狂戦士オブザイア。
高くそびえる山の頂きにある城には普通に歩いては行けない。
城がある山をぐるりと囲む堀の様に、周りは全て深い崖となっており、橋は一本も掛かって無い。
城に住む者は転移石を所有していて、それを使用するが他は翼竜に運ばせるか、ロッククライミングばりに崖を登るしかない。
実際、国境を越えて領土に攻め入られたとしても、崖をまたぎ城を落とす等出来るものではないのだ。
もっとも、この王を城に入れる以上、この王が城に何らかの罠を仕掛ける可能性もある。
…そうとなればオブザイアは躊躇無く王の首を落とすつもりだ。
「崖を登るから俺の背に掴まっていろ。」
オブザイアが若き王を大きな背におぶる。
今、背後から首を切られたらマズイなと思う顔を見せた。
実際は、オブザイアの鋼の肉体は簡単には傷付かない。
隙を見せる様なカマをかけてみた。
何らかの攻撃を仕掛けてくるのであれば、即崖下に放り投げるつもりで。
「………王…ニオイを嗅ぐのはよせ……」
「オブザイア殿の背中…うなじ…はぁ…ステキだ…」
別の意味で攻撃を受けた気がする。
もう、この若き王を崖下に放り投げたい。
怖い…。
オブザイアは王を背負ったまま、崖を飛ぶように登って行く。
行き慣れた道、僅かな足場の位置を把握しているため、一気に駆け上がった。
途中、一回うなじに唇を当てられ足を踏み外しかけた。
城に着いて王を下ろすと(無理矢理引き剥がした)、オブザイアはゼーハーと荒い呼吸を繰り返した。
「殺す気か!このアホぅ!」
「オブザイア殿となら、俺は死んでもいい!」
駄目だ。話が全く通じない。
オブザイアの知っている傍若無人の王とは違い過ぎる。
しかし、女王を見れば変わるかも知れない。
女王は美しいと噂が一人歩きしているが、実際美しい。
しかも女王を手に入れる事は、女王の治める広大な領土をも手に入れる事でもある。
「王は待ってろ。女王に会わせる。」
誰も居ない広い玉座の間に王を一人残し、オブザイアは女王を呼びに部屋を出た。
やがて、深紅のタイトなドレスを纏った銀髪の美しい女が一人、部屋に入って来た。
女は玉座に向かい、腰を下ろすと王笏を若き王に向ける。
「その方、傍若無人の王よ。
そなた…名は何と申す?」
「……オブザイア殿はどこに?」
「質問には答えぬか。
傍若無人の王よ……先に名乗れだのと悪態をつかれるのだろうと思ってはいたが……
まさかオブザイアの名が出てくるとはな…。」
女王は呆れ果てた。
若き王は、二人きりの玉座の間でもひっきりなしに辺りを見回し、オブザイアの姿を探した。
「傍若無人の王よ。
お主が妾の敵ではないと分かれば、オブザイアもお主への警戒を解くであろう。」
「アンドリュー…」
「……だけか?国の名は言わぬのか?」
「王としての名は捨てた。
…これからは、オブザイア殿の妻アンドリューで!」
「ブフー!」
片手を頬に当て慣れないしなを作って女らしさを見せつつ宣言した若き王に、玉座に座る女王が思わず吹いた。
「ケホッ…な、何を言うておる!?
そなた、自分の国に戻るつもりはないのか?」
「無い!オブザイア殿の傍を離れたくない!」
若き王のオブザイアに対する熱愛ぶりは想像以上だ…。
オブザイアを諦めるつもりはないのか?
そもそも会ったばかりだろうに……。
女王は頭をかかえた。
「アンドリューよ…まずは…
その血まみれになった身体を洗うが良い。
浴室に案内させよう。」
「風呂……!オブザイア殿と一緒に入っても?」
「入れん!お前は…!
妾の姿を見ても何とも思わないのか!?
侍らせようだとか、自分の欲望を発散させようだとか…!
美しいと噂される妾を何とか手に入れたいとか!」
「まっっったく思わない。
今は、限りある人生の時間、1秒でも長くオブザイア殿を見ていたい。」
よく分かった。こいつは病気だ。
恋の病なんて可愛いもんじゃない。変態末期。