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傍若無人な若き王。その名を棄てる時。

彼の国は、広い国土を有する国。


孤高の女王と謳われる若く美しい女が治める国。


その国を攻め落とそうと幾度と無く戦を仕掛けられ、その都度返り討ちにし、逆にその国を攻め落として国土そのものを奪ったり、歯向かう意志が無いなら属国としてきた無敗の国である。


彼の国には狂戦士と呼ばれる化け物のような戦士が居る。

その戦士達の頂点に座する、美しく冷酷な孤高の女王。




は、今

玉座に座って頬を赤く染め、薄く口元に笑みを浮かべてぽやんとしていた。


「デルフィナ……執務中は昨夜の事を忘れなさい。」


父であり、先王のダイオスが苦笑しつつも嬉しそうに言えば、デルフィナがバッと両手で赤く染まる頬を包んだ。


「な、な、何で分かるんですか!父上!!」


いや、分からないワケが無いだろう?とは口にしない。


デルフィナはここ数日、アンドリューと仲違いしたのか意気消沈状態で、鬱々としていた。

笑顔を見せず、泣きそうな顔をしていた。

消え入りそうな程に憔悴した姿はまるで、すぐにでも土に還りそうな程に萎れた花のようだった。


その花が今、色も鮮やかに見事に咲き誇っている。


言わずもがな…何があったか分からないワケが無い。


「デルフィナちゃん!やっと、オンナになったわね!でも意外だわ、足腰立たなくなるまでガンガンされるかと思っていたもの!」


いつの間にか玉座の間に現れたデルフィナの母、マリアンナがふんぞり返って偉そうに言えば、夫のダイオスが慌てる。


「マリー!そんなハッキリと…!恥ずかしがるから、やめてあげなさい!」


夫のダイオスに後ろから腰を抱かれ、口を押さえられるマリアンナ。


「……それが、アンドリューが……私が初めてだから、優しくしてくれたのです……アンドリューも、そういう抱きかたは初めてだったみたいで……その…」


「なるほど!初めて同士で、たどたどしく、初々しく、イチャイチャして、気持ちよくオンナになったと!」


「マリー!!!!」


頬を赤く染めて恥じらうデルフィナに対し、目を輝かせるマリアンナはダイオスに口を押さえられた状態でも止まらない。


「デルフィナちゃん、今夜はそーゆーワケにはいかないかもね!今夜はオブザイアが抱かれる番よ!!」


ビシッと人差し指でデルフィナを指すマリアンナに、デルフィナが固まる。


「……え?」


「当たり前でしょう!アンドリューは、デルフィナとオブザイアの夫なのよ!オブザイアがアンドリューを抱けないのだから、抱かれるしかないでしょう!?」


「い、意味が分かりませんけど!!そうなんですか!?」


混乱したデルフィナが助けを求める様に父のダイオスを見るが、ダイオスは口元に引き攣り笑いを浮かべて無言で目を逸らした。


「た、確かに…アンドリューが先に好きになったのはオブザイアですし、昨夜も自分は欲張りだから二人が欲しいと言ってました!こ、これは…私が…いや、オブザイアが頑張るしかないのでしょう!!」


昨夜初めて愛する夫に身を任せたデルフィナは、まだ興奮状態が続いており、テンションが高く怖いもの無しな状態にある。


「分かりましたわ!今夜はオブザイアで!アンドリューに身を任せます!!」


「そうよ!その意気よ!デルフィナちゃん!!ガンガン攻められちゃって!」


「マリー……」


ダイオスはため息をついて諦めた。

幼い少女の様な可愛い妻は、面白がってはいるが常に娘のデルフィナや夫である自分、この国の事を大切に思い、考えてくれている。


そんな妻が冷たいのは、実兄であるサーリオンに対してだけだ。


その理由はサーリオンがダイオスを、あるいはダイオスが女狂戦士に変化したカラナィアを狙っているからだという。








玉座の間を出たダイオスとマリアンナは、王城の長い廊下を並んで歩きながら話をする。


「マリー……昨日、デルフィナが女性としての初めてを経験したばかりなのに…すぐオブザイアにも…?何て言うか…早過ぎ無いかい?」


「早い方がいいんですよ。デルフィナも、オブザイアも同じ一人なんですもの。差を付けたらいけません。アンドリューには、どちらにも同じく愛を注いで貰います。そして、どちらの支えにもなって貰わなければ。」


