たのしそうですね
「…ということで魔術プログラムの構築が大事でしてよ!」
「なるほどなぁ…」
「もぐもぐぱくぱくんむっ」
「ガツガツガツガツ…」
「せ…セシリア様もいっぱい食べますねぇ…」
鍋のスープをよそいながらクリスの話を聞くカイ。内容は魔術の指南だった。
鍋はカイが事前に用意していた野菜類にスープの素、
それとダンジョン内での魔物の肉を入れた物。
料理の心得があったアンジェが手伝い、クリスの炎魔術で火を起こしてもらい料理をした。
それを一心不乱にセシリアが貪りサンバンも負けじと大量に食べている。
(火力があるといいなぁ…よく熱が通って美味くなる)
「そのプログラムを構築したものに名づけることで一連の式となり、それを術式と言いますの。
その術式を詠唱することで即時に呼び出しが可能になり、
時間短縮とそのプログラムで決められた魔力量だけ引き出すので
魔力のロスも無くなって…って聞いてますの?」
「あ…ああ、聞いてます。はい」
「「ばくばくばくングングもぐもぐ…」」
「あっおかわりよそいますぅ」
クリスの話を要約すると
魔術をプログラム化し、名付けたものが術式になる。
その術式を詠唱することでそのプログラム通りに
魔力が変動するため余計なロスがなくなり時間・魔力効率が上がる。
カイはそれを行っていないため効率が悪い、とのことだった。
「もちろん無詠唱魔術にも利点はございましてよ!
プログラムをその場で構築するので臨機応変に魔術を使えたり、
詠唱魔術では人語を解する相手には次に何するのかバレてしまうので
そういう相手には無詠唱魔術を混ぜて虚を突いたり…」
「ふむ…」
「ただカイさんは見たところ何度も同じような
足止めの魔術を使っていらしたのではなくて?」
「そうだな…それなら詠唱するようにしたら無駄が少ないな…」
「そういうことでしてよ!…まぁこれは魔術の初歩の初歩なのですが…
参考にしたのがあの悪書なら仕方ありませんわね!」
「あんまり裕福じゃなくてな…たまたま読めたのがあの本だけだったんだ…。
しかし名付けかぁ。考えたこともなかったなぁ」
「そうですわねぇ、カイさんのあの魔術、一般的には≪クァグ≫として使われてますわね」
「≪クァグ≫…それでいいかぁ」
「あ、それと術式を組み立てる時若干の遊びを入れておくのもよろしくてよ!
例えば≪クァグ≫の場合、対象の数の部分を空白にして詠唱の際にその場で数を入力したり…」
「なるほど。それじゃあ―を―して―」
「いいですわね!他にも地魔術ならゴーレムも使え――」
「ふむ―――なら――…」
「ごちそうさまでした~!」
「…む!」
「ひぃい、お鍋いっぱいにあったのにカラになってますぅ」
カイとクリスが話し込んでいたらセシリアとサンバンは鍋を食べ切ってしまう。
驚愕するアンジェの横でセシリアとサンバンは見合って軽く笑う。
何らかの友情が芽生えたようだ。
「さぁ!魔物のお出ましですわ!カイさん、見せておやりなさい!」
「ああ」
鍋を片付け探索を開始した一行の前に魔物が現れる。
数匹と少ないため指南を受けたカイの魔術のお披露目として使われた。
「≪クァグ≫…おお!」
カイの魔術で地面が隆起し、魔物の足元を覆う。
カイは地面に手を付けず、立ったままの状態でそれを成す。
(今まで直接地面に触らないと魔力消費が多すぎて使えなかったが…
靴越しに魔力を地面に流しても全然いける…
それどころか前より魔力消費は少ない!これが術式詠唱の力か!)
「そして…≪スパイク≫!」
今度は地面が槍上に隆起し、魔物を貫く。
(か…感動だ…!俺にも攻撃魔術が使えた!!)
