いじめますか?
「……はっ?!」
「…すぅ…むにゃむにゃ…」
朝の陽ざしに微睡んでいたカイだったが
今日の9時から指名依頼があったことを思い出す。
セシリアはまたカイの上で毛皮の毛布に包まり眠っている。
今日も二人は全裸だった。
(今何時だ!?…8時10分!この宿から指定ダンジョンまで大体30~40分…
急いで身支度して出れば間に合う!)
(遅刻してそれを今日組む相手がギルドに報告したらマイナス査定がついて
報酬が下がるかもしれないし今後の依頼にも影響する…それは避けたい!!)
「悪いセシリア起きてくれ!!」
「んんぅ…もっとたべたいです~…」
「ほんとにすまん、朝食の余裕も無い…!」
「んん…?ふあ…おはようございます~カイ君……んん…」
「んん……すまんセシリア、すぐに服を着てくれ。
すぐに出発しないとまずい…!」
「ん~…?は~い…」
起き抜けに口づけをしてきたセシリアはもそもそと服を着始める。
カイも手早く髭を剃り、カイも服を着る。
そして昨日のうちに荷物をまとめた背嚢を背負い慌てて宿を出る。
(8時59分!!間に合った!!ギリギリで!)
「っはぁっはぁっ…すまない…っはぁ…遅くなった…」
「おそくなりました~」
カイは時間に間に合ったことに安堵しつつも
ダンジョンの入り口前にいた赤を基調とした装備の3人組に謝罪する。
その3人が今日のダンジョンを合同で探索するパーティだった。
「構いませんわ!ワタクシそこまで細かいことは気にしないタチでしてよ!」
魔術師然とした恰好の女の子が元気よく言う。
おそらく彼女がこのパーティのリーダーなのだろう。
「まずは自己紹介を。ワタクシ’クリスティアーネ・カートライト’と申しますわ!
長ったらしいのでクリスでよろしくてよ。今日の探索はよろしくお願いいたしますわ!」
ニッと人好きのする笑顔でクリスは言う。その際ピコピコっと横に伸びた耳が動く。
クリスはどうやらエルフのようだ。
「あっわっ、私は’アンジェリカ・クラーク’といいますぅっ。
わ、私も長いのでアンジェとお呼びくださいぃ…」
人見知りなのか少し慌てた様子のいかにも神官と言った格好の眼鏡の女の子が続く。
異様に背が低いのでアンジェはハーフリングなのだろう。
「…む」
「…’サンバン’?あなたも自己紹介を!」
「……’サンバン’…」
「んもぅ!相変わらず不愛想ですこと!
お相手の方に失礼でしてよ!」
「む…」
サンバンと呼ばれた大男は変わった甲冑を身に纏い、
さらに黒いメイスと3人がすっぽり隠れられるほど大きな盾を携えている。
サンバンは浅く赤い肌の色をしており、
大きな体躯と合わせて恐らくオーガと思われる。
「わざわざすまない…、ふぅー。俺はカイ。こっちは…」
「セシリアです~。カイ君の恋人です!」
「まぁっ」
「はわわっ」
「……む」
「…今日はよろしく頼む」
かなり恥ずかしいカイだったが急いで来たため少し体力を消耗しており、
セシリアの恋人発言を止めることが出来なかった。
まぁ事実なので問題無いだろう…とカイは割り切り、
5人でのダンジョン探索が始まった。
(……すげぇなぁ…)
カイは今日組んだ3人の戦いぶりを見て感嘆する。
「≪フレイム≫でしてよ!」
(まずクリスさん…炎の魔術士だな。ガンガンに魔術を使ってるから魔力量がかなり多いな。
しかも倒した敵の残り火を回収して魔力に再変換している。これなら魔力効率もいい…。
俺も魔力量か炎魔術かどっちかあればなぁ…。
俺の魔力量はそんなに多くないし地魔術はあんまり攻撃に向かないんだよな)
「む…!」
(次にサンバンさん…オーガだけあって単純な膂力が凄まじいな。
あのわけわからんサイズの大盾を軽々振り回してパーティの盾になっている。
クリスさんが若干大雑把で撃ち漏らしが出るのをメイスで処理していく感じか。
…俺もあんだけ体力あったらなぁ。
魔物も倒しやすいし素材も多く持ち帰れて稼ぎやすいだろうなぁ…)
