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アンドリュー婿入り。

傍若無人な王と呼ばれたアンドリューが「彼の国」の捕虜となり半年が経った。



銀色の髪を持つ美しい女王は玉座に座り、物憂げに頬に手を当てている。


何やら思案中の彼女の顔には、疲れの色が濃く出ていた。




「デルフィナ、夫を迎えたそうだね。」




玉座に近付く銀髪の線の細い初老の男は、苦笑しながら女王の傍らに立つ。




「父上…あれは、夫ではありません。

もう、嫁です。しかもオブザイアの嫁です。」




「…そうだね、私も初めて浴場でカラナィアとして会った時には驚いたよ。笑ったしね。」




半年前。



捕虜として牢がわりの貴賓室に押し込められたアンドリューは、オブザイアの予想に反し、まったくブレなかった。


毎日毎日オブザイアの事を探す。恋い焦がれる。

貴賓室に閉じ込められたアンドリューは、食事が運ばれたり浴室に行く際に、常にオブザイアの姿を探した。


そして、姿を見れば必ず尋ねる



「いつ、抱いてくれますか?」


「いつ、抱かれてくれますか?」




顔を見る度に言われるアンドリューの猛攻に、先に折れたのはオブザイアだった。




「分かった!分かった!めんどくせぇから話す!」




オブザイアはアンドリューを玉座の間に連れ出した。

オブザイアは玉座の間の前でアンドリューに部屋に入る様に促し、扉を締めた。


アンドリューは一人で玉座の前に進み、奥から現れた女王の前に立たされた。

女王は高い位置にある玉座の前に立ち、アンドリューを見下ろした。




「いいかアンドリュー、妾を見よ。」



女王が言う。



「別に見たくないです。」



アンドリューは目を逸らす。



本当にオブザイアの事しか頭に無い。

ここまでいくと、むしろ清々しくて感心する。



「いや!見ろ!オブザイアに言われて来たのだろう!」



この言葉だけで、何と素直になるのだろうか…。

アンドリューは、大人しく女王を見る様になった。

複雑な表情を浮かべた女王だったが……

気を取り直した。


女王が目を閉じ気を集めるようにすると、女王の足元の影からオブザイアがせり出すように現れ、逆に女王は影に沈むように消え失せた。



「彼の国」は狂戦士の国。



この国の王族には、まれに狂戦士に変化する者が生まれる。


褐色の大きな体躯に色の濃い髪色。

隆々とした筋肉は鎧のように堅硬で、矢も柔い剣も通さない。


敵を屠る事を悦びとし、その蛮力はまさしく一騎当千。


女王が姿を消し、現れたオブザイアは首をコキコキと鳴らしてアンドリューの前に立った。 



「一つの魂に二つの肉体。

これが「彼の国」の狂戦士の秘密だ。

アンドリューよ、分かったか…?

俺は狂戦士オブザイアだが、女王デルフィナでもある……」




「オブザイア殿!会いたかった!」




「いや、お前な!数分前!!

玉座の間に入る前までは、一緒に居たよな!」




抱き付こうとするアンドリューの頭を持って、長い腕を延ばす。

抱き付かせてたまるか。

抱き着いたが最後、まさぐるわ、ニオイをかぐわ、引き剥がすのがどれほど大変か。


本当にたまらないので、オブザイアは急いで女王に戻った。




「……女王よ…さっさとオブザイア殿に戻って下さい」



テンションだだ下がりのアンドリューを前に、何か納得のいかない女王がフルフルと震えた。




「いいか!アンドリューよ!

オブザイアに恋い焦がれるならば、妾の夫となり、この国に尽力せよ!

そして、妾と閨を共にし、妾の世継ぎを生むのだ!」




何か途中から、自分の方が男の立ち位置になってないか?

女王、内心焦る。



やがて、アンドリューが渋々と呟いた。




「女王が俺以外の夫を迎えると…

オブザイア殿が他のクソゴミカスのものになるという事ですね…。

だったら仕方ない、女王の夫となります。

世継ぎを望むならば、その内女王ともヤれるよう努力しますよ。」



ん……?オブザイアは、「抱く」「抱かれる」なのに、女王の私が相手だと「ヤる」になるのか?

…何だ、この扱いの差は…。


解せぬ!






二人の馴れ初めから、婚姻関係に至るまでをかいつまんで説明された女王の父は、笑いを堪えながら涙目になっている。




「それは…大変だったねぇ、狂戦士の変化は性別が逆になるから、そこもツラい所だね…。

でも、そんなに想われているなら、私も孫の顔を早く拝めるのかな?」



「甘いな父上。

アンドリューの奴、オブザイアにはベッタベタなくせに、私には指一本触れたがらん。」




バン!!玉座の間のドアが開く。

アンドリューが駆け足で女王の前に来る。




「女王!さっさとオブザイア殿になってくれ!」




「たわけ!公務中は無理だと何度も言っておろうが!」




「俺の治めていた国が「彼の国」に宣戦布告してきたらしいんだ!

弟が王位を継いだらしい。

オブザイア殿、一緒に屍の山を築き上げに行こう!」




女王デルフィナは困った顔をして父を見る。

父は笑って手を振った。



「また領土が拡がるね。」



女王デルフィナの口元が不気味に歪み、すぐさまオブザイアに変化する。




「よっしゃ!血の雨を降らすぜ!アンドリュー!」




「血の中で躍るオブザイア殿が大好きだ! 

美しい美しい俺のオブザイア殿!」




オブザイアの背中に抱き付くアンドリュー。

アンドリューを背負い、このまま二人だけで国境に押し寄せた軍を殲滅しに行く。



血の雨が降り、肉片が飛ぶ地獄のような光景の中で


野獣のような咆哮を上げながら躍る巨躯の狂戦士。


それを、うっとりと心酔して見つめる若い男。


その若い男が、狂戦士によって死んだとされている傍若無人の王であり、「彼の国」に婿入りしていると世間が知るのは、まだ先の話である。




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