実は地の魔術で攻撃するのは難しい。
地面は固く、変形させづらい。
さらに炎などと違い当たればダメージとなるわけでもない。
なので動く相手に当たり、
かつダメージとなる速度と形状にするための魔力消費が大きいのだ。
実際にカイの使った≪スパイク≫も相手が足止めされている上に小型だったので倒せた、
という程度の大したものでは無かった。
(それでも嬉しい…!まぁ≪クァグ≫に比べてやっぱり魔力消費はデカい。
今回はクリスさん達もいるし普段はセシリアがいるから今後使うことは…
いや、さっき話にあったゴーレムと組み合わせれば行けるか?
う~ん…ゴーレムの研究もしたいところだ。例えばゴーレムの術式に…)
「カイ君たのしそうですね~」
「やはり筋がいいですわね!」
「お話を聞いただけであそこまでできるのはすごいですぅ」
「…む」
「ん…いや、クリスさんが教えてくれたおかげだ。
それが無かったら興味を持たずにレベルが上がることも無かったと思う。
本当にありがとう」
「ありがとうございます~」
「オホホホ!何てこと無くってよ!」
(ゴーレムは戻ってから腰据えて研究するか。
そのためにも依頼はさっさと終わらそう。
たしかもう…)
「あら?そこを曲がるとダンジョンボスのいる大部屋のようですわね?」
「やはりか。…んっ!?」
支給されたダンジョンの地図を眺めていると、
ドドドドド、とクリスの指した曲がり角から魔物が現れ突進してくる。
見た目はモグモールだが大きさは規格外に巨大だった。
「きっ…≪キリエ≫!」
「む…!」
「≪クァグ≫!」
「≪ブレイズ≫ですわ!」
「えいっ」
咄嗟にアンジェが全員に加護をかけ、サンバンが前に出て突進を受け止める。
魔物がよろめいたところをカイが拘束、クリスが削りセシリアがとどめを刺す。
組んでから間もないが同じ鍋を食べ、ある程度打ち解けたおかげか連携が形になっていた。
「これは…ギガモールか?確かここのボスのはずだが…」
「ワタクシ達に勘づいて先手必勝カマして来たんですわ!
返り討ちにしてやりましたわ~!」
「おいしそうですね~」
「…む」
「お、お二人なら食べ切っちゃいそうですぅ…」
食べたばかりだというのにギガモールを見る目に食欲が宿っているセシリアとサンバン。
もうすぐ最後の部屋の前ということでカイが下処理だけ済ませ、
帰りに持っていけるようにしておく。
「しかしボスがここにいらしたということはボス部屋はお留守ではなくて?
一応行きますけども!」
「そうだ…なっ!?」
ボスは倒したがこの依頼は調査でもあるためボス部屋に足を踏み入れる一行。
確かにそこには空間が広がるばかりで何も居なかった。
しかしカイの背筋にはゾクリ、と悪寒が走り頭の中では警鐘が鳴り響く。
(これはヤバイ!!)
カイは極稀にこのような’嫌な予感’を感じることがあった。
その予感に逆らったときは例外無くひどい目に遭っていたため、
カイはこの予感に絶対従うようにしてきた。
カイが長く冒険者を続けていられるのは
この’嫌な予感’を感じることが出来たから、という部分も大きい。
「アンジェさん、念のためもう1回≪キリエ≫を!」
「ひゃっひゃい!?」
焦るカイはつい声を荒げてしまう。
他のメンバーはカイのような’嫌な予感’を感じていないため、
無警戒に進んでしまう。
(どうするどうするどうする!!?!引き返した方が良いが説明できん!根拠がない!)
「それにしても広い部屋ですこと!モールたちが親分のために頑張ったのでして?」
「…!!!」
サンバンの大盾を先頭に進んでいた一行だがクリスがひょい、と集団から外れ辺りを見回す。
カイはそのクリスから強い死の気配が漂うのを感じ、慌てて強引に腕を引き位置が入れ替わる。
「………ヴっ…!?」
「なっ!何するん…っですの……?!」
次の瞬間、部屋の奥から飛んできた高速の何かが
一直線にカイの胸を貫いた。
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