臓器と癒着してしまうこともある。
ましてや治す臓器は心臓…非常に集中力の要る治療だ。
しかし時折飛んでくる悪魔の尻尾による攻撃でアンジェの集中力は大いに乱される。
悪魔は尻尾のダメージからセシリアの方を脅威と判断し、あまりこちらには攻撃してこない。
とはいえそれでもたまに飛んでくる攻撃は必殺の重みを持っている。
「む…っ!!」
サンバンは気合を入れなおす。
――サンバンは元奴隷だった。
たまたまクリスの一家に買われ、そこからクリスの従者としての生が始まった。
『ワタクシ弟か妹が欲しかったんですの!』――末っ子であるクリスはそう言い、
本当の弟のようにサンバンに接してくれた。クリスの家族も同様に暖かった。
サンバンは’三番’だった。名前では無いただの番号で呼ばれていた。
それを自分の名前と思い込み、クリスにも三番と名乗った。
幼かったクリスはそれをわからず、三番、三番と嬉しそうに自分を呼ぶ。
それに暖かいものを感じ三番という呼び名が好きになる。
’三番’が’サンバン’へとなって行く。
サンバンはクリスを守ると決めていた。
自分に暖かいものをくれたクリスをすべての脅威から守ると決めていた。
有り余る剛力を攻撃で無く盾に使っているのもそのためだ。
しかしこのダンジョンでそれは叶わなかった。
クリスを身を挺して守ったのはカイだった。
サンバンの見立てではクリスよりもカイの方が体力が高い。
カイは現在生か死か、その瀬戸際を彷徨っている。
しかしクリスが同じ攻撃を受けた場合、それすら飛び越えて即死だったと見ている。
サンバンはそのことをカイに深く感謝し、尊敬の念を抱く。
同時にクリスを守れなかった、という強烈な不甲斐なさも感じる。
それらの感情がない交ぜとなり、高い集中力を生み、サンバンは覚醒状態に入る。
もう誰も傷つけさせない、絶対に死なせはしない、と。
「むっ!」
ガァン、と金属音がする。まともに受けたら大盾は砕けている。
しかし覚醒状態に入ったサンバンは攻撃を見極め、受け流す。
サンバンは護り手として一つ上のランクに上がっていた。
それでも尚悪魔の攻撃は強力だった。盾は壊れずともヒビが入っていき、寿命が近づく。
「…っ!」
「あっハァ!」
バガッ、と金属の砕ける音がする。セシリアの手甲が壊れる音だ。
胸当ても砕け、その大きな乳房は無防備になってしまっている。
セシリアは全身傷だらけで血まみれ。
それでも何度か尻尾を掴み、引き千切り、引き抜き、握りつぶすことが出来た。
悪魔にもダメージは蓄積してる。
そして装備を壊したことに油断した悪魔の尻尾を掴み、もう一度引き千切る。
「ッギィィィ!!しつこいわね堕天使!
アンタモテないでしょ!!男に嫌われてるでしょ!!!」
「………」
尻尾を再生させる悪魔の挑発でセシリアは冷静さを深めていく。
(カイ君は私のことが大好きだから問題無い…。
それよりもダメージは確実に溜まっている…。
尻尾の再生速度が明らかに遅くなっている…。
でも決め手に欠ける…少しずつしかダメージがない…。
何かが欲しい…何か…何かが…)
「セシリア様ぁ!カイ様の治療が終わりましたぁ!!」
「!!!!!」
「ったくピーピーうるさいわねぇ…っ!?」
アンジェが大声でカイの治療の終わりを告げる。
同時にカイへの不安が解消されたセシリアに力が漲る。
その力の漲りを感じた悪魔は思わずたじろいでしまう。
(カイ君………!!)
「っもぉ~何なのよアンタ!!!」
カイの無事への喜びでセシリアの動きのキレが増す。
今度は悪魔が防戦一方になる。
しかしセシリアのスタミナも限界が近かった。
そのスタミナが切れたとき、セシリアの敗けが決まってしまう。
「ん…っく……ぷっはぁ!ほら!アンジェさんも!」
「はっはいぃ!」
クリスは胸元から小瓶を取り出し、中身を飲み干す。
小瓶の中身は魔力回復のポーション。同じものをアンジェにも渡す。
「アンジェさん!サンバン!」
「はいぃ!」
「む!」
「派手にブチかましますわ!援護を頼みましてよ!!」
悪魔
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