近い
「うわ、なにあいつ」
そう言った友達の視線の先には
こちらを見つめながらニヤニヤ笑っている男がいた。
今日は冬で気温も低いのに半袖半ズボン
頭はハゲており
息遣いも少し荒いみたいだ
見るからに怪しい男だ。
そんな男がこちらを見ているのだから
こちらも体が少し硬くなる。
「やばいやつかな」
俺は言った。
最近は街中でヤバいやつを見かけることが多くなったから
こんな時の対処法は、気にしないことだと知っていた。
だから今回もその後はそちらを見ずに自分たちの降りる駅で降り
無事に帰ることができた。
しかし、その次の日から
その男を見ることが多くなった。
ある時はバスの中で
ある時はカフェの中で
ある時はラーメン屋で
とにかくいろんなところで見るようになった。
やっぱりヤバいやつだった。
とにかくそんな日が続き
ある日、電車に乗った。
その日はがらんと空いており
疲れていた俺は座席に座った。
少しすると乗っている人も少なくなっていき
自分以外の人が車両にいなくなると
違う車両から
あの男が来た初めから自分がいるのを知っているかのように
一直線にこちらに向かってきた。
男が目の前に来るまで
ピクリとも動くことはできず
目はその男に向いていた。
男は目の前の吊革につかまり
たっていた。
こちらをニヤニヤと見つめたまま。
怖い
そんな感情が頭の中を占めていた。
また、どのようにしたら
この状態から逃れられるのか考えていた。
目の前の男は
俺から目を離さず、動いていない。
耐えられない
その時ふと思った。
この男あまりガタイも良くないし突き飛ばしたら逃げられるんじゃないか
次の駅になったら逃げよう!
そうなったら
そう思ったら俺自身を鼓舞させるために
怖くない!
怖くない!
怖くない!
そう心の中で唱え続けた。
そうして駅に着く時が来た。
ぷしゅー
そういって扉が開いたその時、
足で男の腹を蹴った。
綺麗なヤクザ蹴りが決まった。
男は反対側の座席にぶつかり倒れた。
その瞬間に俺は荷物を持ち電車の外にダッシュした
その後も男が立ち上げり追いかけてくるのではないかと
ビクビクしながら男を見ていたが
立ち上がることはなく、
電車の扉は閉まり駅から出発して行った。
まだドキドキする心を落ち着かせるために誰かに電話しようとしたら
着信音がなった。
ビクッとしながらも電話をとると、
最初にあの男を一緒に見た友達だった。
ほっとした…
直後向こうの様子がおかしいことに気がついた。
「やばい!
あの男が来る!
え… はぁ!?
なんでっ!
助けて…やばい!
いつもの駅にいる!」
そんな言葉を残して電話は切れた。
思えばさっきの電車
この駅の次は、いつもの駅に行くなと…
その次の日、友達は…
会社にいた。
「いやさ、きのうあの男に追いかけられたんだよ
それで家までついてこられたからさ、
もう家に帰れないんだよね。
だから今日からは会社で過ごすわw 」
友達はいやに冷静にそう言った。
でも…
家にまでついてきた男が
どうして会社まで来ないと思っているのだろう。