傍若無人な若き王。
「そのような者がいるならば、遠くから毒矢を放てばいいだろう。」
全容が定かでない「彼の国」を恐れ、手をこまねいている諸々の国を差し置いて、若い王の治める国が宣戦布告の狼煙を上げる。
その王は傍若無人。
欲しい物はどのような手段を用いても手に入れてきた。
気に入らない物はどのような手段を用いても排除してきた。
人を人とも思わない。
「彼の国の女王は美しい女だと聞く。
そのような女ならば、俺の物になるにふさわしい。」
傍若無人な若き王にとって、女は自分を彩る飾りでしかない。
「国境に軍を送れば出て来るのだろう?
その狂戦士とやらが。
そこに毒矢を放てば良いのだ。」
王は狂戦士を誘き寄せる道具として軍隊を生け贄にするつもりだ。
狂戦士が出て来れば軍隊の誰一人生き残れないだろうと分かっていて。
命令を出す王は誰の目も見ない。
たかが道具の表情など見ようともしない。
だから気付かなかった。
身分の差があれど、彼等も自分と同じ人である事。
感情がある事。
怒りを憎しみを恨みを孕んだ目が自分に向けられていた事すら。
彼の国との国境近く。
傍若無人な若い王は自らが指揮を取って遠征してきたこの場所で、拠点として築いたテントから引きずり出されていた。
王を護る者は誰も居なかった。
星の無い夜。糸のように細い月が空に浮かぶ。
引きずり出した王を取り囲むのは王の国の者ではなかった。
女王治める「彼の国」を狙い、それでも手をこまねいていた国のひとつ。
その国の下級兵士達だ。
十五人以上は居るであろうか。
「お前を殺してくれと金を渡された。」
「お前を殺し、首を持ち帰れば俺達は英雄だ。」
「お前を憎んでる奴らはごまんといる。」
「頼んだのは、お前の側近たちだ!」
男達に怒号を浴びせ掛けられ、王は初めて人の表情というものを見た。
下級兵士達は王を嘲り、笑い、自分を殺す事に何の躊躇いも無いと理解してしまった。
王を殺すように依頼したのが、自分の側近達。
その言葉に偽りは無いのであろう。
現に、王の周りには王を護る者が一人も現れない。
「……!」
助けてくれ!
そんな言葉は口が裂けても言えない。
下賎の者に許しを乞うなど愚かだと思うプライドのせいもあるが、側近たちにそこまで自身を憎ませたのは自分。
…言ってしまえば自業自得が招いた結果だ。
若き王は、死を覚悟した。