ダイオスが並んで歩くマリアンナの腰をそっと抱き寄せる。


「じゃあ私も……今夜は久しぶりに、カラナィアで君を愛してもいい…?」


「あら……うふふ……勿論ですわ!久しぶりにカラナィアと愛し合えるなんて、楽しみだわ!」


マリアンナが腰を抱くダイオスに、そっと寄り掛かる。


「女同士で楽しみましょう?」



アンドリューは日中、自室である元貴賓室から出て来なかった。

デルフィナと共に朝を迎え、デルフィナが公務にと玉座に向かった後


デルフィナの伯父であるサーリオンが、アンドリューが先王として治めていた国からの書簡を秘密裏に持って来ており、誰にも知らせる事無くアンドリューに渡した。


「愛するダイオスと、妹マリアンナ、姪のデルフィナを騙す様で心苦しいが、これはかつて王として国を治めていた俺からの、同じく王として国を治めていたお前に対する……まぁ、土産みたいなもんだ。」


「……土産?そんな言い方しますか、元獅子の国の王よ。」


「ならば試練か?」


「試練にはなりませんよ。俺の心はこんなもので動かされません。」


書簡に書かれていたのは


愛する夫が生きていると信じて待っている妻の、いかにアンドリューを想っているかがツラツラと書き連ねてあった。


そして、生きているのだから戻って欲しい。


囚われているのならば、助けに行くから内側から手引きして欲しいと。


我が国が彼の国を攻め落としたら、アンドリューは世界に名を轟かせる程の大国の王となるでしょうと。


自分は、その妻としてアンドリューを支えますと。


彼の国の妻が気に入っているならば、第二夫人とすれば良いでしょうと。



サーリオンの前で読んでる内に、アンドリューのこめかみに青筋が立ち、身体から怒気が昇る。


「……まぁ、確かに……試す意味も無かったか。」


サーリオンは剣に掛けた手を離した。

書簡の内容等、見ずとも分かる。

その甘言にアンドリューが僅かでも心揺らいだならば、サーリオンはアンドリューを斬って捨てるつもりでいた。


「王座に未練は無いのだな。で、返事はどうする?書くつもりならば届けるが?」


「では、これを」


アンドリューは今、目を通した書簡をナイフでバラバラに切り裂いて、その欠片を全てナイフに串刺した。


「……ほう。分かった、渡しておこう。言伝てはあるか?」


ナイフを渡されたサーリオンが楽しげに口元に笑みを浮かべる。


「言伝て……そうですね、掛かってこい。返り討ちにしてやると。」


「ハハハハハ!!分かった。俺はお前を、姪の夫として認めてやろう。」


サーリオンは豪快な笑い声をあげながら部屋を出て行った。



アンドリューは一人、自室で窓の外の高い空を見上げながら、今までの人生を振り返る。


あの国に生まれて、御輿として取り替えのきく王にされた自分は、いつ死んでもおかしくはなかった。


欲しい物は何でも与えられ、奪う事も後押しされ、自由で傍若無人に振る舞う王だと呼ばれる様になったが、本当に自分が欲しい物が何かは分からず、自由という言葉の意味さえ分からなかった。


取り替えのきく王は、いつ、いきなりその命を奪われるかも分からない。

だから命を奪われる場面に遭遇した時に、国が決めた自分の役目が終了したのだと覚悟した。


命が消える覚悟をした俺の前に現れた狂戦士は、偶然という形で俺の命を救った。


狂戦士オブザイアを目にした時、たった一人で臆する事無く立ち向かって来たその圧倒的な暴力と存在感の強さに、惹かれずにはいられなかった。


美しいと思った。


この人に殺されるのなら、取り替えのきく人形のひとつである自分の人生も、意味のあるものになるのじゃないかと。

自らの死を自分で選べるなんて、なんて自由なんだろうと思った。

いつ殺されてもいい、その日までオブザイアを見ていたい。




気が付けば、オブザイアを愛していた。

殺されてもいい、だが、共に生きたい。

ずっと一緒に居たい。

愛している…愛されたい……。


ああ、俺は初めて心の底から「欲しい」と思ったのだ。


オブザイアが、今まで謎の美女とされていた彼の国の女王と同一人物と知り、女という生き物は性の発散相手としてしか認識していなかった俺はデルフィナを好きにはなれなかった。


愛するオブザイアと同一人物だと分かっているのに、女である。それだけで侮蔑の対象になってしまった。


だが、デルフィナはやはりオブザイアだ。


全く違う外見、言葉遣い、誰がどう見ても同一人物たりえない。

なのに、俺には分かるようになった。


オブザイアもデルフィナも、同じ心を持っている。


初めて……女を、愛しく思った。


オブザイアも、デルフィナも、二人とも好きだ、欲しい!

俺だけの物にしたい!!


一度そう思ったら、もう止まらなかった。

傍に居て共に居るだけでは我慢出来なくなった。


俺はいつから、こんな欲張りになったのだろう……。

欲しい欲しいと駄々を捏ねる子供と一緒だ。


だが、初めてなんだ……こんなに何かを欲したのは。


他には何もいらない、デルフィナとオブザイア、この世にただ一人のお前が欲しい!!



そして俺は、欲しい物が簡単には手に入らない苦しみを知った。



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