「きっ≪キリエ≫!」
(最後にアンジェさん…キリエ、と言った後に全員に薄い膜のようなものがかかった。
あれが神官の使える’加護’か。魔術と加護は別物らしくてよくわからんが…
恐らく普段はあの膜でサンバンさんの防御力の強化、クリスさんアンジェさんに保険をかけてるんだな。
回復の加護も使えるらしいから万が一ケガしても大丈夫なんだろう。
俺もあの加護を使えればなぁ…傷薬とかの費用が浮いていいんだがなぁ…)
三者三葉の秀でた部分をうらやましく思うカイ。
(それに比べて俺は…っと)
3人の攻撃範囲から外れた場所にモグモールというモグラ型の魔物が数匹沸いてくる。
カイは地面に手を付きいつものように地の魔術で足止めをする。
…が、一匹だけ魔術を外してしまう。
「!すまん…」
「≪フレイム≫ですわ!」
カイが足止め損なったモグモールにクリスが炎の魔術を当て倒す。
足止め出来ていたモグモールに関してはすでにセシリアが潰し、得意気な顔をしていた。
「すまん。助かっ…」
「……せんわ…」
「うん?」
「なってませんわ~~~っ!!」
「うぉっ」
急に大声を上げるクリスに驚くカイだったが気にせずクリスはまくし立てる。
「カイさん!あなたの魔術まっっったく!なってませんことよ!」
「うっ…すいません………」
「一体魔術はどこで何でお習いになったのでして??」
「あ~…なんだったかな……確か『チョーわかる!こどものためのまじゅつにゅうもん』…
とかいう本だったかな…」
「『チョーわかる!こどものためのまじゅつにゅうもん』!?
『チョーわかる!こどものためのまじゅつにゅうもん』と言いまして???」
「そういえば魔術関連の本は子供のころにそれ読んだきりだな」
「あんなの嘘八百どころか嘘八万くらいデタラメこきまくってる悪書じゃありませんの!!」
「そ…そうなのか…」
「むしろアレだけでそこまで魔術が使えるのは才能が…なっなんですの?」
カイに強めの語気で言葉を浴びせるクリスの前にセシリアがスッっと割って入る。
その顔には若干の敵意が混じっていた。
「…カイ君をいじめますか?」
空気がピリつく。
大きい声でカイに言葉を投げ掛け、カイも若干弱った反応をしていたため
クリスがカイを口撃している、とセシリアは判断したようだった。
その敵意を察知したサンバンが武器を構える。
「む…」
「ちょっちょっとサンバン?武器をお下ろしになって?
ワタクシちょっと熱くなりすぎましたわ!申し訳ございません」
「いや…こっちこそすまない。セシリア、大丈夫だから。
いじめられたわけじゃないから」
それでも尚セシリアとサンバンの睨み合いは続く。
「ひいぃ…」
一触即発な空気にアンジェは涙目になってしまう。
「サンバン、喧嘩腰なのは良くないととあれほ「ぐぎゅるぅ~~…」でしょう…!?」
「セシリア、俺の魔術下手なのはその通「ぐぅ~るるるる…」くれ……」
「きゅるるるる…」
「………」
「………」
「ぐるるるぅ、くぅるるる……」
「…すまん一旦飯にさせてくれ!」
「…わかりましたわ!」
「実はこっち朝食べて無くてなぁ~!」
「まぁっそれはご飯が楽しみですわねぇ~!」
カイは鳴き始めたセシリアの腹の虫を利用し、
若干大げさな芝居で嫌な空気を無理やり変えようとし、クリスもそれに乗る。
時刻は12時。ちょうど昼の時間だった。
毒気を抜かれたサンバンは武器を下ろす。
アンジェも諍いが治まったことを感じホッと胸を撫でおろす。
セシリアだけは未だ納得行ってない様子だが
お腹を押さえているので、どちらかというと
喧嘩になりそうだったことよりもお腹を満たすことの方が
気がかりにはなっているようだった。
「ぐぅ~ぎゅるるるるる…」
クリス 立ち絵
アンジェ 立ち絵
サンバン 立ち絵
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